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神様


「神様は悪い人だね」 


咄嗟のことに避けられなかった。

慣れない手つきで私の涙を拭ってくれた時に彼の寿命が見えてしまった。 

こんな気持ちになるからもう誰とも関わりたくなかったのに。

寿命の長さは前世の行いの良し悪しなんて言う人もいるけれどきっとそんな事ない。

だって彼の寿命年齢は…17歳だったから。

こんなにも優しくて他人を思いやれる彼の寿命が私と同じだなんて。

本当に神様がいるなら前世だけじゃなくて今世も見てよ。

私は人の寿命は見えるけれどその原因を知ることはできない。

亡くなる原因が病気なのか事故なのか、分かる術がない。

もしそれも知ることができたら助けられるかもしれないのに。

お母さんの時のように大切な人をもう失いたくないよ。

よりいっそう泣き始める私に彼は困った顔をしながらも優しく涙を拭ってくれる。

若い人の死の原因は大半が事故によるもの。

…だからどうにかして止めてみせる。

彼が私に優しくしてくれる理由が別にあったとしても。

ここ数日彼と一緒にいてなんとなく気づいてはいたけれど今日確信に変わった。

貴方は私に別の誰かを重ねて見ている。


「俺も大切な人を自分のせいで失ってる」


そう言った貴方は本当に辛そうで。

私の目を見てるけど何処か違うところを見ているような感覚がする時が何度もあった。

だけど分からないのは身代わりにするのがどうして私なのか。

単純に考えたら彼の大切な人と私の見た目が似ている、とか。

気になるけれどそんな事はどうだって良い。

私にその人を重ねてみることで貴方の気持ちが少しでも救わるのなら私は嬉しいから。

だからそんな悲しそうな顔しないで。

私の事を利用して良いから。

きっとこの感情がどういうものなのか分かってはいるけど分からない振りをする。

貴方と一緒にいるのにこの感情は邪魔になる。

だからこの気持ちには蓋をするね。

貴方の傍にいられるように。



「明日から夏休みだね」

「桜はどっか行ったりするの?」


あれから季節は過ぎ私の苦手な夏がやってきた。


「うーん…暑いの苦手だからたぶんどこにもいかないかも」

「分かる。俺も暑いのすっごい苦手」


寒い方が良いよねって鞄に教材をしまいながら言う彼に伝えてもいいのか迷う。

夏休みも会える?って。


「冬だったら重ね着すれば大丈夫だもんね」

「そうそう、夏は限界があるから」


今言わないとたぶん夏休みの間は会えなくなってしまうのに素直に言葉にできない。


「どしたの?」

「え?」

「あっいやなんか言いたそうだったから」


そんなに顔に出てたかなって恥ずかしくなる。


「夏休みだなって思って」

「え?うん、そうだね」


不思議そうな顔をして笑う彼。

訳の分からない事を言って笑われてしまった。

そういえばよく考えてみたら彼の連絡先も知らない。

これじゃあ本当に会えなくなってしまう。


「そういえば」


言葉に詰まっていると彼は突然何かを思い出したように話し始める。


「俺達連絡先も交換してなくない?こんなに一緒にいたのに」 


私が言おうとしてた事を言われて嬉しさと驚きから身体が硬直する。


「ごめん、嫌だった?」


何も答えない私に彼はそう言うから全力で頭を左右に振って否定する。


「私も聞こうと思ってたの」

「ほんと?嬉しい」


本当に嬉しそうな顔をするから私も幸せな気持ちでいっぱいになって。


「これで夏休みも会えるね」


私が言いたかったこと全部言ってくれる貴方はやっぱり優しい人。

きっと察してくれたのかなって思うから。


「桜はお祭りとか好き?」

「嫌いではないけど最近は行ってないかな」 


花火大会とかお祭りは人がたくさんいて神経を使うからいつからか行かなくなってしまった。

誰かに触れてしまったらその人の寿命が見えてしまう。

見ず知らずの人でも寿命が見えるのは苦しいから。


「嫌じゃなかったら今度の花火大会一緒に行こうよ」


思いがけない誘いに思考がフリーズする。

正直お祭りには行きたくないけど貴方に会えるなら行きたいって思える。

何も答えないでいるとまた悪い方に勘違いされてしまうから何か早く言わないと。


「行く!」


焦る気持ちからかなり前のめりな返事になってしまって顔が真っ赤になる。

だけど彼はそんな事少しも気にしてない様子で「良かった!」って言うからこれはこれで良かったのかもと思ったり。

そんな話をしていると。


「お前ら一緒に祭りいくの?」


前の席の男子が座ったまま後ろを向いて話しかけてくる。


