07:新たな少女たち
これはさらに大事になりそうですわ……。
わたくしは小さく吐息を漏らし、新しく談話室へ入って来た女子生徒たちに微笑みかけました。しかし彼女らは二人で話し込んでいるようで、どうやらこちらには気づいておりません。
「あ、危ないとか思わないの!? ってか、誰が送って来たのよこれ!」
「きっと神様からの贈り物なんですよ〜。シオリは怖がりなんですから」
声をかけようかどうしようか少々躊躇っていたその時、わたくしの隣にいらっしゃった小桜さんが突然、女子生徒二人組の方へ歩いて行きました。そして肩をとん、と叩き、
「ねえねえあなたたち。ちょっといい?」
この時に至ってようやく彼女らもわたくしどもの存在を認識したらしく「わあっ!?」と声を上げておられます。
あわあわする二人に小桜さんは余裕の態度で接し、「その手紙見せてくれる?」と当たり前のように距離を詰めて行きましたわ。
……さすが学園のアイドルですわね。すんなり受け入れられたようですわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらくして落ち着いた後のこと。
手紙を手にする女子生徒二人は、それぞれに名乗ってくださいました。
「……あ、あたしは志水詩央里よ」
「ワタシ、アマンダっていいます〜。お友達ができて嬉しいです」
志水と名乗った方の地味な見目の少女はわたくしを警戒した目で見つめておりますわ。もしかするとわたくしの『悪役令嬢』の噂を知っていらっしゃるのかも知れませんわね。わたくし、別に何をしたわけでもないのですけれど、評判は悪い方ですから。
一方でアマンダさんは金髪のキラキラ美少女で、人懐っこそうな笑顔をむけて来ます。ただ名前を教えていただいただけですのに、友達認定されるとは……驚きに絶句してしまいましたわ。おそらくはハーフか外国人の方に違いありませんわね。
小桜さんは志水さんとアマンダさんにニコニコ笑いかけ、握手までなさっています。
やはりわたくしには到底真似できません。仕方ないので軽く頭を下げておきましょう。
自己紹介が終われば、とりあえずは手紙のことを問い詰めることからですわ。
質問するのはもちろんわたくし。志水さんの敵意のこもった目が怖いのですが、なんとか頑張りますわ。
「……ところでその手紙、どこで見つけましたの?」
「な、なんで急にそんなこと聞くのよ?」
「朝一番に教室に行ったら、ワタシたちの机の上に置いてあったんですよね。なんかよくわかりませんけど面白そうな手紙ですよ〜」
「ちょ、ちょっとアマンダ! あんた見知らぬ人に何をペラペラと言ってんのよ!」
あらあら、見知らぬ人と言われるとは。まあ確かに今の今まで彼女たちと面識はございませんけれど?
それでもことがことですから放っておくわけには行きませんわ。
「その手紙の内容は読んだの?」
小桜さんが口を挟んで来ました。
「読みましたよもちろん。ワタシたち、ヒーローに選ばれたみたいなんです。すごいと思いません〜?」
しかし志水は口を尖らせ、「誰かがふざけたに決まってるでしょ、馬鹿ね!」と腰に手を当てて仁王立ち。どうやら怒っているようですわね。
……まあ確かに、ヒーローだなんて現実味がなさすぎますものね。わたくしもあのような尋常でない怪力を得た後でもまるで信じられませんもの。
けれど言わねばなりませんわ。
「小桜さん、志水さん、アマンダさん。初対面でこんな話をするのは失礼かと思いますが、どうか聞いてくださいませ。実はその手紙は……」
ところが、わたくしはその言葉を言い終えることができませんでしたわ。
だってちょうどその時、昼休み終了の鐘が鳴ったのですから。