第1話 同僚
数時間をかけ、実家がある関西からシェアハウスがある関東まで数時間かけてやってきた。
事前にもらった鍵で、ゆっくりとシェアハウスの扉を開けた。
玄関にはすでに何足かの靴が置いてあるので、既に引っ越しが終わった人達が居るのだろう。
リビングへと向かうと、長髪金髪の白人と長髪黒髪の日本人のナイスバディの美女二人が話し合っていた。
「…ど、どうも…」
リビングに入ってきた俺を見つめてくる二人に、俺は軽く頭を下げて挨拶をした。
「あら、試験の時、逃げるだけだった日本人じゃない…」
「うっ…」
試験の時に逃げ回っていた人と言われ、俺はつい声を漏らしてしまった。
「貴方、受かっていたのね…てっきり死んだか、落ちたかと思っていたわ」
「…」
酷くない?って思いたくなるような言葉を聞いて、俺が少しその場で固まっていると、黒髪の美女が俺のそばにやってきては、両手で俺の胸を触り始めた。
「はぁ~~~……ネロは、この鍛えられた筋肉で押さえつけられて、そのまま…」
俺の胸を触りながら、黒髪の美女は変なことを妄想し始めた。
確かに、俺は婆ちゃんの畑仕事をよく手伝っていたから、身体は鍛えられている方だけど…!なにこの子…これは俗に言うドMというやつなの…か?
黒髪の美女にペタペタと身体を触られ、白人の子に冷たい目で見られるという地獄のようなこの空間かどうやって逃げようか考えていると、
「あら、集まったようね」
着物を着た女性がリビングに入ってきた。
「私はお菊・ヴォルフ…ペンギンハウスの副所長をやっている者よ…さっ、私の旦那様が園の方で待っているから、ついてらっしゃい」
ペンギンハウスの副所長こと、お菊さんに言われた通り、俺らはお菊さんの後を追って所の方へと向かった。
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所はシェアハウスから歩いて数分のところにあり、春休みのためか所内には子供の姿はなかった。
そして、俺らはお菊さんに連れられて職員室へと向かった。
「よく来たね……私こそが!ここペンギンハウスの所長…!リーベ・ヴォルフ…さ!!」
職員室にいたのは筋肉マッチョの園長、リーベさんだった。
所長は決めポーズを決めて、どこぞのアメコミ風ヒーローみたいな笑顔を浮かべ、自己紹介をしてくれた。
「あーなーた~?そういうのやめてって、いっつも言ってますよね~?」
所長の自己紹介を聞いていたお菊さんは、恐怖を感じる笑みを浮かべながら、所長を見ていた。
「ハ、ハハッ…ま、まぁ君たちも自己紹介してもらえるかな?」
話をごまかすように所長は、俺らに自己紹介をするように頼んできた。
「では、私から…私はソフィア・テイラー、以後お見知りおきを」
最初に自己紹介を行ったのは、金髪の白人ことソフィアだった。
今のソフィアからはお嬢様みたいな雰囲気を感じれ、先程までの冷たい態度が感じられない程だ。
「え、え~っと…俺は西神 慧です…これからもよろしくお願いします」
順番的には俺なので、少しぎこちなくなってしまったが、俺は皆に自分の自己紹介を済ませた。
「ネロはネロですぅ~…ネロは慧くんや所長に逞しい筋肉で、いっぱ虐めて欲しいですが、所長の場合、副所長さんが怖いので~…慧くん、ネロをいっぱい虐めて欲しいのです~!」
ネロのとんでもない発言に、全員の視線がネロに集まる。
それに気づいたネロは、
「ああぁ…!そ、そんな目で見ないで下さ~い!」
少し息を荒げて興奮していた。
引くほどドMだな……てか、見た目は日本人なのに、名前は外国人っぽい感じなんだな…
そんなことを思いながら、ネロが作り出した気まずい空気の中、興奮しているネロ以外が静かにしていた。
「ん゛んっ…ま、まぁ、自己紹介はこれぐらいにして…本来ならば、君たちの先輩にあたる子達とも会っておいてほしかったけど…一人は里帰り中で、もう一人は出払っていてね…生憎だけど顔を合わせるのはまた別の日に」
気まずい空気を何とかするために所長は、俺らに二人の先輩が居ることを言ってくれた。所長は会わせたいみたいだが、今は出払っていて居ないようだ。
「ああ、それと…今日は園児達が居ないから、所内を見て回るといいよ…所内のどこに何があるかを知るのにいい機会だ」
続くように、所長は俺らに所内を見て回ることを進めてきた。
まぁ、どこに何があるか知っておかないと、困ることは多そうだからな。
「それなら、私が三人を案内するわ」
先程の恐怖を感じる笑顔ではなく、普通の笑顔になっているお菊さんが案内役を買って出た。
「ああ、それじゃあ頼むぞ…マイハニー!」
「こういう時は、お菊か、副所長でしょう…?」
「…」
所長のせいで、再びお菊さんの笑顔から恐怖を感じてしまい、とても怖い…
「と、とにかく…頼んだぞお菊…!」
お菊さんの圧にビビった所長は、お菊さんに俺らの所内の案内を任せた。
「それじゃあ、三人とも行きましょ?」
「はい…」
「は、はい…」
「は~い」
俺らはそれぞれでお菊さんに返事を返して、職員室から出ていくお菊さんの後を追った。
こうして、所内案内が始まったのであった。