綺麗なあの子
高校入学する前から噂には聞いていたけどいざ実物を目にしたらあまりの綺麗さに息を呑んだ。
私自信昔から男女問わず「可愛い」って言われてきたけどレベルが違い過ぎる。
同性でも見惚れてしまいそうになるほどの整い加減はまるで精巧に作られた美術品のよう。
だから勝手に期待してた。
こんなにも外見が良いなら内面は最悪だろうなって。
二年になって同じクラスになってからいざ粗を見つけてやろうって思ったけど到底無理だった。
だって誰とも関わらないから。
さぞかし友達が多くて男だって取っ替え引っ替えなのかと思ってたのに、そんな事無さそうで無性に苛つく。
誰とも話さないくせにやっぱり周りはもてはやすから余計ね。
隣の席は奪い合いになるから空席?
そんなの聞いたことないんだけど。
担任だってあからさまに贔屓しちゃってなんなの。
でもどうでも良い人から好かれてるのはまだ良かった。
私がずっと好きだった人までそうなるなんて。
授業の合間の少しの休み時間。
お昼は友達と食べに行ってしまうからこの時間くらいしか海人と話せる機会がない。
「何見てるの?」
「いや、なんでもない」
最近こういう事が増えた。
私と話してるのに私を見てない。
海人とは幼稚園からの幼馴染だった。
私はずっとずっと海人の事が好きだった。
だからなんとなく気づいちゃったよ。
海人があの子の事を好きだって。
「海人さ、バレバレだよ」
「え?」
「目で追ってるのわかってるんだから」
「うそ、マジで?」
照れたように笑う海人を見て心が締め付けられそうになる。
私にはそんな顔したことないくせに。
「やっぱりお前にはバレちゃうか」
幼馴染だもんなって言う海人に曖昧な笑顔しか返せなくて。
「…いつから好きだったの?」
「恥ずかしいからお前にもそれは内緒」
「なんでよ、幼馴染じゃん」
゛幼馴染゛この言葉が大嫌いだった。
こんな言葉が無ければ今頃海人と幼馴染以上の関係になれていたかもしれないのに。
…本当はわかってる。
幼馴染って言葉が無かったとしても友達以上の関係にはきっとなれてなかったって。
長く一緒にいるんだもん、わかるよ。
だけど今まで海人に彼女がいたことなんて無かったし、誰かを好きになってる様子だって無かった。
それなのにやっぱり男って外見が全てなの?
あの子と同じクラスになってから海人の様子は変になった。
あからさまに目で追ってさ。
外見で好きになったのなら私に勝ち目ないじゃん。
そう思うくらいにあの子は憎らしい程綺麗だった。
「麗奈!俺マジ運すごくない?」
席替えであの子の前の席を引き当てた海人は物凄く上機嫌だった。
毎日近くにいられるだけで嬉しいって言ってた海人だけどあの日を境にそう言わなくなった。
転校生がうちのクラスにやってきてからは。
「明日転校生がくるらしいよ」
「え、どんな人だろ」
そう言う友達の話を興味津々に返している素振りを見せてるけど本当は心底どうでもよかった。
友達って言ってるけどあくまでクラスで一人にならない為の友達に過ぎないし。
あぁ、これじゃ友達って言わないか。
でもどうせ向こうだってそう思ってると思うしフェアじゃない?
「イケメンだといいな〜」
「わかる、高身長で性格良しも追加で」
あははって互いに笑えば楽しんでる感じがでるでしょ。
転校生なんて本気でどうでも良かったけど教室に入ってきた瞬間目を奪われた。
イケメンとかそんな言葉じゃ収められないくらいの整い加減。
教室は瞬く間に女子の黄色い歓声で包まれる。
この人ならあの子の隣に立っても不自然じゃないんだろうなってそんな事を漠然と考えていた。
転校生の煌君はあんなにも綺麗な容姿をしてるのにそれを鼻にかけない人だった。
男子達にも初めは毛嫌いされてたけど今では輪の中心にいるし。
どうして綺麗な人は心まで綺麗なの。
どうせなら腹黒くあってよって思うのに。
だけどちょっとだけ安心したの。
あの子と煌君が良い感じになってくれたから。
所詮あの子も女の子なんだなって、カッコいい煌君には心を開いたみたいだし?
でも賢いと思うよ。
煌君が相手なら他の男子も下手げに出れない。
あの容姿に勝てるなんて思えないから。
他の男を寄せ付けない為に煌君を隣に置くことにしたのかな、なんて考える私は性格悪い?
他の男子が続々と諦めていく中でどうしてかな。
海人はむしろ闘争心を燃やし始めちゃって。
「淡島さんもやっぱりああいうのがタイプなのかな」
「さぁ、どうだろうね」
「俺もさわやかな雰囲気で笑えばいいのかな?」
ああでもない、こうでもないって言う海人の話を聞くのは辛かった。
なんで好きな人の好きな人の話を聞かなくちゃいけないの。
あの子には煌君がいるんだから諦めてよ、そう何度も言いそうになったけど言えなかった。
…あの二人を見てる時海人は本当に悲しそうな顔をするから。
だから元気付けて上げようと思って花火大会に誘った。
「ありがと」
って笑う海人の心にはきっとあの子しかいなくて。
「なんでも奢ってあげるから」
「うわ、お前最高じゃん。持つべきものは幼馴染ってね?」
「感謝してよね」
お互い笑ってるけど互いに無理して笑ってる。
私がこんな風に思ってるって海人は気づいてないでしょ?
