04:よくわかりませんが戦いますわ!
タネを口に含み、飲み込んだ瞬間のことですわ。
全身に激痛が駆け抜けたのです。
「あうっ」
変な呻き声を上げずにはいられませんでしたわ。
けれどその痛みは不自然なくらいに一瞬で引いていって、代わりに、ガンガンする頭の中で声が響きましたの。
《――おめでとう。君は今から世界を救う乙女の一人だ。
与えられた能力は『苛烈な炎』。その力を駆使して敵を倒すがいい》
なんですの、これは。
……あまりにも非現実的なことが立て続けに起こりすぎている気がしますわ。聞いたこともない男の声が頭の中で響くなんて。
それに『苛烈な炎』ってどういうわけなのでしょう。もう、わけがわかりませんわ。
声が終わると同時に目眩もおさまり、視界がクリアになります。
相変わらず目の前で大暴れを続ける巨人。どしどしと地面が揺れ、あちらこちらから悲鳴が上がっておりますわ。
はぁ、もう。
朝から一体何が起こっていますのよ。まったくもって理解不能ですわ。
でも仕方がありませんわね、よくわかりませんが……退治してやりますわ!
なんだか体の中からメラメラ力が燃えてくる感じがいたします。
そのまま勢いよく地面を蹴り、わたくしは巨人へと立ち向かっていったのです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
わたくしは荒い息を吐き、今にも地面に崩れ落ちそうになる足を踏ん張って立っていましたわ。
あれから――巨人はわたくしを踏みつけにしようとし、それから逃げながら、なんとか隙を狙っています。
けれどわたくし、未だにノープランですの。
この怪物をなんとかしようと立ち向かったはいいものの、倒す方法が思いつかないのですわ。
先ほどの妙な声にそのヒントがあるとは思うのですが……。
というか、『苛烈な炎』とやらの使い方がさっぱりですの。
あの声はそれを能力と呼んでいましたが、つまりはあのタネを食したことにより、わたくしには魔法のような力が宿ったということに違いありません。
このようなことを信じがたいことですが、そもそも巨人が出現している時点でおかしいのですからそこを考える必要はないですわね。
問題は、『苛烈な炎』という力を、いかにして発揮するか。
体の中に熱いものがメラメラしているのはわかるのですが、これをどうしたらいいのでしょう?
「体から……放出? でもその放出の方法が」
わたくし、体力が限界ですわ。
これでも名家のお嬢様なのです。体力などございませんわ。
はぁ……もう足が動きません。
巨人の大足が迫って来ました。校舎からはすでに遠く、逃げる余裕もない。つまりこのままでは踏み潰されてしまうということですわ。
仕方がありません、一か八かでやってみるしかなさそうです。
わたくしは思い切り力を込め――叫びました。
「ぐあああああああ――!!!」
側から見ればどれだけ恥ずかしいことだったのか。しかしこの時のわたくしには余裕などなかったのでご勘弁いただきたいですわ。
両腕で思い切り巨人の足を受け止め、咆哮を上げます。その瞬間に体の中にあった熱がどんどん膨れ上がっていき、燃え盛る炎となって噴出いたしました。
それは見事に巨人の全身を包み込み、焼き焦がしていきます。
ただでさえ大きな目をさらに見開いて悲鳴を上げ、巨人が地面へと倒れ込んでしまいましたわ。
ああ、危ない危ない。うっかり校舎の方へ倒れ込んだら全生徒の命がなかったところですわ。幸いにも巨体は誰もいない方向に横倒しになったので良かったですけれども。
それからすぐに、炎に焼かれて灰になってしまいました。
「…………あら、想像以上に楽勝でしたわね」
先ほどまで死にかけておりましたが、そこは淑女の微笑みを浮かべつつサラッとなかったことにいたしましょう。
制服のスカートの裾を手で払い、「ふぅ」と息を吐きます。……さて、これからが厄介ですわね。
ほらほら、もう学園の職員たちが出て来ましたわ。
あれに絡まれると面倒なことになりそうですわね。ひとまずは撤退と致しましょう。
それにしてもあの手紙といい、タネといい、体から突然炎が噴出したことといい……謎だらけですわ。後でゆっくり考える必要がありますわねぇ。