05:学園のアイドル・小桜希歩
どなたにも見つからないようにして校舎へ戻ったわたくし。
平静を装い、混乱して慌てふためく女子生徒たちを宥めたりしておりましたが、実はわたくしが一番動揺していたことでしょう。
この、冗談でも強いとは言えないか弱い少女が、あのような巨大な怪物を倒してしまったのです。
それも未知の、わけのわからない能力とやらで、ですわ。
「これはお父様に報告した方が良さそうですわね……」
そんなことを考えましたが、しかしすぐに首を振りました。
お父様は古くから続く名家の当主。その娘であるわたくしがこのような面倒ごとを引き起こしたと知ったら……どんなことをおっしゃるかわかりません。
それにこれ以上マスコミなどで取材を受けなければならないのは嫌ですの。ただでさえ名家のお嬢様という名目でテレビに取り上げられることが多くありますのに……。
ので、このことは内密にし、単独でこの手紙を送りつけた者を探し出すことにいたしました。
あんな不思議な物を用意できる人間はそうそうにいないはずですわ。きっとすぐに足取りが掴めるはず……。
そうしているうちにも教師の方々が生徒へ直ちに帰宅するよう指示を始めましたわ。あのような騒動があった以上、致し方ありませんわね。
わたくしはその日、大人しく帰りましたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして翌日――。
昨日の騒ぎがあったため、学園には厳重な警戒が張られておりましたわ。
ここにはわたくしのような金持ち娘も通っておりますから、用心に金をかけているようですわね。
女生徒たちもみんなその話題で持ちきりで、「宇宙人じゃないか」などとの憶測が飛び交っております。どうやら昨日、あのような化け物が出没したのはこの学園だけではなく、複数の地点であのような奇怪な現象が見られたとのこと。
しかしそのことごとくが退治されているようです。謎ですわ……。
と、考え事をしていると。
「えっ、何それ」
「気味悪ぅ!」
「誰かの悪戯じゃないの?」
学園の食堂で昼食をいただいたわたくしの耳に、そんな声が届いて来ましたの。
どうやら少し離れたテーブルで、複数の女子生徒が何かを取り囲んでいるようですわ。よくよく見ると、中心にいらっしゃったのは小桜希歩さんではありませんか。
彼女はこのSR学園のアイドルなどと謳われる少女ですわ。
とにかく明るく、人付き合いがよろしいとのこと。家柄はわたくしと違って低く、庶民の出らしいのですが、わたくしから見ても可愛いですし素敵な人だと思いますわ。
残念ながら、『悪役令嬢』のわたくしは彼女と接点を持つことはありませんでしたが……。
何を話しているのだろうとふと聞き耳を立てると、突然、驚くべき言葉が聞こえて来ました。
「この手紙、何だろうね? 『選ばれし乙女』って、なんか少女漫画みたいだけど……。このタネもよくわかんないし、やっぱ誰かの悪戯?」
――っ!?
手紙? 選ばれし乙女? タネ? まさかっ。
わたくしは話したことすらない学園のアイドルの方へ思わず駆け寄って行きました。
彼女の周りにいた数人の女子が「きゃあ」と大袈裟に悲鳴を上げます。それに構わず、わたくしは言いました。
「小桜さん、少しこちらへいらして」
「えっ、ちょっ」
「いいですから!」
驚いた顔の小桜さんの手を引き、わたくしは猛烈な勢いで走り出しました。
もしも、いいえきっと、彼女にも同じ手紙が届いたということ。それなら……これはさらに複雑な事案になりそうですわね。