41:喜べない再会
「『炎』! 『炎』! 焼かれて死になさ――いっ!」
わたくしはやたらめったらに叫びながら、炎を最後の一匹へと叩きつけましたわ。
それをまともに受けたドラキュラに似た化け物は醜い断末魔を上げて火だるまに包まれ、それが静まった頃にはもはや跡形もなく消え去っておりました。
「レッド、お疲れ!」
「ピンクもお疲れ様ですわ。これで全部倒しましたわよね?」
「うん、大丈夫だよ。今はイエローとブルーが街の人たちを一ヶ所に集めてるところ。これだけの大きな被害ならさすがに野次馬も来ないみたいだね」
「……代わりに警察、あるいは自衛隊が来るかも知れませんけれど」
わたくしたちが最も怖がらなくてはならない相手。それが警察ですの。
一度身分を明かしてしまえば、どんな目に遭うかわかったものではありません。いつもの小さな騒ぎならともかく今日は特大の大騒動。これはきっと各地で起きていることでしょうから、自衛隊だって派遣されていておかしくないはずですわ。
それらに見つかってしまう前に早くここを立ち去るのがいいでしょう。そんなことを考えながら待っておりますと、間もなくイエローとブルーが帰っていらっしゃいましたわ。
「終わったわよ。こんな奇抜な格好をしてるから皆に見られっぱなしで恥ずかしかったわ!」
「まあ顔も隠している上に目立つドレスを着たワタシたちは、人々の好奇心にとって恰好の獲物ですものね〜。でもうまく逃げてきましたよ」
ともあれ、お二人とも無事なようで何よりですわ。
「さて、じっとしてはいられません。『魔王』のいるであろう場所までは後わずか。皆さん、急いで参りましょう。もしかするとさらにひどいことが起こっているかも知れませんもの」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして、しばらく進み続け、さらに複数の敵と遭遇しては倒した後のこと――。
いよいよ目的地の街に辿り着き、その壊滅的と言っていい大被害を見つつ、次々に襲いかかって来る敵を突破していたのですけれど。
その中でわたくしは、いいえ、わたくしたちは、信じられないものを目にしてしまいましたの。
それは、このたった数時間ですっかり見慣れてしまった怪物の大群。それも死骸です。
どうしてこんなに大量に死んでいるのか。不思議でなりませんでしたが、すぐに理解いたしました。――他の戦隊の手によって退治されたに違いありません。
それがわたくしの知る彼女らであるのか、全く知らない相手であるのか。それはわかりませんけれど、もしも彼女らであるならば……と少し期待のようなものを胸に抱いてしまったのは事実でしたわ。
ですから余計に、次の瞬間目に飛び込んできた光景が信じられなかったのです。
そこには、【パンチング・ヒロインズ】の皆さんがいらっしゃいました。
ええ、期待通りでした。こんなにたくさんの怪物を倒せるのは彼女らくらいしかいないだろうと、わたくし、半ば確信しておりましたもの。
それがもし健全な姿での再会ならば、「お久しぶりですわ」と笑顔で言えたのであれば、どんなに良かったことでしょう。
しかしわたくしたちの再会は、そんな甘い展開にはなりませんでしたの。
だって、グリーンさんの細身の腕の中にぐったりとした血まみれの少女――パープルさんが横たわっていたのですから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ボクは……ボクたちは負けたんだ。油断、していたのかも知れないね」
グリーンさんは疲れたような笑みで、そうおっしゃいました。
隣にはオレンジさんがパープルさんに泣きすがっていて、彼女の悲痛な顔はきっと誰が見ても痛々しく感じられることでしょう。
合同訓練に見た時の彼女たちの姿とは随分違って見えました。
強く屈することなんて何もなさそうだったグリーンさんも、笑顔しか見せなかったオレンジさんも、おっとりとしていらっしゃったパープルさんも。
何があったのかはわかりません。けれど、土気色の顔をしたパープルさんを見て、これがただならぬ状況であることだけは理解できてしまいました。
それでもわたくしは一体なんと答えを返していいのかわからず、黙っておりましたわ。
「どうしたの!? 早く、救急車、呼ばなくちゃ」
「こんな大混乱の中で? 呼んでも来るはずないじゃないか。今、日本各地がどんな状況にあるかキミたちにだって予想がつくだろう?」
切迫した様子で叫ぶピンクを、グリーンさんはあくまで静かな声で否定なさいました。
しかしその声に滲み出る悔しさだけはひしひしと伝わって来て、こちらの胸まで締め付けられるようでしたの。
――【パンチング・ヒロインズ】の皆さんは大蜘蛛との戦いに敗れたそうですわ。
敗れたと言っても、見ての通り全部討伐できております。では何が問題かといえば仲間の一人であるパープルさんが蜘蛛に襲われ、重傷を負ってしまったこと。
彼女は蜘蛛の猛毒に侵され、今も激しく悶え苦しんでいらっしゃいます。そのひどい衰弱具合と言ったらありませんでした。放置していればきっと彼女の命が長くないことくらい、わたくしにだってわかりますわ。
でも一体どうしたらいいのか、わたくしにはわかりませんでした。
だってそうでしょう? ちょうど駆けつけたものの、わたくしには医療的知識もなければ野山で生きるための解毒の技術なんてものもないのですもの。それはきっと他の皆さんも同じことでしょう。
「だからって、見捨てるって言うんですか〜?」
アマンダさんが不満げに口を尖らせます。人の生死が関わっていると言うのに緊迫感のない口調は彼女らしいといえばらしいですが、少しイライラさせられますわ。
「仕方ないだろう。ボクたちの打てる手は何もないんだから」
グリーンさんが諦めを見せた……その時のことでした。
「――なら、あたしがなんとかやってみるわ」
普段はいつも怯えてばかりいるイエローこと志水さんが、決意を固めたようにそう言い放ったのは。