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初恋


見月みづき中学校には高嶺の花がいる。

これは俺の地元でも中々に有名な話。

だから俺と同じ高校に進学するって話を聞いた時少し、ほんの少しだけ興味が湧いた。

まぁ俺は人を外見で判断する人間じゃないし、ただ本当に興味本位ってだけ。

いざ入学して噂の子を探してみようって思ったけど探す必要なんて全く無かった。


圧倒的に周りとは違うオーラを醸し出している女の子が一人。

流石の俺もあまりの綺麗さに息を呑んだ。

こんなに綺麗な人生まれて初めて見たって本気で思うくらいには。

まぁでも関わることなんてないだろうなって。

そう思ってたけど二年になって同じクラスになった。

だけどあの子はいつも一人。

友達にたくさん囲まれて過ごしているのかと思ったけど違うらしい。

みんなは高嶺の花だからわざと近づかないって言ってるけど、なんていうか俺はあの子自身が近づかないでってオーラを出してる気がする。

一人にしてってなんか聞こえる気がするんだ。

だから妙に気になって仕方なくていつも目で追ってた。


そうしてたらいつの間にか好きになってた。

誰かを好きなったことなんて無かったから最初はこの感情がよくわからなかった。

だから今まではなんとなくこれが恋なのかな、その程度の認識だったわけだけど。


煌が転校してきて彼女と仲良くなってく様を見せつけられたら、これまで感じたことのない痛みに襲われて。

今まで誰とも親しくならなかった彼女が煌には心を開いて、笑顔を見せてさ。

彼女が笑ってるところなんて煌以外の前で見たことがない。

君を笑わせるのは俺が良かった、なんてどっかのドラマみたいなセリフを吐いてみたり。

彼女の何処にここまで惹かれたのか正直自分自身よくわからない。

恋だの愛だのなんて俺とは無縁だと思ってたし。


あぁ、でも麗奈のことは特別。

俺の大事なたった1人の幼馴染。

俺のことを誰よりも理解してくれる大切な人。

だからいつかは言われるんじゃないかって思っってた。


「海人さ、バレバレだよ」


呆れ顔でそういう麗奈にやっぱりお前にはバレちゃうか、って。


不意に考えてみたら麗奈のそういう話聞いたことなかったな。

好きな奴とかいるのかな。

少し気になって聞こうと思ったけどやっぱやめた。

なんとなく聞くべきじゃない気がしたから。


「幼馴染じゃん」


そういう麗奈の表情がいつもと違って見えたのは俺の気のせい?

 

気づけば明日から夏休み。

後ろで繰り広げられる二人の会話に耳を離せずにいる。

そっと振り返ってみれば完全に二人の世界に入り込んでいて、俺なんて視界にすら入っていない。

それが悔しくて、少しでも彼女の視界に映りたくて。


「俺も一緒に行っていい?」


かなり勇気を出して聞いたけれど彼女の目を見ては言えなくてさ。

空気読めよって煌からの視線を感じるけど、俺馬鹿だから気づいてない振りしてもわかんないよね?


