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間話5:いざ決闘へ

 ――幸い、怒りのあまりに出した炎は握りつぶしたので気づかれずに済んだようですわ。

 危ないところでした。もしもわたくしが戦隊などやっていると公になってしまえば大変なことになりますもの。わたくしは数度深呼吸をして気持ちを落ち着けました。


 一方でそんなことには微塵も気付かない相手は、唾を飛ばしておりました。


「け、決闘ですってぇ!?」


 わたくしを嫌うグループのリーダー――そう、わたくしにいじめられたと嘘を吐いた例の女子です――は、血相を変えてガタガタと震え出していますわ。

 戦うのが怖いのでしょうね。ならば最初から喧嘩をふっかけて来なければこちらとて穏便に済ませるつもりでしたのに。馬鹿ですわねぇ。


「あら、お受けになりませんの?」わたくしは少しばかり彼女を挑発します。「口だけですのね」


「あ、あんた、何言ってるの!? ちょっと頭おかしいんじゃない!」


「もぉう。シオリったら察しが悪いですね〜。つまりこの女の子たちはワタシたちを騙すためにキホを転ばせたってことですよ。だからアズサが怒っちゃったんです。ですよね〜?」


 憤慨して怒鳴る志水さんと、彼女を宥めつつ理由を口にするアマンダさん。アマンダさんったら、今さっきここへ来たばかりですのに、一瞬でそこまで理解していたとは。意外ですわ。

 アマンダさんの言葉を聞いて、リーダーがさらに蒼白になっていきます。先ほどまで優位だっただけに、ここまで暴露されるとは思わなかったのでしょう。

 そんな彼女の代わりにわたくしに挑みかかって来たのは、いじめっ子の中でも体格の大きい女子でしたわ。


「ひょろひょろのお嬢様が決闘だなんて。おかしいにも程があるってもんだよ」


「あらあら、強がっていらっしゃいますの? 油断はなさらない方がよろしくってよ?」


 ――何せわたくし、休暇の間ずっと鍛錬しておりましたので。

 しかしそんなことを彼女が知るはずもなく、完全にわたくしをみくびっているようです。


「油断も何もこっちが勝つに決まってんじゃん。松下も何怖がってるのさ」


「で、でも……」


 と、その時でした。


「そんなわけないじゃないですか〜。それで決闘するんですか? しないんですか? できればワタシとしてはアズサがあなたたちをボコボコにしているところが見たかったりするんですが」


 アマンダさんがひょっこり、わざわざ相手の神経を逆撫でする言葉を放ってきたのです。

 どうにも彼女には過激なところがあって困りますの。

 その言葉を受けて、大柄な女子は拳を固め、松下と呼ばれた小柄なリーダーの方も渋々決闘に臨む気になったようですわね。

 教員たちは事故の処理のためこちらのことを気にしておりません。ちょうどいいでしょう。


「……なら、警察が来るまでの間、校庭にて決闘ですわ。わたくし一人があなた方全員をお相手しましょう。わたくしが負けたら『悪役令嬢』になってやりますわ。ただし、わたくしが勝ったなら――わかっておりますわね?」


 そうして勝負が幕を開けましたの。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 戦隊であるわたくしが、一般人の彼女らに異能力を使うのは反則ですわね。

 ということで決闘は殴り合いになりましたわ。わたくしはあまり力には自信がないのですけれど、【パンチング・ヒロインズ】によって拳の基礎は教わっております。それを実演できるかどうかが勝負ですわ。


 わたくしは負けるわけにはいきません。これはわたくしのためだけではなく、わたくしのせいで被害を受けてしまった小桜さんや、わたくしを人気者にしたいと思ってくださったアマンダさんのためでもありますもの。

 ……志水さんにもしっかりとわたくしの強さを見せてやりませんとね。彼女、どうにもわたくし嫌っているところがありますわ。その上、この前の腕相撲で一番弱かったわたくしを侮っているに違いありません。


 とにかく本気を出しますわよ。


 わたくしは今、制服姿で校舎に立ち、女子五人と向き合っています。

 一気に五人をお相手するのは楽じゃないでしょうけれど、大柄で体育会系の一人を除いては、リーダーの女子こと松下さんなどは強気のわたくしを前にしてやはり慄いていらっしゃいますわ。


「――今なら、まだ見逃してやってもいいですわよ? 代わりにあなた方の悪事を全て暴露してしまいますけれどね」


「悪事をしてるのはそっちでしょ!?」松下さんがキレました。「いっつも私ばっかりいじめて、何が面白いの!」


「いじめてなどおりません。事実無根ですわ。なんなら財前家の家名にかけて誓ってもいいですわよ? もう一度問います。あなた方はここで引くことを、なさらないのですね?」


 大柄な女子に背中を押され、松下さんがビクビクしながらも頷きました。


「仕方ありませんわね。では、こちらも全力で」


 ――勝負の審判をしてくださるのは志水さん。

 彼女は比較的中立な立場と思われているため、審判に採用されましたの。わたくしと志水さんが一応は友人であることは多くの方は知らないらしいですわね。

 まあ、友人と言ってもなんなら対立――と言っても志水さんが一方的に喧嘩腰なのですけれど――なので、そう見られるのも必然かも知れません。

 そしてアマンダさんは観戦するようで、楽しげな笑みを浮かべております。


 拳一つで勝てるかしら。

 いいえ、勝てるに決まっていますわ。だってわたくしは【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】のリーダーですもの。ここで勝たなくてはいつ勝つというのです。これに勝って、わたくしの汚名を晴らしてやるのですわ!


 わたくしは皆さんから見えないように掌を炎で熱し、百度ほどまで温度を上げます。この『苛烈な炎』はわたくし自身は熱くないようです。これくらいであれば、異能力を使っても問題ありませんわよねぇ? ただ手を温めているだけですもの。ふふふ。


「あ、あんた……大丈夫なの?」


 少し不安げに審判の志水さんがわたくしに囁きます。わたくしは彼女に答えることはありませんでしたけれど。

 そのまま勝負の開始が知らされ、わたくしは、迷いなく相手チームの方へと突っ込んでいきましたわ。



 ――そして直後、燃え盛るわたくしの掌が大柄な少女の頬を思い切り引っ叩いていたんですの。

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[一言] 訓練は無駄じゃなかったぜ( ´∀` )
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