「そだよ」


私は一言も話した事ないけれど彼とよく一緒にいるから名前は知ってる。

たしか…篠崎海人しのざきかいと君だったはず。

クラスでも目立つ方のタイプでムードメーカーって感じの人。

だからこそ彼とも仲が良いんだとは思うけど。


「えー、ずるい。俺も一緒に行って良い?」

「いやダメだよ」

「なんでだよー、淡島さん良いよね?」


突然私に話題が降ってきて焦る。

どうしよう、なんて答えれば良いんだろう。

チラッと彼の方を見れば笑顔で首を横に降ってるから、大丈夫だよって事かな。

でも本当にそれでいいのかな。

彼はきっと私が嫌だから断っていいよって言ってるのかもしれない。

だけどもしかしたら彼はお友達と一緒の方が嬉しい、かもしれない。

貴方は優しいから言えないだけなのかもって色々考え始めたらきりがなくて。


「あー…ごめん。嫌だったよね、忘れて」 


両手を顔の前で合わせて謝ってくるから申し訳ない気持ちで打ちのめされそうになる。


「ううん、大丈夫。みんなで行こう」


下を向いたままだったけどなんとか絞り出せた言葉。

チラッと篠崎くんの方を見れば明るい表情になってくれていて胸を撫でおろす。


「マジ?ありがとう、淡島さん!」


変わったなって自分でも思う。

でもやっぱり人と関わろうとしてる訳ではなくて、煌くんに喜んで欲しかったから。

私が誰かと関わるとその人が不幸になってしまうかもしれないのには変わりない。

だって私は死神だから。


「いいの?大丈夫?」


私にしか聞こえない声で聞いてくる貴方は本当に優しいね。


「大丈夫、みんなで行ったほうが煌くんも嬉しいでしょ?」 


少しぎこちなかったかもだけど笑って言えたはず。

だけど喜んでくれると思ったけどなんだか浮かない表情をしていてどうしてだろう。


「私は大丈夫だよ」


そう言葉を付け足せばいつもの笑顔を見せてくれるから、あぁ良かったって。


「ちょっと海人お祭りは私と行くって言ってたじゃん」

「え?あれ、そうだった?」


いつの間にか会話に参加していたこの女の子は…顔は分かるけど名前が分からなくて困る。

同じクラスだけど誰ともほとんど関わりが無いから大抵の人の名前を覚えていない。

だって覚えていても話さないなら意味ないでしょう?


「ごめんって。それならみんな一緒に行けば良くない?」

「いやお前流石にそれはさ」


だよね?って目線だけで訴えてくる。


「えっ私は…」


女の子の方を見れば何故かとても睨まれているから、きっと篠崎くんのことが好きなんだろうなって分かった。

それならこれはきっと断るべきじゃない。


「私は、大丈夫だよ」

「ほんとありがとう淡島さん!」


肩にポンッと手を置かれるから急いで視線を逸らす。

篠崎くんの寿命が見えないように。


「とりあえずこのメンバーでグループ作ろうよ」


篠崎くんがあれよあれよと事を進めていつの間にか私のスマホには「夏祭りメンバー」って言う名のグループができていた。

おばあちゃんの連絡先くらいしかなかった私のスマホに一気に三人も増えたからなんだか違和感。


「グループ名そのまま過ぎじゃない?」


女の子が笑って言うからそれはたしかにって思わず頷いてしまう。


「…頷いてる」


まるで奇妙な物でも見たみたいな顔を女の子にされるからほんのちょっとだけ傷つく。

それが顔に出てたのかな。


「いや何その言い方」


煌くんにしては珍しく怖い言い方でびっくりした。


「え、何怒ってんの…」

「怒ってはないけど」


そう言う割にはいつもの朗らかな笑顔がなくて女の子も萎縮してしまってる。

彼の制服の裾を少しだけ引っ張って「気にしてないよ」って意味を込めて微笑む。

申し訳なさそうに貴方も笑うから首を横に振って「大丈夫だよ」って伝わるかな。


「ごめん、ちょっと言い方キツかったね」

「私の方こそなんかごめん。普段淡島さんが人の話に反応してるところ見たことなかったから驚いちゃって」


気まずそうに下を向きながら言う女の子に私もそうだよねって思う。

煌くんと出会うまでは誰とも話さず、誰とも関わろうとしなかったから。

でも今でも彼以外とは仲良くなる気はない。

貴方は私にとって特別な人だから。


「桜ちゃんって呼んでもいい?」

「えっ」


ぼーっと考えていたら女の子から思いがけない質問が飛んでくる。

しどろもどろになりながらも

「うん、大丈夫」って答えれば

「やった!嬉しい!」  

って満面の笑みで笑う彼女。


そんな彼女をみてると可愛いなって思えるの。

本当に彼女が嬉しいって思ってるかは別としてね? 