「淡島さんも良いよね?」


賭けに出た言葉だったけれど案の定彼女は気まずそうに目を伏せるだけ。

まるで助けを求めるみたいに煌の方を見るから俺は完全に悪役だ。

会話してるはずなのに俺だけぽつんと取り残された気分。

見つめ合う二人を見てるとまるでおとぎ話に出てくる王子様とお姫様みたいで、果てしのない疎外感。

せいぜい俺は二人を守る護衛かな。

なんて訳のわからないことを考え始めたところで思考を止める。


「あー…ごめん。嫌だったよね、忘れて」


居た堪れない空気に思わずそう言えばあからさまに安心した顔をお前はするんだから、わかりやすいよな本当。

あの二人の世界には入れない、いつしか誰かが言ってた言葉が頭に反復する。

俺もその内の1人だったな、なんて悲しむ資格もないくせに。

俺も周りと同じように素直に諦めよう。

そう思ってたのに、君はどこまでも諦めさせてくれないね。


「ううん、大丈夫。みんなで行こう」 


君がチャンスをくれるなら俺は必死になってその運命を掴むよ。


少しの希望をかけてはいたつもりだったけど現実はやっぱりそう甘くない。

わかってはいたけど麗奈から伝えられた言葉は俺にとっては残酷なもの。


「桜ちゃんやっぱり煌君が好きみたいだよ」


あぁ、そうだよな。

煌を見つめる彼女は恋する少女そのものだった。

大きな瞳がキラキラして輝いて微笑む彼女の横顔は本当に綺麗で、その瞳に映りたいと思ってしまった。


「海人には高嶺の花は無理だよ」


そんなの自分が1番わかってる。

頭では理解してるつもりだったけどつい麗奈に当たってしまった。

麗奈も俺の大事な人なのに。

謝らなきゃ、そう思って振り返るけどもう麗奈の姿はなかった。

きっと俺が落ち込まないように麗奈はわざといつもみたいに接してくれただけなのに。

傷ついた表情をした麗奈の顔が忘れられない。


「ごめんな、麗奈」


俯きながら絞り出した声は街の音に紛れて消えていく。

沈みかけた夕日を見て何故だか泣きたくなってくるのは、失恋の痛みなのか友達を傷つけた後悔なのか。

だけど俺は彼女と麗奈、どちらの方がより大切かと問われれば迷わず麗奈と答えるよ。

たった一人の大事な幼馴染。

わかってたはずなのに、傷つけてごめん。

ちゃんと謝らないと。 

ズボンのポケットからスマホを取り出し、迷わず麗奈のトークルームを開く。


『ごめん。』


何度も打っては消してを繰り返してやっと送れた言葉はたった3文字の謝罪の言葉。


励まそうとしてくれたのにごめん。

俺のためにわざわざ聞きに行ってくれたのにごめん。

いつも迷惑かけてごめん。


言いたいことはたくさんあったけどこれを全て送るのは違う気がして。

麗奈ならきっとわかってくれるはず。

こんな時もお前に甘えて情けないけどこの方が俺らしいと思ったから。

大丈夫、今までだって喧嘩はしたことある。

だけどいつもすぐ仲直りできてたんだから安心しろ、俺。

そう思うのになんだか今回はそう上手くいかないんじゃないか、そんな不安があった。


あれから一向に既読にならないトークルームを開いては消してを繰り返し、焦りが募る。


『怒ってる?』

『明日家に行ってもいい?』


こんな言葉を打っては消してを繰り返して気付けば夜中の1時。

普段ならすぐ返ってくるのに既読すらつけてもらえないなんて。

俺からのメッセージにはとっくに気づいてるはず。


『寝ちゃった?ちゃんと謝りたくて』


そう打ち込んだメッセージを送りたくても肝心の送信ボタンを押せずにいる。

こんなことならあの時すぐ引き返して直接謝りに行けば良かった。

なんて今更遅いんだけどさ。


ピピピッといつものアラーム音が鳴り響く。

結局一睡もできず朝を迎えてしまった。

いつもならここで身支度を始めるけどもう夏休みに入ってるから学校で会うこともできない。


麗奈とのトークルームを開けば未だ未読のまま。

体調崩したんだろうか、それともやっぱり物凄く怒らせてしまったんだろうか。

悪い方へばかり考えてしまう。


「やっぱり直接謝りに行こう」


身支度を簡単に済ませ、急いで階段を駆け降りる。


「ちょっと海人!朝ごはんは?」

「ごめん!今日はいいや!」


母親がまだ何か言っていたような気もするけど心の中でごめんって謝りながら無視して玄関を飛び出す。


早く麗奈に会いたい。

いつもの笑顔がみたい。


そう思いながら麗奈の家を目指して走り出す。

だけどふとここである違和感に気付いて立ち止まる。


「この感情は…」


この想いは友達へ向けるものなのだろうか。

思えばすっかり淡島さんのことを忘れていた。

俺は彼女が好きなはずなのに。


色々な感情が溢れて頭が混乱してくる。


「…やめよう」


こんな状態で麗奈に会うのは。

また麗奈を傷つける言葉を吐くかもしれない。

麗奈の元へと進めていた歩みを止め、もと来た道を戻り始める。


幼い頃からずっと一緒にいた。

それが当たり前だと思ってた。

俺が何をしても麗奈は笑って受け入れてくれると思ってた。


俺はずっと麗奈に甘えてたんだ。


だけどこれが恋愛感情なのかわからない。

現に俺が今1番気になる人は淡島さんであって。

煌と一緒にいるのが許せなくて、悔しくて。

こんな感情初めてだったからきっとこれが恋だと思ってた。

…いや、俺は彼女に恋はしていたんだと思う。

だけど本当に大切で失いたくない人は別にいるんじゃないか。


「今更気付いて、もう遅いよな…」


失いそうになって初めて気づく大事なもの。

俺ってほんとどうしようもない馬鹿だ。


麗奈とのトークルームを開けば相変わらず未読のまま。


もう、だめかもしれない。

なんて謝ればいいかもわからない。

俺が好きなの淡島さんじゃなくて麗奈なんだって、今更だけど気づいたんだって馬鹿正直に言えば少しは伝わるものもあるかもしれない。


だけどもし拒絶されたら?


二度と今までみたいには戻れなくなったら?


そう思うと怖くて、何もできない。


「ごめん、ごめんな、麗奈」


うわ言のように呟いた言葉は風の音に紛れて消えていく。

届きもしない想いを、届けることもできない想いをどう消費すればいいのか誰か教えてよ。


俺が壊れる前に。

次回「気づきたくなかったもの」

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