48:急に必殺技を編み出せなんてそんな無茶な!
「うおう!」
変な声を上げながら吹っ飛んでいく小柄な少年――『魔王』をよそに、わたくしは奪い取ったリモートコントローラーを勢いよく地面へ叩きつけて破壊しましたわ。
粉々になって操作機が砕けた瞬間、先ほどまであれほど暴れ回っていたロボットたちが一時停止し、それから一斉に爆発を起こしました。どうやら自動で動く仕組みではなく、操作機が破壊されると爆発する仕様になっていたようですわね。一応その可能性も考えていたのでイエローとグリーンさんにはあらかじめ怪物とは距離を取るよう言っておきましたので大丈夫ですわ。
……これで恐れるものはもうありません。怪物たちがこれ以上現れないということはつまり、相手は『魔王』一人になったということですわ。
「覚悟なさい『魔王』。あなたのようなちびっ子、わたくしたち五人にかかれば赤子の手をひねるように倒せますわ!」
「ははは。本当に君たちは面白いことを言う。僕が怪物を無くしたくらいですぐに降参すると思うか? あまり相手を舐めていると、後でひどい目に遭うことになるのを忘れないでほしいところだ」
「何かまだ、隠し持っていますの?」
「当然さ」
よろよろと立ち上がった『魔王』。振り返ったその顔は、ニヤニヤと不気味な笑みを湛えておりました。
まだ手札があると聞かされて、わたくしたちに緊張が走ります。「集まって!」というピンクの声で、イエローとグリーンさんが駆け寄ってきて、わたくしたちは次なる攻撃に備えるため一塊となりましたわ。
そしてその直後、信じられないことが起きましたの。
なんと、一体どうやっているのやら『魔王』から凄まじい白光が放たれたのですわ。
あまりの眩しさに目を閉じ、そして開くと――。
《驚いたか? これが僕の力だよ》
隣に並び立つタワーより遥かに大きく、それこそ天にまで届きそうな大きさの『魔王』が、そこに立っておりましたのよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何あれ……」
「ひ、ひぃっ! ……べ、別に、怖くないし。驚いただけなんだから!」
「あれはすごいですね〜。まさに巨人じゃないですか」
「皆、警戒するんだ。踏み潰されたら一度で殺されるぞ」
わたくしが初めて異能力を得たあの日に戦った巨人より、何倍も巨大になった『魔王』。
タワーが確か三百メートル以上ですから、身長四百メートルに近いのではないかしら。それがわたくしたちを見下ろし、先ほどと同じニヤニヤ笑いを浮かべておりますわ。
《驚いたかな? ではここらで少し、種明かしをしようか》
くつくつと愉快そうに笑いながら『魔王』は続けます。
《これは君たちに力を与えたのと同じ。僕は今、タネを食べたのさ》
「タネを、ですの? でもどうして」
あのタネはわたくしたちであったら異能力を、【パンチング・ヒロインズ】の皆さんであったら身体能力の強化を促すものであって、巨大化する力はないはずですけれど?
《あれの強化版だ。僕の身体的な成長を促進させ、ここまでにさせた。まあ、そんな細かいことはどうでもいい。冥土の土産に色々と今までのことを明かしておこうと思う》
冥土の土産なんてセリフ、まさに悪役ですわねぇ。それも三流の。
《まずあの怪物たちだが、君たちも気づいていたように僕が手がけたロボットだ。すごいだろう? あれのおかげで素晴らしいショーが楽しめた。もっとも、あいつらの正体に気付いた乙女はごくわずかで、大方はその前に脱落行ってしまったがね。
君たちに犯行予告を告げたあのラジオも僕のお手製。君たちが食べたタネ――戦隊製造マシーンと僕は呼んでいるが――ももちろん僕が作った。
なら、そんなすごいものを作れる僕の正体は一体何だと思う? 答えは簡単さ》
天から降り注ぐ声がもったいぶったように間を開け、そして言いましたの。
《永遠の命、永遠の若さ。金、名声、女。何もかもを手に入れた狂科学者さ。それも、時空移動装置を使って未来から来た、ね。どうだい、驚いただろう》
――聴き終えたわたくしたちの感想を、代表して言いましょう。「ふーん」以上ですわ。
別に『魔王』がどんなルーツで『魔王』になることを決めたか、だとか、あんな小学生のような容姿をしていたか、だとか、そこまで気になりませんもの。
何か倒す方法が隠されているのかと思いきや、実に実にならない話でしたわ。最後まで聞いて損をした気分ですわね。皆さん呆れたような、気が抜けたような顔をしていらっしゃいます。
まあ、わかったのは『魔王』の頭がイカれているというわかりきったことだけでしたわねぇ。さて、狂った怪物と化した『魔王』にわたくしたちはどうやって勝とうかしら。
「どんなに強いやつかと思ってましたけど、体がでっかくなっただけでそこまで強くないみたいですね〜。レッド、こうなったら必殺技で倒してやりましょう?」
ちょうど考えを巡らせていたその瞬間、ブルーがそんなことを言い出しましたの。
「必殺技?」と首を傾げるわたくしに、彼女はうんうんと頷き、
「ヒーローって絶対必殺技、あるじゃないですか。最後の最後くらいどばーんとやりたいんですよね。いい考えだと思いません?」
「……なるほど。でも急に必殺技を生み出すなんて、無茶じゃありませんこと?」
そもそも必殺技というのは練習も無しにできることなのでしょうか。
今、わたくしたちにはあまり猶予がございません。いくら相手が自己中心的でどうしようもないイカれ頭の『魔王』だとしても、踏み潰されればひとたまりもないのは変わりありませんもの。
でもピンクも「いいね!」と乗り気のようでしたわ。
「正義と勇気さえあればできるって。ね、イエローもそう思うでしょ?」
「あ、あたしは知らないわよっ……! てか、早くしなさいよ! ぐずぐずしてたら殺されるわよ!?」
「ならボクに一つ提案がある。それをやってみてくれないか」
「……いいですわ。グリーンさんの提案とやら、お聞きいたしましょう」
と、いうわけで、わたくしたちは『魔王』を打ち倒すべく必殺技を放つことになりましたの。
ちなみに『魔王』は今も、「ハハハハハハ」と三流悪役風の高笑いを続けておりますわ。……その間に自分が殺られるなんてちっとも思っていないのでしょう。本当に馬鹿すぎて笑ってしまいますわねぇ。
さて、そろそろフィナーレと参りましょうかしら。