間話2:汚名回復のために
「わたくしが『悪役令嬢』などと呼ばれ始めたのは、とある事件がきっかけですの。
もしかするとアマンダさんはご存知ないかも知れませんけれど、一年ほど前にこの学校内でいじめが起こりましたの。
それはとある女子生徒に対して行われたもので、制服を汚されたり教科書を破られたりと陰湿なものばかりですわ。暴力沙汰はありませんでした。
それでもいじめなんてものが公になったらこの学園にとっては迷惑以外の何者でもありませんから、教師の皆様方は必死で犯人を探しましたの。
そうして犯人に挙げられたのがわたくし、財前梓でございます。
もちろん事実無根もいいところでしたわ。けれど財力と美貌のあるわたくしを犯人に仕立て上げたかった生徒は多かったらしいですの。ちなみに被害者本人……正直、わたくしを貶めたいがために噓を吐いたのだと思いますが……もわたくしがやったのだと言い張ったんですの。
そこでわたくしは父に頼んで金銭によってやり過ごすことにいたしました。いちいちこんな些細なことで民事裁判を起こしても無駄ですからね。まあ、それ以来わたくしの噂は広まり、『悪役令嬢』と呼ばれるようになったらしいですわね」
長い話を終えると、わたくしは大きく息を吐きました。
アマンダさんが思い切り目を見開いて驚いていらっしゃいます。いじめ事件のことはなるべく内密にされたことから、わたくしのクラスの人間やそこから情報を得た者しか知らない話なんですの。当然彼女は初耳でしょうね。
「思い返せばそれこそ冤罪が擦り付けられた当初は大っぴらにいじめを受けていたものですわ。それを考えれば今の嫌味など大したものでもありませんわ」
そう言って笑って見せるわたくし。でもアマンダさんは強く首を振り、おっしゃいましたわ。
「それでも、おかしいじゃないですか。優しいアズサがそんなひどいことをされてるなんて……友達としてワタシ、見逃せません!
決めました。今からその話が噓だってこと、みんなにバラしちゃいましょう! みんながアズサがいい子なんだってわかってくれれば、アズサも嬉しいでしょう?」
満面の笑顔で詰め寄られ、わたくしは困ってしまいましたわ。
確かに他の方々とお近づきになれれば楽しいかも知れませんけれど、例え事実をお話ししたところで何が変わるとも思いませんし、それに、表立ってしまえば教師に目をつけられる可能性もあります。それにわたくし、別に今の状況が不満ではありませんの。
ですが、あまりにもアマンダさんの圧が強くて押し負けました。仮にもし詩央里さんが噂を信じてわたくしのことをあれほど毛嫌いしているのであれば、そこを訂正しておく必要もありますし……と言い訳のように考えながら。
「わかりましたわ……。ではその、わたくしの汚名回復の名案を教えてくださいます?」
アマンダさんは大きく頷き、
「はい! ではそれを今からキホに聞きに行きましょう!」
と、完全なる人任せ発言をぶちかましたのでした。
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「……っていうことで、キホに力を借りようと思いまして」
「ふ〜ん。『悪役令嬢』かぁ。私、その呼び名悪くないと思うけどな」
あの後すぐに食堂の席を立ち、小桜さんを引っ張って戻っていらしたアマンダさん。
連れて来られた小桜さんは話を聞いて、そんな感想を口になさいました。
「だって悪役令嬢って、結局はやり返すってことじゃない? 最後は幸せになるんだよ」
「あら。そうなんですの?」
「そうそう。それで悪役令嬢を貶めたヒドインとバカ王子を…………って、ここら辺の話はまた今度。でもまあ確かに、呼び名以前に無視されたり陰口叩かれるのは、私も見過ごせないと思う。梓ちゃんが可哀想だもん」
「わたくしは別に構わないのですけれども」
けれど、小桜さんは真剣な顔つきで「いじめダメ。絶対!」とのことですわ。
そうしてアマンダさんと二人で、わたくしの『ざまぁ』作戦を話し合い出しましたの。
ざまぁって何でしょう。なんだかくだらないことな気がしますわねぇ……。