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7話 バケモノ

「今の音って……。……。……。あ、そういえば俺……」

「く、くるっ! あの岩陰からっ! は、早く逃げるぞ! この姿を恥ずかしがってる場合じゃないのはもう理解できてるっ! だから、今度は一緒にに逃げ――」

「いや、その、多分大丈夫です」

「は? いくらお前、じゃなくてあなたが強いからってこの殺気と気配はさっきの、ミノタウロスの比じゃない! 多分だけどミノタウロスはこの先にいるそれから逃げてきた、つまりはそれだけ強敵だってことだ!」


 一度俺を突き飛ばして距離をとろうとした長谷川さんは、いつの間にか赤面ではなく青白い顔に変わり、慌てた様子で近づいてきていた。

 怪我のせいか、必死ではあるものの移動速度は遅い。


 きっと痛みも強くて、本当なら立っているのも辛いのだろう。


 無理に帰還するよりもまずは止血。

 となれば安静にさせることも重要だな。


「長谷川さん、大丈夫です。絶対。まずは止血を。だから、一回落ち着いてください」

「馬鹿っ! この状況で落ち着けるかっ! は、早く逃げ――」



「――わぐあああああっ!!」



 けたたましい鳴き声、それと同時に岩陰にいたミノタウロスよりも強いそいつは勢いよく俺たちの前に立ちはだかった。


「こ、コボルト!? まさかこんな小さい奴が!? いや、見た目で判断はできない。まずはHPを……1、10、100、1000、10000……越え、だと? は、はは……。駄目だ勝てない。こんなの20階層のボスどころか30階層、いや40階層並みじゃないか……。無理だ、こんなの。私じゃ、私たちじゃ……」

「わうっ!」

「きゃっ!!」


 地面に腰を落とした長谷川さん。

 そしてはそんな強力なモンスターであるそいつは戦闘意欲のない長谷川さんを強靭な脚力で飛び越えて、俺の元まで一直線。


「よ、避けてっ! って……。……。……。……。……。何が、起きてるんだ?」

「わうっ!」

「あはははっ! おいルドっ! 寂しかったのは分かるけどあんまり舐めるなって! というか俺って分かったならそんな仰々しい殺気まき散らすなよ!」


 長い舌で俺の全身を嬉しそうに舐めまわすルド。

 こうしてみるとただの犬にしか見えないけど、そのHPは異常。


 そういえばさっきアナウンスでルドのレベルも聞こえきてたっけ。


 えっと……。ちょっと思い出せないから一旦ステータス。

 ついでに俺のも見るか。



―――――

名前:音無恭也おとなしきょうや

職業:魔石破壊者マセキブレイカー

レベル:41

HP:237/242(補正込み値MAX253)

攻撃力:92(補正込み値MAX103)

魔法攻撃力:92(補正込み値MAX103)

防御力:72(補正込み値MAX83)

魔法防御力:72(補正込み値MAX83)

ユニークスキル:固定ダメージ攻撃LV2(2000ダメージ固定)、一定ダメージ固定防御LV1(1回2000ダメージまでなら1に抑えることができる)

通常ノーマルスキル:毒耐性(小)、強者の圧

魔法:なし

職業スキル:魔石嗅覚LV2(最大効率の魔石採掘場所探知、通常見えない奥まった箇所の魔石を視認可能)、魔石破壊ボーナス(魔石破壊数によってパラメーターを補正。数が一定数を超えた場合スキルの効果を異なる角度から強化。数が一定数を超えた場合テイムモンスターにもボーナス効果付与)

テイムモンスター:1(タップで詳細表示)

状態異常:なし

魔石破壊数:11(全パラメーター:+11)

―――――

―――――

名前:音無ルド

種族:コボルト希少種

進化段階:1

レベル:30

HP:16500 /16500

攻撃力:2100

魔法攻撃力:0

防御力:1750

魔法防御力:1650

ユニークスキル:武闘派LV2(格闘意欲強化中、全武具使用方法瞬時理解、素殴り強化中、強鋼膝小、現状4種が複合されたスキル。スキルレベルに応じてさらに内容が増える、或いは強化率上昇)

通常スキル:毒耐性(小)、強者の圧LV2、免疫力上昇LV3(自身の体液を流布することで効果を伝染させられる)

ボーナススキル:取得魔石経験値増加

魔法:なし

状態:テイム

―――――


 ルド、お前もうバケモンじゃん。

 30でそれってステータスの伸びおかしくないか?


 いや、俺の元々のステータスが弱すぎるだけで今活躍しているランク上位の探索者はこんな感じで成長してたりするのか?


