34:誰が一番強いのか
――これは、合宿からの帰り道、車の中での出来事――。
「やっぱあたしが一番強いと思わない? 『聖水の弾』も訓練でパワーアップして誰にも負ける気がしないし! そ、それにさっきのサメの時だって、あたし大活躍してたんだから!」
始まりは、志水さんのそんな自慢でした。
それまでぼぅっと考え事をしていたわたくしは、ふと彼女の方を振り返りました。
「志水さん、あなたは見ているだけではありませんでしたか?」
確かにアマンダさんはあのサメを殴っておりましたが、志水さんは何もしていないはずですわ。
そう思ったのですけれど、志水さんは「ふふん」と鼻を鳴らし、
「あんたは気づかなかったみたいだけど、あたしはこっそり『聖水の弾』を撃ち込んで波が立てて、みんなを戦いやすいように調節してたのよ? それより、あんたの方こそリーダーのくせに全然役に立ってなかったって聞いたけど? 『苛烈な炎』って名前だけでしょぼいのよね」
と明らかにわたくしを馬鹿にしましたの。
確かに志水さんが陰ながらそんなサポートをしていただなんて存じ上げませんでしたけれど……だからと言ってここまでディスられるのは心外ですわ。
けれどいくら反論したところで聞く耳を持つはずもありませんでした。それからですわ。『誰が強いか論争』が勃発したのは。
「確かにアズサはいまいち活躍できませんでしたけど、シオリもどうかと思いますよ〜。ワタシの『地割れ」の方が絶対強いです。もしも海じゃない場所だったら、圧倒的戦力だと思います。それにワタシ、数は少ないですがサメを拳でボコしたんですよ?」
「そうそう。でも私の『桜吹雪』は家くらいは簡単に吹き飛ばせるから最強だと思うんだよね」
確かにアマンダさんの『地割れ』はとんでもない力ですし、【パンチング・ヒロインズ】の皆さんのようにあの謎のタネで強化していないにもかかわらずサメを倒してしまうパンチはすごいと言えるでしょう。そして小桜さんの『桜吹雪』はそれはもう恐ろしいですわ。
志水さんは今日たまたま活躍した――実際は何をしていたかよくわかりませんが――だからと調子に乗っていらっしゃいますわね。ちょっと嗜めて差し上げましょうかしら。
「『聖水の弾』は最強だとはわたくし、思いませんわ。そもそも水の弾丸であり敵を射抜くのには特化していますけれど、大人数に一気に攻撃を仕掛けられないですもの。それに比べてわたくしの『苛烈な炎』など、一撃で巨人を倒してしまうほどの威力がありますのよ。訓練した今ではそれ以上でしょうね」
「な、何よ。あたしが弱いって言いたいの?」
「ええ。最終試合での勝因はわたくしですし」
「あ、あたしが頑張ったからでしょ! あんたなんか手加減抜きの攻撃をして大火事になるところだったじゃないの! あたしの『聖水の弾』が最強に決まってるわ!」
「そんな言い争いはいいですから。とにかくワタシが強いってわかりましたよね?」
「いやいや私の『桜吹雪』だってば」
あらまあ。こうなると収拾がつきませんわねぇ。
皆さんどうやらわたくしをみくびっている様子ですわ。わたくしが普段戦わないからと言って、弱いと思っているのでしょうね。
わたくしにも一応、リーダーとしての意地がありますわ。ここはわたくしがチーム最強であると認めさせませんとね。決して、衣装泥棒をしたり逃げ惑ってこちらに責任をなすりつけてばかりの志水さんに最強の座を渡したりはできませんわ。
わたくし、少々彼女には怒っておりますの。
「では誰が強いかはっきりさせようじゃありませんの」
「どうやって?」と小桜さん。「車の中じゃ戦えないけど」
……そうでしたわ。
ここは高級車の中。決して争っていい場所ではないのを思い出したわたくしは頭を抱えました。
だからと言って志水さんのいいようにさせるつもりは毛頭ございません。どうしたものかしら……。
「じゃあ腕相撲で最強を決めましょう!」
と、そこへアマンダさんの謎発言。
今の話と腕相撲、どこに関係があったというのでしょう? 理解できませんわ。わたくしたちが今言い争っていたのは異能力の強さであり、腕力では……。
――結局なぜかわたくしたちは腕相撲をすることになりましたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
当然ながらわたくしは腕相撲に負けましたわ。
だってこれでもお嬢様ですもの。手荷物はいつも婆やに持たせていますし、教科書より重いものを持ったことがございませんの。
見事勝ち抜いたのはアマンダさんでしたわ。アマンダさん、おそらくご自分が腕相撲が強いからと腕相撲を選びましたわね。……悔しいですわ!
「ってことでワタシが【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】の最強ってことでいいですよね?」
「「「良くない!!!」」」
わたくしたち三人の声が揃ったのでした。
はぁ……まったく、皆さん話になりませんわ。
このこと以降強制的にアマンダさんがチーム最強ということにさせられてしまい、わたくしは最弱と位置付けられましたの。
どこが最弱ですのよ。本気を出せば街一つくらいは焼き払えますのに。いつかこの最弱の名は撤回しなくてはなりませんわ!
そのためにも戦隊としてのさらなる活躍を見せてやりましょう。きっとこれからも幾多の怪物が現れるでしょうからできるだけ最前線で体を張って戦っていきますわよ!
と 密かにそんな決心を固めるわたくしなのでありました。
ということで第二章終了です。
作者の事情でしばらく更新お休みとなります。すみません。
次からの第三章にどうぞご期待くださいませ♪