38:戦いへ
「わたくし、明日は学園を休みたいと思っておりますの」
『魔王』とやらの犯行声明があってから一日が経った夜のこと。
わたくしはそう言って父に頭を下げておりました。
成績優秀、普段は優等生と言っても過言ではないわたくし。
それが突然明日休むと言い出したので父は驚いていらっしゃいますわ。
「なぜだ? あの学校は優秀者しか入れず、しかも採点が厳しいと聞く。一日たりとも欠席しないようにと入学の際に言ったはずだが?」
「どうしても外せない事情ができましたのよ。もちろん、わたくしの成績が落ちてしまうことは承知の上ですわ。その分の努力を必ずいたしますから」
勉強はわたくしにとって苦なことではありませんわ。一日分の遅れ、すぐに取り返せることでしょう。
わたくしの必死な説得に、父は唸りました。
「事情を話しなさい。今はわけのわからん化け物の騒動があるそうだな。そんな中、外出を許すわけにはいかん」
――わたくしがその怪物と毎日戦っているだなんて知ったら、きっと泡を吹いて倒れるでしょうね。
そんなことを思いつつ、しかし戦隊のことは決して口にしてはなりません。わたくしは頭を捻り、どうにか答えを出しましたの。
「その日限りの観光ツアー券が当たりまして、友人たちと出かけようと思っておりますの」
もちろん観光ツアー券などはございませんけれど、大事なのは友人と出かけるという部分ですわ。
実は父は友人という言葉に弱いのをわたくしは知っていました。
今まで友人付き合いのそぶりもなかったわたくしが最近になってよく小桜さんたちを連れて来るものですから、父は「やっと友人ができたのか」と言って喜んでいらっしゃったのです。そこでそれにつけこんだというわけですわ。
案の定、これを言うと父は簡単に折れてくださいましたわ。
「……なら仕方ない。だがもし変な化け物が現れたら即刻逃げろ。決して無茶だけはするな」
「はい。お許しいただきありがとうございます」
――無茶はいたしますけれどね?
思わず笑みの形に歪みそうになる頬をぎゅっと引き締め、わたくしは父に頭を下げたのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして来たる勝負の日――。
「おはよう!」
「ぜ、絶対、怖すぎて夜寝られなかったとかじゃないわ……。早く行くわよ」
「いい朝ですね〜。バトル日和です」
朝早く、お三方がわたくしの屋敷を訪ねていらっしゃいました。
小桜さんとアマンダさんはいたって普通通りですけれど、志水さんは目の下にクマを作りまくっていますわ。おそらく一睡もできなかったのでしょう。それでも戦う気になっただけ褒めて差し上げましょうかしら。
「皆さんおはようございます。ヒーロースーツの用意、できていらっしゃるかしら?」
皆さんが頷かれました。
「……わかりました。早速着替えてから出発いたしましょうか」
「屋敷の人たちに怪しまれるんじゃ?」
「人払いはきちんといたしますのでご安心を」
一旦屋敷の中に入り、着替えたわたくしたち。
真紅のドレスに身を包むとなんだか気合が入りますわ。……今日がいよいよ最終試合になるかと思うと、腕が鳴りますわね。
今まで対峙してきた怪物はもはや数えきれないほど。訓練を積み、日々努力してきた成果がやっと生まれる……そう思うと悪い気分ではありません。
けれど浮かれてばかりもいられませんわ。もしも本当にこれが最終試合なのだとしたら、敵は大きな何かを仕掛けてくるはずですものね。
――ともかく。
「さて。では、【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】出動ですわよ!」
「「「おおー!!!」」」
こうしてわたくしたちは、依然として相手の正体がわからぬままに、自称魔王との決戦に臨むべく旅立ちましたの。