「んぅ、分からん」

「……。戯れているところ悪いが、そろそろ説明してもらってもいいか?」

「わぐぅぅぅうぅぅぅぅう……」

「うっ!」


 ステータスを見ながらついつい考え込んでいると、きょとんとした表情で長谷川さんが話し掛けてきた。


 すると長谷川さんを敵だと思い込んでいるのかルドが威嚇。

 瞬時に緊張感が走った。


「ちょ、ルドっ! この人は俺の――」

「か、彼女、だ……。お前にとってこいつが主人だというなら……。だから、それは、私にも当てはまるということで……」


 ……。

 まぁ、そういう流れだったよね。


 否定してもいいけど……。俺たちがここで口喧嘩でもすればルドがどういう行動をとるかわかったもんじゃない。

 

 これは吊り橋効果による一過性のもの。少し付き合えば正常に戻るはず。


 それに長谷川さんみたいな探索馬鹿って感じの人ならお食事にとか、レジャーにとか頻繁に言ってこないだろうし、お互い仕事に専念しながら交際はできるはず。

 改めて見れば恐ろしく整った顔で正直なところ言い寄られて悪い気もしなかった。


「……。そ、そういうことなんだよルド。俺たち付き合うことになって、分からないかもだけど彼女彼氏の関係……。あー、それだと余計分からないかな。……。男と女の関係、モンスターで例えるとオスとメスの関係?」

「……わう?」


 ルドは俺の顔を見て明らかに理解していない表情を見せた。

 殺気は未だにある。


 それどころかルドのやつ拳に力込めてないか?


 ヤバい。こいつ、こんなに言うこと聞かない子だったのか?

 なら、どうやって伝えれば……。


「なら、こうすれば分かるか? コボルトの愛情表現はこれ何だろ?」

「え? 長谷川さん?」

「わうっ!?」


 俺が頭を悩まし、ルドが攻撃を仕掛けるかどうかの選択に迫られていると、その隙を突くかのように長谷川さんは俺の元まで駆け寄り、そして……。


「付き合ってるんだからこれくらい普通、だよな?」


 長谷川さんの唇が俺の頬に触れた。

 柔らかい感触が頬に残り、俺はその箇所に軽く手を当てた。


 長谷川さんは赤面して俯き、ルドは鳩が豆鉄砲を喰らったような表情。


 しばらく静寂が流れ、まるで時が止まったのかと勘違いしそうになる。


「……な、何とか言ったらどうだ? こんなの、初めてなんだぞ……」

「あ、あの……。実は俺も――」



「――わうっ!!」



 ようやく時が動き始め、長谷川さんと目を合わせているとついにルドが長谷川さん向かってダイブ。


 でも、もうそこに殺気なんてものはなく……。


「ちょっ! や、あっ!」

「わうっ!」


 ルドは俺を舐めまわした時のように長谷川さんも舐め始めた。


 どうやら一段落……。いや、大変な事態になったのは変わりないか。


「ま、それでもやっと落ち着けるや。長谷川さん、止血を……」

「痛く、ない。もうまったく。血も、止まってる。まさかこの子が?」

「わう?」


 ミノタウロスに貫かれた手。

 大きな穴が開いてしまったはずだったその掌はいつの間にかかさぶたのようなものができていて、血は流れていなかった。


 そういえば免疫力がどうのこうのってスキルをルドが覚えてたな。


 アタッカーもヒーラーも行けるとか改めておかしいよ。


 これで魔石のレア度はDだっけ? AとかSとかになったら一体どんなモンスターがでるのやらだな。


「魔石モンスター、恐るべし――」

「いや。恐ろしいのはお前。じゃなくて、えっと……」

「音無恭也。恭也でいいですよ」

「!? じゃ、じゃあ、きょ、恭也っ! おま、あなたは何者なんだ? こんな強力なモンスターを見つけて、従順にしてしまうなんて……そんなのSランク探索者にもいないぞ」

「それは……」

「私にも、言えないことなのか?」


 上目遣いで寂しそうに小さい声を発する長谷川さん。

 性格上わざとこれができる人じゃない。この見た目のくせに天然であざといのはそれはそれで恐ろしいって。


 ……。うん、これは断れないやつ。


「話します。だからそんな顔しないください。でもここだといつ人が来るか分かりませんし……怪我、大丈夫そうなら来てもらってもいいですか?」

「2人だけの秘密の場所に、ということか?」

「ま、まぁ間違ってはいないですね。嫌ですか?」

「嫌じゃない! 全然! まったく!」

「そ、そうですよね! 長谷川さんとしても今の状態を見られるのは恥ずかしいでしょうし、winwinです!」

「恥ずか、しい?」


 あ、折角忘れてたのに思い出させてしまった。

 境遇が良くなかったとか言い訳する以前にデリカシーがないところがモテてこなかった要因の1個だったりして。


「い、いやぁあああああぁぁぁあああぁぁああっぁ!」

「あ、あの――」

「わう!!」


 俺がフォローする前にルドが羽織っていたコートを長谷川さんに被せた。

 そして、俺を見ながら人差し指を左右に振ってやれやれと首を振る。


 こいつ、さっきまであんなに空気が読めなかったくせに……。というかこの感じ……。


 そういえば尻尾の丸いコボルトって――。


「わうぅぅ……」

「あんまり……じっと見ないでくれ」

「わ、分かりました。その、俺戦闘を歩くので付いてきてください。それとルドはしんがりを頼む」


 俺の視線が気になったのか長谷川さんは顔を真っ赤にしながら小さい声で懇願し、ルドは俺が主であることを忘れてしまったかのように、俺の様子を憂いながら唸ったのだった。

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