私には無いものをたくさん持ってるから羨ましくも感じるけど私はどこまでいっても死神だから。

みんなとは同じになれない。


「私のことも名前で呼んで?」


ニコニコ愛想よく笑う彼女にさっき睨まれた事も忘れそうになる。 


「ありがとう。じゃあそうさせてもらうね」

「うん!喜んで!」


正直少し焦った。目の前の彼女の名前が分からなかったから。


「彼女は加藤麗奈かとうれなさんだよ」


そっと私にだけ聞こえる声で呟く彼。


「…よく分かったね?」


私が彼女の名前を知らないこと。


「桜の事はお見通しだよ」


なんてね、って無邪気に笑う彼を見て胸が苦しくなる。

貴方にとって私は。

そう考えかけたところで思考を止める。

これ以上は深入りしないように。


「ごめんね、ありがとう」


精一杯の強がりをこの笑顔に込めて。

楽しそうに話す皆を見てその輪に入りたいとは思わないけど何故か虚しさだけが残る。

煌くんと出会ってから傲慢になってきたように感じる。

誰かと一緒にいる楽しさを覚えてしまった。

誰かと話す嬉しさを感じてしまった。

…私は死ぬまでお母さんに謝り続けないといけないのに。

このままじゃ向こうに行った時お母さんに許してもらえない気がする。

でも煌くんの傍を離れることは今はできそうにないの。 

ごめんね、お母さん。

どんな罰も受けるからどうか許して。


あれから詳しい日程はまた後日決める事になって今日は解散になった訳だけど。


「桜ちゃんは煌君と付き合ってるの?」


帰り道が同じ方向だったみたいで麗奈ちゃんと一緒に帰る事になってしまった。

まだ静かな住宅街を二人で歩く。


「付き合ってないよ」

「えっうそ、ほんとに?」


信じられないといった様子で目を大きく見開く。


「あの距離感と雰囲気で?」

「…変かな?」

「誰がどう見ても恋人にしかみえないよ。桜ちゃんは煌君の事好きじゃないの?」


かなり食い気味で聞いてくるから少し逃げ腰になる。


「そういうのよくわからないかな」

「もしかして桜ちゃんそんなに可愛いのに恋愛経験ないの?」

「えっうん、そうかも」

「…そうなんだ!それなら私が色々教えてあげる」


一区切り置いた間に彼女の真意がある気がしてなんだか怖い。


「大丈夫だよ。私そういうの興味ないから」


歩いていた足取りを突然止める彼女を不思議に思って振り返る。

でも聞こえてしまったんだ、本当は。

すごく小さな声で「なにそれ」って言った彼女の声を。


「そんなこと言わずにさ?花の女子高生じゃん!」


満面の笑みで近づいてくる彼女に恐ろしさにも似たものを感じる。

だけどたぶん彼女はきっと篠崎君の事が好きだから不安なんだよね。

でも安心してほしい。

そもそも篠崎君は私なんて相手にしないと思うよ。

それによくわからないって言ったけど今の私には煌くんしか見えていないから。

この言葉を素直に全部伝えるわけにはいかないからどうしようって悩む。

なかなか何も言わない私に段々と彼女の顔が分かりやすく怒りに満ちていく。

本人は気づいていないみたいだけど。


「私達友達でしょ?」

「…そうだね」


無理やり作った笑顔でそう問いかけてくる彼女に肯定以外の道は無さそうって思った。

これからは彼女の癇癪に触れないように気をつけないと。


「私はこっちだけど桜ちゃんは?」

左を指さしながら言う彼女に

「ううん、私はこっち」

本当は同じ方向なのに右を指差す。


「今日はありがとう!また明日ね!」


そう言って手を振りながら本来私も帰る方向に歩いていく彼女。

これ以上一緒にいると心が消耗されそうだから嘘をついてしまった。

麗奈ちゃんは自分の感情に素直な子なんだろうなって思う。

とても良いことだと思うけど今の私にはちょっと厳しい。

これまで何年も人と関わって来なかったからストレートに感情をぶつけられるとどうしていいのかわからなくなる。


「好きな人、か…」


何年も感情を無くしてきたから誰かを好きとか嫌いとかよくわからなくなってしまった。

そんな中でも煌君のことは大切な人だって思えたし、たぶんそういう感情なんだと思う。

だけど煌くんには別にすごく大切な人がいる。

その人に勝ちたいとかそんな烏滸がましいこと考えないけどこの感情はやっぱり邪魔になると思うから、隠すの。

最後の時まで貴方の傍で笑っていられるように。



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