45:ラスボス登場
――声に驚いたわたくしたちが一斉に顔を上げると、タワーのてっぺんに腰掛けるようにしている人影が目に入りましたわ。
いつの間にそんなところに、という疑問と、この明らかに不審なその人物への警戒心が湧き上がります。
《――おや、初めて会うのに随分嫌われてしまっているようだね。それもまあ仕方のないことか。初めまして。君たちがたった今考えた通り、僕が『魔王』と思ってもらって構わないよ》
到底声など聞こえないほど遥かにいる少年の声がどうしてわたくしたちの耳に届いている理由。
それは、最初は頭上から降って来たのだと思ったその声が音ではなくわたくしの脳内に直接響いたからですわ。
わたくしは、いいえわたくしたちは皆、この感覚に覚えがありました。
戦隊になった日、初めての戦闘にて己の能力の名を知らせた声。それと同一に他ならなかったのです。
「あなた、そこから降りて来なさい」
するとわたくしの言葉が聞こえたのかして、その人物がスルスルと蜘蛛の糸のような命綱を掴んで下へと降りて――否、落ちて来ましたわ。
そのスピードの速いことと言ったらありません。何百メートルを一気に下降したのですから当然ですわ。そして平然として地面に降り立ったその人物は、わたくしたちの方を振り返りました。
「やあ。どうだい、ラスボスの登場シーン。かっこよく決まったかな?」
そう言って明るい笑みを浮かべていたのは、少年でしたわ。
頭にツノのついたカチューシャをつけ、顔には赤や青の派手なメイクをし、服は漆黒のローブ。その奇抜な格好はとても印象的ですけれど、それより何より驚いたのは彼がわたくしより明らかに幼い……おそらく小学生の年頃であったこと。
わたくしたちは皆、揃って絶句してしまいました。
「反応がイマイチでつまらないな。もっと拍手喝采されると思っていたが、僕の期待外れか。
選ばれし乙女たちよ。僕の名において君たちを試そう。君たちが世界を守るに相応しいかどうかをね」
「…………キミのような子供が『魔王』なのか?」
誰よりも早く我に返り、口を開いたグリーンさんが彼を問い詰めます。
少年はふふ、と笑い、グリーンさんを見つめると、
「僕はこう見えても普通の子供じゃないのでね。君たちは僕の挑戦状を受けたはずだろう? 僕がどんな相手であったとしても戦う、その心意気でここに来たのではなかったのかな」
「児童虐待になる」
「安心してくれ、児童虐待には当たらない。僕が児童にでも見えるのか?」
見えますわ。というか児童にしか見えませんわ。
動揺しつつもやっと声の出るようになったわたくしは、自称『魔王』へ言い放ちましたの。
「あなたがたとえ何者であろうが関係ありませんわ。街をメチャクチャにした上にわたくしたちをおもちゃにしてくれたこと、許しはいたしませんわよ」
「おお、いい意気じゃないか。それでこそ僕の見込んだ子だ。ここに到達する前に多くの乙女たちは命を落としてしまったからな……。君の強さが君たちをここまで生かしたのだろう」
他の戦隊少女の死を告げられ、わたくしはますます怒りと正義感に燃えました。
「皆さん、最終決戦ですわ! この悪魔を退治してしまいますわよ!」
「よし来た!」
「わ、わかってるわよ。戦えんばいいんでしょ、戦えば。【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】最強たるあたしが負けるわけがないわ!!!」
「チーム最強はワタシなんですけどね〜。とっとと『魔王』をぶちのめして、スーパーヒーローになっちゃいましょう」
「ボクもできるだけ力になろう。……くれぐれも全員死なないように、戦ってくれ」
ピンク、イエロー、ブルー、グリーンさん、それぞれの声がしてわたくしたちは『魔王』を睨みつけます。
そして声を揃えて改めて名乗り上げましたの。
「「「「世界を救うのは我らなり! 我ら、【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】!」」」」
「拳で悪をぶっ飛ばす! 正義の【パンチング・ヒロインズ】グリーン! 仲間二人に代わりボクがキミを倒してみせる!」
――そうしてわたくしたちの最終決戦が幕を開けたのですわ。