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9話 光属性魔法

「こ、ここは『ソノラ大陸』でしょ? 魔王討伐はできなかったとはいえ、この地の強力な魔族は全て倒して……未だに私たちを知らない人間なんていないと思ったのだけど。そうだ、勇者の名前なら――」

「残念だがここは日本。その何たら大陸なんてものじゃない。それに魔王? 魔族? 勇者? なんの小説、いや、ゲームの話だ?」

「に、ほん? 何よ、それ? あ、もしかして時間経過で呼び名が変わったのかしら?」


 長谷川さんとサヤの話は全くかみ合わず互いに首を傾げた。


 俺も最初はサヤがわけが分からないことを言うものだから中二病患者であることを疑った。

 だがダンジョンで魔石に変えられていた、つまり封印されていたような状態だったことやその真剣な表情からその可能性はあっという間に消えていった。


 代わりに俺の中には違う可能性が浮かび上がる。

 あまりにも現実離れしているが……その可能性は0じゃないんじゃないか?


「……。俺は『転移』、している気がします」

「転移? ふふ、恭也はそんな冗談も言う男なんだな。柔軟な性格も子供らしいところも嫌いじゃない。が、それはあり得な――」

「俺もあり得ないって思いましたよ。でもその根拠ってなんですか?」

「え? それは一般的に――」

「なんで転移って現象はあり得なくて、ダンジョンの存在は普通に受け入れられているのでしょうか? それに……ダンジョンっていつから存在していたんでしょうか?」

「……。そう、いえば……。なんで疑問に思わなかったんだ、私は」


 すっぽりと抜けていた。

 ダンジョンという存在があまりにも自然に馴染み過ぎて、こんな疑問を俺も長谷川さんも、多分社会全体も抱き忘れている。


「……。あなたたちの様子を見てなんとなく状況が掴めた、かも。多分だけど魔王本人、或いは仲間が魔王の封印を解くためにダンジョンを転移させた。そしてそれを悟られないように、封印を解くことのできる存在を探し、育成……」

「……。俄かに信じがたい話だな。だって万が一それが本当だとすれば、私たち探索者は――」


「だとしてもそれに関わるのは俺たちじゃないないですよ。そんな余裕もなければお金だってないんですから。Sランク探索者とか探索者協会にでも任せましょう」


 そうだ。

 俺は勇者ではないし、英雄になりたいとも思っていない。

 いや、もうちょっとざまぁ経験はしたい気はするけど……。


 ただ今はお金。豊かな生活を目指すのが最優先。


 サヤに協力している場合じゃない。


「悪いけどそう言うことだから、そのうちここに来る人間と一緒に魔王復活阻止でもなんでも好きなことしたらいいさ」

「……。それは無理ね」

「無理? サヤは知らないだろうけど俺より強い人間なんてこの世界には――」

「そういう問題じゃないの」

「じゃあ何が問題なんだ?」

「私を知った上で絶対に襲ってこない。そんな信用のおける人間は私を解放してくれたあなたと、あの人間くらい。それ以外は信用できない」


「つまり、私は信用ならない、と」


 サヤの視線が俺から長谷川さんに映った。

 すると長谷川さんはさっきまでとは打って変わって鋭い目つきへと変わる。


「ええ。それにしてもこの世界の人間がダンジョンを自然に受け入れているってことなら因子持ちの数は相当多いのね……。だからあの人間も……。まぁいいわ。ほら、こうすればあなたも」


