間話6:ざまぁ見ろ!ですわ
「ギャアアアアアアアッ!」
わたくしの平手が頬を打った瞬間、まるで化け物が叫んでいるかのような悲鳴が上がりました。
きっと、大柄な少女の頬は一瞬で黒焦げになったのでしょう。何せわたくしの手はものすごく熱いのですからね。
何事かと他の少女たちが身を固くする中、観戦するアマンダさんが楽しげに笑い、審判の志水さんが殺意すら感じられる瞳で、「あんた、やったわね」と口パクで言ってきました。ふふ。バレてしまいましたか。
「な、何すんのよ!」
相手チームのリーダー、松下さんが汚く罵っていらっしゃいますわ。
「あら。わたくし、ルール通りにやっただけなのですが。何か問題でも?」
首を傾げて見せ、わたくしは今度は彼女を標的に定めます。
先ほどは少し熱くしすぎましたわね。五十度程度がちょうどかしら。
程よく掌を熱すると、ぐんと勢いをつけて跳躍、松下さんにグッと近づきます。
するとその間に別の女子が割り込んできました。どうやらわたくしを阻止しようという気らしいですわ。松下さんは小柄な上臆病ですものねぇ。どうしてそんな女子に人が集まるんだか、わたくしには理解しかねますわ。
「邪魔、ですわ!」
わたくしは躊躇いなく立ち塞がった女子に体当たりを食らわせましたわ。その代わりわたくしもふらついてしまいますが、なんのこれしき。
すぐに体勢を立て直すと、もう一度絡んでこようとする先ほどの女子に拳を喰らわせ、轟沈させました。
ああ、手が痛いですわね。わたくしあまり肉弾戦には向いていないようですわ。
「勝手なことしやがって……! ただじゃおかないんだから!!!」
「――激怒していらっしゃるところすみませんが動きがとろすぎてお話になりませんわ」
頬にひどい火傷を負いつつもまた襲いかかってきた大柄な女子に、今度は華麗なるチョップをお見舞いして差し上げます。もちろん薄く炎の灯った手で。
そして直後に耳をつんざく豚のような悲鳴など気にも止めず、わたくしは今度こそ松下さんたちの方に向き直ります。
五人中、二人リタイアした相手チーム。残るは蒼白な顔の松下さんと、彼女と同様に震える女子のみ。さて、では一気に片をつけてしまいましょうか――。
と、その時でしたわ。
「こ、降参ですっ! ごめ、ごめんなさいッ」
突然松下さんが土下座をぶちかましたのです。
あら、何のつもりかしら。まだ勝負は終わっていませんのに。
「あなたたちが正義なのでしょう? ならば、そう簡単に負けを認めてはいけませんわ。悪は必ず滅ぶもの。諦めたらそこで終わりでしてよ?」
せっかく勝負を始めたのですもの。最後まで続けなくちゃ、ねぇ?
「ヒィィィィィ!! すいませんでしたぁっ。嘘ついてましたぁぁぁ!」
松下さん筆頭に、恐れ慄いた女子たちが一斉に頭を下げてきます。
困りましたわねぇ。どうしたものかしら……? わたくしが悩んでおりますと、その様子をやはり楽しげに見ていたアマンダさんがわたくしに向かって手を振り、おっしゃいました。
「アズサったら熱くなりすぎですよ〜。もうそこらへんにしてあげたらどうですかー?」
……残念ですけれど、確かにこれ以上弱いものいじめしては戦隊の名が泣きますわね。今日はこのあたりで勘弁してやるとしましょうか。本当に残念ですけれど。
「審判、勝敗をおっしゃってくださいまし」
――志水さんは渋々、わたくしの勝利を宣言なさったのでしたわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まあ、少しずるかったとは思いますけれど、これでもう二度とわたくしを貶めたりはしないでしょう。
「敗者は大人しく自分の罪を認めたらいかがですか?」とわたくしが軽く脅せば、彼女らはまもなく駆けつけてきた警察に大人しく事情を説明なさいましたの。もちろん退学処分となりますわ。
「因果応報ですわ」
「ふふっ。これで一応、当初のワタシの計画は成功したってことですね〜」
アマンダさんが呑気にそんなことをおっしゃいます。
わたくしとしてはこの形はあまり望ましくなかったのですけれども。でもきっと、これが噂のざまぁ。つまり作戦成功ということですわね。
「ちょっとあんたたち、何ニコニコしてんのよ! とっとと希歩のお見舞いに行くわよ!」
「わかっておりますわ。小桜さんにはなんと謝ったら良いのやら……」
今日はもう遅いのですが、とにかくたくさんご迷惑をおかけしたのでお見舞いに伺うことになりましたの。
身を張って――と言っても階段から落とされたのは完全なるハプニングでしたけれど――くださった小桜さんに、しっかりとお礼と謝罪、そして事後報告をしませんとね。
というわけでわたくしたち三人は校門を抜け、そのままの足で小桜さんのお宅へ向かったのでした。
*学園の名前間違えてたので一部修正しました。