3話 希少種
「わおんっ!」
「……。えーっと、ありがとな」
これからの可能性に期待を膨らませているとコボルト、正式にはコボルト希少種嬉しそうにすり寄ってきた。
可愛いんだけどその両手、スライムの肉片がこびりつた状態が合わさるとやたら狂気的に見えるな。
はっきり言ってちょっと怖いけど、もう俺の仲間になったんだからご褒美くらいやらないとか。
モンスターを使役している探索者はあまり見かけないからどうすればいいか正解が分からないけど……こんな感じか?
「わうぅ……」
「喜んでる……っぽい?」
「わぅ……」
コボルト希少種は顎をさすってやると犬みたいな見た目で猫撫で声が漏れ出た。
そして忘れていたものを思い出すようにぎゅっと握られていた手を差し伸べ、それを開く。
「これは……スライムの核か」
「わうっ!」
モンスターは死体となってからのみ剥ぎ取りを行える。
こいつはスライムを潰した拍子に俺のことを考えそこまでやってくれたのだろう。
HPだけじゃなくこういった気を使えるという点においても優秀ってわけか。
俺の言葉も理解してるみたいだし、相当当たりが引けたみたいだな。
「ありがとうな。これで来月も国から探索者手当をもらえるよ。さて、となれば一旦地上に戻るか。服もひどく汚れたし。ただ……いきなりコボルトを連れ帰るなんてなったらあいつに何言われるか分からん、か。一応安全安心て言い訳ごねるためにステータスの確認しとくか」
――『ステータス』
―――――
名前:未設定(タップして設定してください)
種族:コボルト希少種
進化段階:1
レベル:1
HP:2000 /2000
攻撃力:650
魔法攻撃力:0
防御力:300
魔法防御力:200
ユニークスキル:武闘派LV1 (格闘意欲強化小、全武具使用方法瞬時理解、素殴り強化小、現状3種が複合されたスキル。スキルレベルに応じてさらに内容が増える、或いは強化率上昇)
通常スキル:毒耐性(小)
魔法:なし
状態:テイム
―――――
この画面、安心安全とはかけ離れ過ぎてるな。
恐ろしいくらいパラメーター高いし、武闘派って……。
「……。わ、悪いけど今日のところは留守番でもいいか? ちょっとお前を飼える場所、というか飼っていいかも分からなくて」
「わぅ……」
ちょっと気まずそうに話し掛けると、あからさまにテンションが下がってしまった。
子供か、お前は。いや、子供かもしれないけど。
「んー。お詫びに何か上げられるものとかがあればいいんだけど、あいにく手持ちに良さそうなものもないし……。あ、初魔石破壊からのテイムモンスターだから……。よしっ! 特別にお前には俺と同じ苗字をあげたぞ! 名前も付けてやった! ほら、こっち来てこれ覗いて見ろ」
「……」
「……。き、気に入らなかった?」
『名前:音無ルド(おとなしるど)』
コボルトだからルト、それだとそのまますぎるからルド。
多少中二病っぽいけど、案外かっこいい名前になったと思うんだけど……。反応悪いな。案外孫●飯みたいなインパクト重視の方が良かっ――
「――わおおおおおおおおおおおおおんっ!!」
静寂を切り裂く高らかな遠吠え。
よく見ればルドの目はこれ以上ないくらい輝いていた。
どうやら気に入ってもらえたみたいだ。
うん。今度はこんな子供だましじゃなくてちゃんと餌買ってきてやろ。
『テイムモンスターの進化先が変更になりました』
反省しつつ嬉しそうなルドを見ているとアナウンスが。
進化先の変更、そもそもこいつが何になるかなんてわかってなかったから正直どうでもいい内容だ。
「それじゃあいい子で待っててくれよ。明日も魔石の採掘しにくるから。あ、それとここちょっと寒いから作業用に置いてあるダウンジャケット、あれ勝手に使っていいからな」
「わおんっ!」
俺がそう言い渡すとルドは素早く敬礼。
そそくさと、まるで踊るようにこの場から去っていった。
1匹にしておくのはちょっとだけ心配だけど、まぁあの強さなら大丈夫かな?
「さて、俺も行くか。今日はもう疲れた。あーあ、服が台無しだよ」
スライムによってずたずたになった服を見ながら、俺は小粒の魔石たちをポケットに突っ込んで帰路につく。
そして……。
「――あの、これ買い取って頂きたいんですけど」
「スライムの核が1個、ですか……。ふふ。かしこまりました」
「あ、あの、これで来月も手当は……」
「一ヵ月の内一匹でもモンスターを倒した。その証拠である剥ぎ取り品をお持ちいただければ大丈夫です。ただ……」
「た、ただ?」
「いえ、なんでもありません。スライムの核の査定をしますので、少々ここでお待ちください」
ダンジョンの出入り口の側。
俺は早速そこにある買取所でルドにもらった核を査定してもらっていた。
買取所では査定の外に多少探索に使えるアイテムも販売していて、その買取金額次第ではそれを買う人もいる。
とはいえ今回の価格はおおよそ数十円。この後に買い物なんて到底無理。
ただ買取金が安かろうと、それでもモンスターを討伐した証拠を叩きつけるのは清々し……くないな。
買取所のお姉さんなんか笑ってなかったか?
「こんな態度されたのは初めてだな……」
「それはそうさ。スライムの核1個持ってきた程度でそんな態度。まぁ滑稽に映ったのだろうな。それにそのうち手当の基準は引き上がる。そうなればお前みたいなやつから先に手当てがもらえなくなる。それが、それを伝えるのは可哀想だって思ったから受付は口ごもったのさ」
「……。初対面でいきなり失礼じゃありませんか?」
「失礼? 事実を伝えたまでだが?」
受付のお姉さんを待っていると後ろで順番を待っていたであろう女性が話し掛けてきた。
見覚えがあるような無いような……。
「お待たせしました。こちら今回の買取金になります」
「あ、ありがとうございま――」
「済んだのならさっさと掃けてくれ。ボロボロの、貧乏探索者君」
「……。分かりました」
「素直のはいいことだ。やはり若い人間はいい。ただ貧乏で、将来性に欠けていては台無しだがな」
喉を伝ってくる罵声をぐっと飲み込んで俺は一歩引いた。
だってこの人の顔からは悪気を感じない上、その言葉はこの人の言うように全て事実。
それに、俺にはこれがある。
――ジャラ。
「……。全員、いつかあっと言わせてやる」
誰にも聞こえないように俺は小声でぽつりと呟き、ポケットに突っ込んだままの魔石をぎゅっと掴んで家へと向かった。