 サヤは長谷川さんの手にそっと触れた。

 するとその雰囲気はがらりと変わり緊張感が走る。



「――ふ、ふふ。……。何今の? 今のは、私――。……。……。……。見つけ、た……。やっと……。これで、私は……。は、あ……な、なんだよ。こ、れっ!!」



 ついに長谷川さんの瞳から光が消えた。


「『魔族因子』。発芽する要因は精神の崩れ。あとは今みたいに魔族に敵対する者、私みたいな勇者パーティーの一員と、条件を満たした上で触れ合うこと」



「く、あああ……。あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」



 長谷川さんの身体から黒いオーラのようなものが一気に噴き出した。

 そして、その様子に驚く暇もなくその手はサヤの首に伸びようとする。


 この感じ、長谷川さんがユニークスキルを使った時に似ている気が……。


「って、考えてる場合、じゃないっ!」


 俺は慌ててサヤを抱き後ろに飛んだ。


「く、あぁぁ……」


 俺たちを取り逃がした長谷川さんは苦しむように呻く。


 追撃をしてこないのは助かるが、不気味が過ぎる。


「サヤ! これは一体……」

「魔族特有のスキルで繁栄方法。生殖行為をしない代わりにあいつらは自分が持つ因子を相手に分け与えるの。それでそれが発芽した瞬間、その生き物は獰猛になって種族名を変える」


―――――

種族:人間(魔剣士)

名前:長谷川景

HP:10000

―――――


「これ、ミノタウロスの時に似て……」

「同じような場所にいるモンスターは特別に因子持ち、しかも発芽状態だからね。だからこそあの人間は大変そうだったのだけど――」



 ――べちゃ。



 発芽状態となってしまった長谷川さんを観察。

 すると長谷川さんはわざと口に傷を付けて地面に血を吐いた。


 通常なんてことない、血痕ができるだけの行為。


 だけど長谷川さんにとって血は武器となってしまう。



「――『黒血塊剣生成』」



 地面に落ちた血は黒色に変化。

 そのまま形は剣に。


「これはなかなか強力そうな敵ね。でも、魔石を破壊できるあなたなら簡単に倒せるはず――」

「いや、それはできない」

「え?」

「さっきまで普通に喋ってた人をそんな簡単に殺せるわけないだろ!」

「な、なに言ってるの!? ま、まさかこの状況でそんなこと言うなんて!? ってくる! くるわよ!!」

「わ、分かってる!!」


 サヤが何気なく発芽させたのは長谷川さんを簡単に処理できるからという判断があったかららしい。

 でも当然俺にそんなことできるわけない。


 振り回される長谷川さんの剣。


 それをひたすらに回避、回避、回避。


「こ、このままじゃ折角復活したのに死んじゃうじゃない!」

「そんなこと、いってもっ! この状態を解除できる方法、他にないのか!?」

「そ、そんなのな――」


 戦闘中にも関わらず抱きかかえたサヤと喧嘩のような口調でするやり取り。


 その途中サヤが突然黙った。


「その反応、あるってことだな!?」

「発芽したばかりならまだ……。いや、得意じゃないんから……。でも、それができたとして私の力じゃ一時的に引っ張り出すだけが限界! その後因子を落ち着かせるにはそれを取り入れるか、壊すしかない!」

「なら、壊すっ!」

「そ、そんなの無理よ! 因子はあなたが壊した魔石よりも遙かに硬い魔石で覆われているのよ!」

「やってみなくちゃ、分からないっ!」

「そんな一か八か! 乗りたくないんだけど!」

「頼む! それができたら何でも欲しいもの買ってやるから!」

「なんでもって、なによ!? そんな価値のある物なんて――」

「贅沢に真っ白な砂糖をふんだんに使った氷菓子、最高級の白パン、お湯の無限掛け流し、歯がいらない程やわらくて臭みのない肉、それに――」

「やるわ。それ、全部約束よ」

「おう! 生きて帰った時にはな!」

「じゃあ死なないように接近して! 私の手があれに触れられるように!」


 交渉は成立。

 やっぱり異世界だと甘い菓子なんかは魅力がたっぷりらしい。


「く、あああっ!」

「うっ!」


 そうして俺はサヤの命令通り長谷川さんに接近。

 受けるダメージは固定される、かと思いきや長谷川さんの攻撃威力が高すぎるのか、血でできた黒い剣は俺の頬の皮を切り裂いた。


 血が出て、身体は一瞬硬直する。


 だが、俺の仕事は一先ず達成できた。



「――魔族を晒し、攻め立て、排除する人神の光……。付与光属性魔法:『光掌』」

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