36:『魔王』からの犯行予告
本日二回目更新です。
それからお手洗いを飛び出して、校門に着くまでかなりの時間がかかってしまいましたわ。
ようやく全員を撒いて【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】の衣装に着替え、現場へ駆け込むと、そこには見上げるほどの大きな怪物――恐竜に似た怪物がドシンドシンと地面を踏み鳴らして暴れていたんですの。
すでにピンク、イエロー、ブルーが集まっていて、怪獣と戦っていらっしゃいましたわ。
桜吹雪が吹き荒れ、鋭い水の弾丸が宙を舞い、地面がパックリと裂けて怪獣を飲み込もうとしています。
しかし怪獣はその攻撃の悉くをかわし、あるいは耐え忍んでびくともしていません。お三方にしては珍しく苦戦していらっしゃるようでしたわ。
しかもその怪獣、どういう仕組みか口から氷を吹いて彼女らを狙いまくっていますの。
イエローなど標的にされてしまい、きゃあきゃあ悲鳴を上げながら逃げ惑っております。ここはわたくしの出番のようですわねぇ。
「お待ちなさいそこの怪獣! わたくしがあなたを焼き尽くして差し上げますわ!」
そう言うなりわたくしは怪獣の前へ躍り出て、『苛烈な炎』をぶちかまします。
氷には炎が一番有効なのですわ。たちまち、怪物の口から吹き荒れていた氷はただの水となりました。
そしてわたくしはさらに炎の熱を上げ、怪獣の体へ叩き込みました。正体はロボットですからおそらく金属できているであろう怪獣に効くかどうかは非常に怪しかったのですが、地響きのような絶叫と共に敵はすぐに黒焦げになってしまいましたわ。
「……終わりましたわ。あまりにも呆気なさすぎましたわね」
志水さんの声があまりにも切迫していたので焦りましたが、大した敵ではなかったようです。
「梓ちゃん!」
「あ、あんた一瞬であの怪物を倒したの!? 信じらんない!」
「おおー。レッド、すごいじゃないですか〜」
そういえばわたくし、これが初めての活躍ではなくて!? まさか褒められるだなんて思ってもみませんでしたわ! ふふっ、やはりリーダーであるこのわたくしは強いのですわ!
と、一人盛り上がっていたその時でしたわ。
ふとアマンダさんに肩を叩かれてわたくしは我に返りましたの。
「喜んでいるところ悪いんですけど、ちょっと変なもの見つけちゃったので来てください」
「はっ。あら、すみません! わたくしったら……。ところでアマンダさん、変なものって何ですの?」
答えの代わりに手をグイグイと引っ張られ、アマンダさんに連れて来られたのはあの巨大怪獣の残骸。
燃え残ったカスの中に、わたくしは、とある異様なものを見つけて目を見張りました。
「これは……」
「アズサ、何だと思います?」
アマンダさんは首を傾げていらっしゃいますが、わたくしにはすぐにそれが何であるかわかりました。
ラジオですわ。割と真新しく見えるラジオが、なぜか灰の中に埋もれておりましたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
小桜さんと志水さんもわたくしたちがそれを見ていることに気がついたのか寄り集まって来て、それぞれに声を上げていらっしゃいますわ。
「ラジオ? なんでこんなところに?」
「ひぃっ! そ、それって呪いのラジオじゃないの!?」
確かに怪物の残骸の中から出てくるなんて、あまりにも不可解。呪いのラジオかどうかはわかりませんけれど、最悪、爆発物である危険性すらありますわね。
でも一見したところではアンテナもスピーカーもダイヤルも至って普通に見えます。しかし、これは怪獣の体内にわざわざ仕掛けられていたと思われる上、先ほどのわたくしの『苛烈な炎』に炙られても壊れなかったのですもの、普通であるはずがないのですわ。
と、思っていると、突然ラジオがザザァ――と不気味な音を立て始めましたの。
「何ですか〜? 何か面白いことが始まりそうです!」
「ちょ、アマンダ! 触っちゃダメでしょうが!」
志水さんの静止も虚しく、ラジオを手に取るアマンダさん。
それと同時にラジオのどういうわけか雑音が消え、そして。
『選ばれし乙女よ、聞いているか?』
聞いたこともない男の声が流れ出して来たんですの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『選ばれし乙女よ。君たちの活躍には毎度驚かされている。
君たちはあの手紙を受け取ったその瞬間、戦うことを強いられたはずだ。戦いの中で何を思い、何を成したか。それは僕の知るところではないが、とても素晴らしいヒーローへと成長を遂げただろう。
だがしかし、そろそろ刺激が薄くなって来たのではないか? 毎日のように現れる怪人と戦うことにはもう慣れてしまっただろう。観客の僕としても、そろそろ飽きて来てしまった。
そこで君たちに試練を課すことにした。これは、僕――便宜上『魔王』とでも呼んでおこうか――からの犯行声明だ。挑戦状と言ってもいいかも知れない。
僕の用意した舞台で存分に踊ってほしい。日付は明後日。場所は――――だ。その時に僕は怪物たちを使って街を破壊させ、世界中を大混乱に陥れる。それを君たち選ばれし乙女は全力で阻止し、『魔王』たる僕を倒すんだ。
期待して待っている』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その瞬間、ラジオは役目を終えたかのようにバラバラとアマンダさんの手の中で崩れ落ちていきましたわ。一体どういう物質でできていたのかしら。不思議ですわ。
でもそんなことが気にならないほど、わたくしたち四人は驚愕に立ち尽くしてしまっておりました。
「『魔王』からの、犯行声明……」
もしもそれが本当だとするならば、きっと大変なことになりますわ。
それにこのラジオは一体何だったのか、本当に『魔王』と名乗るこの男が主犯なのか。
謎はつきませんけれど、学校のチャイムが鳴り響いています。
とりあえずは授業に戻らなくてはなりませんが……後でしっかり話し合いをする必要がありますわね。