何年も一緒にいたのに、ちょっと酷いよね。
だけど好きなのやめられないんだから私もたちが悪い。
こじつけた理由だったけど花火大会は一緒にいれるって思ってたのに。
「俺も一緒に行って良い?」
そんな爆弾発言するなんて思わないじゃん。
あの二人の中に入ろうとする人がいるなんて、思うわけないじゃんか。
元々海人と煌君は仲良くしてたけどたぶん海人的にはあの子に繋がる為でしょ?
たけどまさかこうなるなんて考えなかった。
だから思わず駆け寄って半ば叫ぶように言ってしまった。
「私と行くって言ったじゃん」って。
この時初めてあの子と目が合ったけどムカつくくらい本当に綺麗で、きっと無意識に睨んでしまってたと思う。
分かってよって目線で訴えかけてくる海人には気付かない振りをして。
じゃあみんなで行けば良いなんて言うからもっと最悪。
だけど三人で行かれるくらいなら私も一緒の方がまだ良いから、察してよってあの子を睨む。
伏し目がちに大丈夫だよって言うからなんだか私が悪い事してるみたいな気分になる。
海人だってデレデレしちゃって馬鹿みたい。
いや、一番馬鹿なのは私か。
長年実らない恋を続けて、気持ちも伝えられない私の方がよっぽど。
でも本当にこの二人に入る隙はないと思うよ、海人。
あの子の事になると少し感情のたかが外れるみたいだし。
煌君のあの目、普段怒らない人こそ怒ると怖いってほんとだね。
何も上手くいかなくてただひたらすにイライラする。
だからあの子に聞いてみようと思って。
全然同じ帰り道じゃないのに一緒だなんて嘘をついてさ。
海人には怪しまれたけどあの子の好きな人をリサーチしてきてあげるって言ったらすごく喜んで、本当に馬鹿っていうかお人好しっていうか。
だから本気でムカついたの。
「私そういうのよくわからないかな」
そう言ったあの子の言葉に。
どうせ私が海人を好きって気づいてるでしょ?
そうだよ、牽制してるの。
貴方は大人しく煌君と付き合いなさいって。
そもそもそんなに綺麗なのに恋愛経験無い?
あり得るわけ無いじゃん、そんな嘘つかないでよ。
私は潔白です、純情ですってしてる所が嫌いなんだよ。
本当は心の中真っ黒なんじゃないの?
「私はこっちだけど桜ちゃんは?」
適当に左を指さして言えば反対の方を指差すから、あぁ良かったって思った。
これ以上一緒にいたら頭可笑しくなりそう。
あの子の姿が見えなくなってから元来た道を戻る。
…海人には申し訳ないけど嘘をつかせてもらうね。
あの子はやっぱり煌君が好きみたいだよって。
海人は素直だからきっと信じてくれるはず。
そしたら花火大会だって行かなくなるんじゃない?
性格終わってるなって自分でも思うけど初めのスタート位置から違うんだからこれくらい許してほしい。
だけど海人を幸せにできるのは私だって思ってるのは本気だから。
…いつか伝えさせて、この想い。
トボトボと妙に重い足を無理やり動かして帰ってきた家の前には今は会いたくなかった人。
「おー!遅かったじゃん」
「…どうしたの?」
本当はなんでここにいるのかなんて分かってて違う答えを期待して聞いてみたけど世の中そんなに甘くない。
「いや淡島さんどうだったかなーって思って…」
照れたように頭を掻きながら言う海人に心が死んでく音がする。
「…桜ちゃんやっぱり煌君が好きみたいだよ」
「あー…そっかぁ」
悲しそうに目を伏せて笑うから嘘ついてごめんって心の中で謝るんだ。
「あの二人お似合いだと思う。海人には高嶺の花は無理だよ」
冗談っぽく言ったのに海人の顔は全然笑ってなくてどうしようって焦る。
「お前はそんなこと言わないって思ってたのに」
「えっ…ごめん」
足早に去っていく海人をただ見ていることしかできなくて。
ここで走って追いかける勇気があれば良かったのに。
そんな度胸もないからこうなるのかな。
もうどうすればいいのかわかんないよ。
逃げるように玄関をくぐり抜けて自分の部屋のベットへとなだれ込む。
枕を顔に押し当てて声を押し殺して泣くの。
自分の為に海人を傷つけて…私最低だ。
自分のことしか見えてなかった。
でもそれでもやっぱり諦めきれないよ。
10年以上の片想い、そんな簡単に消せそうにない。
だけど海人、本当にあの子は煌君の事が好きだと思うよ。
何でかはわからないけどあの子は自分の気持ちに蓋をしてる。
どうみたって両想いなのに二人揃ってバレないようにしてるんだから。
好きな人と両想いになれるなんて本当にすごいことなのにどうして?
私頭良くないからわかんないよ。
やっぱりごめん、海人。
どう頑張っても海人の恋を応援することはできなさそう。
私じゃあの子の代わりは務まらない?
頑張るから、お願いだから私を見て。
次回 「初恋」