08:バトル再び①
「……はぁ、逃がしてしまったのかしら」
制服のスカートをぎゅっと引っ掴み、校内を歩き回っておりました。
せっかく小桜さん他三人と話していた時、授業の鐘が鳴ってしまったので皆さん談話室を出て行ってしまいましたの。わたくしも仕方なしに教室へ戻り、授業を受けてこうして戻って来たわけですが。
――いないのですわ、どこにも。
もしかすると志水さんがわたくしを嫌がって、アマンダさんを連れて早めに帰ってしまったのかも知れません。
先ほど少しわたくしのクラスで話を聞いたところ、アマンダさんは留学生らしいですわ。それにしては日本語が達者で感心してしまいますわ。
黄金のキラキラした長髪、あれはまさに映画女優のようでした……瞳も薄青で、ある程度の美貌に自信があるわたくしでさえ負けを認めるレベルでしたわ。
と、そんなことを考えていますと、小桜さんがたくさんの女子に囲まれているのを見つけました。彼女はやはり人気者のようですわね。
「小桜さん」
声をかけても聞いていらっしゃいません。それどころではないのでしょう。
わたくしは「はぁ」とため息を吐くと、覚悟を決めました。ここが『悪役令嬢』の本領発揮ですわ。
「あなたたち、少しお退きなさい。小桜希歩さん。あなたに話があります、ついて来てくださいまし」
周りの女子たちを威嚇しつつ、小桜さんを呼びます。
彼女はわたくしの本当の目的を知っているものですから、少し苦笑すると、わたくしについて来てくださいました。
一人確保。あとは二人ですわ。
校門前にいるかも知れません。そう思い、校舎の外へ出ると。
――校門のすぐ内側、そこに無数の何やら黒い虫が大量発生しており、それが女子生徒たちを襲っておりました。
わたくしと小桜さんはしばしの間、呆気に取られましたわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「な、何よこの騒ぎは!?」
「おー。また怪人ですね? ということは、ワタシたちの出番じゃないですかー」
そんな声が聞こえて来たかと思えば、背後からバタバタと足音が。
どうやら志水さんとアマンダさんの二人が出て来たようですわね。騒ぎが起こっているのでさすがに潜んでいるわけにもいかなくなったのでしょうか。
わたくしは彼女らを振り返り、にっこり笑いました。
「皆さんごきげんよう。では、談話室での話の続きを致しましょう。小桜さん、志水さん、アマンダさん。そのタネをどうぞ、一口食べてみてはいただけませんでしょうか?」
事情を呑み込めていないお三方。でも今は悠長に話してもいられないのです。
おずおずと取り出した三つの手紙の中にそれぞれ入っていたタネをわたくしは一目見て、こくりと頷きました。
「これ食べるの?」
「ぜ、全然平気なんだから! 怖くないんだから!」
「美味しそうじゃないですか。これでヒーローになれますよ」
三者三様の反応が返って来ましたが、わたくしが促すと、仕方なしに口に含みましたわ。
――さて、では戦いの幕開けといきましょうか。