44:とあるタワーを前にして
『タワーで待っている』
敵――『魔王』はあのラジオで、確かにそう言っていましたわ。
この国で有名なタワーなど大して多くありませんわ。そしてその中でも一番高いここは、悪趣味な『魔王』が一番選びそうな場所だと思っておりましたの。
そしてそのわたくしの考えは間違っていませんでした。
三角型をした高い塔のようなタワー。観光地として有名な場所なのですけれど、今は人っこ一人おりません。そして代わりにタワーを取り囲むようにしてウジャウジャと魔物、もといロボットが大量にわたくしどもを待ち構えておりましたわ。
「……今までとは数がまるで違いますわね」
普段より特段怪物の発生が多い今日。しかしその中でもこれはとびきり多いと言えるでしょう。
タワーの正面に立ち死の番人気取りで立つアンデットたち。中央の鉄柵に引っかかり、今にもこちらに飛びかかってきそうなドラキュラ。ただし普通のドラキュラと違って日光は大丈夫なようですわね。
他にも妖精のような見た目をしたもの、獣型、宇宙人、ゴキ〇リの大群が歓迎してくださっております。
「これぐらいだとやりがいが出ますね〜。シオリ、こんなものが怖いんですか?」
「こ、怖くない! 【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】最強のあたしを舐めるんじゃないわよ!」
「チーム最強はアマンダちゃんって決まったじゃん、詩央里ちゃん。この勝負が終わったら本当の最強決定戦してもいいけど」
「ふ、ふん!!! どんな勝負であろうと聖女であるあたしが勝つに決まってるわ!」
目の前の多勢の怪物。その一方で、それをまるで気にしていない様子でお三方が何か言い合っているのが聞こえました。こんな時まで情けないですわ。
でもおかげで張り詰めていた空気が少しほぐれたようです。このくらい何ともありませんわ!と拳を固め、わたくしとグリーンさんは頷き合いました。
「では、苛烈に参りますわよ」
「これはボクも負けていられないな」
――『魔王』の待つタワーに辿り着くため、わたくしたちは本日何度目になるかわからない戦いを始めましたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おぞましい化け物たちが雄叫びを上げ、あちらこちらで粉々に砕け散っていきます。
どうやら今回の怪物はいつもと違って、倒された瞬間に爆発するように仕掛けられていたようですわ。危うくその爆発に巻き込まれそうになりつつも、わたくしたちは必死で怪物退治を続けましたの。
ピンクは桜吹雪をめちゃくちゃに乱発し近隣の建物ごと怪物の群れを吹き飛ばし、ブルーは地割れで一気に敵を地中へ引き込みます。
彼女たちの大胆な攻撃で相手の数は一気に減少、すでに半分以下となりましたわ。
ちなみにイエローは最終戦へ向けて体力消耗を抑えるためにも今回は観戦となっております。
もちろんわたくしの『苛烈な炎』だって負けてはおりません。射程は十メートル以上あり、余裕で爆発の被害に遭わずに攻撃することが可能です。次々と炎の弾を飛ばすと、断末魔の奇声と共に二十体ほどの敵が消えていきました。
一方でグリーンさんはパンチ専門なので至近距離での戦いに特化していらっしゃいます。
そんな彼女が爆発に巻き込まれずどうやって戦うか。それは――。
「自爆覚悟の戦法を取る!」
なんと敵の方へ突っ込んでいき、殴りながらその群れの中を駆け抜けましたの。
横目で見ていたわたくしは驚いて、思わずしばらく攻撃の手を止めてしまったほどですわ。一見して彼女の行動は危険極まりなかったのですもの。
しかしその戦法が効果的なものであったと、直後わかりました。グリーンさんが殴りつけた後に怪物は爆発しますけれど、すでに先へ行った彼女は無傷。そして見事、怪物の大群の中から無事に飛び出して来たんですの。
「グリーンさん、すごいですわ……!」
練習の時には見られなかった猛烈な戦意が感じられ、わたくしは思わずそう呟いてしまいました。
そして気づけば蠢く敵はいなくなっておりましたわ。
「勝、勝ったのね。あたしがいなくても勝てるなんてなかなかやるじゃない!」
「いつもシオリはあまり役に立っていないと思いますけどね〜」
「何よー!」
イエローとブルーの呑気な声を聞きながら、わたくしも安堵に息をふぅを吐きましたわ。
あんなに大量にいたはずの敵にたった四人で圧勝してしまうだなんて……我ながらすごいことですわ。
と、思わず手放しで歓喜していたその時のことでした。
《――あの数に勝てるとは素晴らしい。さすが、僕の選んだ乙女たちだよ》
そんな、無機質で背筋が凍るように冷たくなる声が降って来たのは。