32:乙女の拳に勝るものなし
「「「拳で悪をぶっ飛ばす! 正義の【パンチング・ヒロインズ】!」」」
ビシィっとポーズを決められた【パンチング・ヒロインズ】のお三方。
彼女らの拳が先ほどのサメを砕いただなんて……信じられませんわ。
「すごいですわ……」
と、その時。
「な、何勝手にかっこいい感じになってるのよ……! あたしだってちゃんと戻って来てあげたんだからね!」
震えながらそう声を張り上げるイエローが視界に飛び込んで来ましたわ。
弱虫で逃げたくせに自己主張。救いようがありませんわねぇ。
「イエロー、あなた、見損ないましたわ。あなたを【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】から追放しますわ」
「な、なんですって!?」
「嫌ならくっちゃべっていないで戦いなさいな」
『ムキーッ』と声が出そうなくらいに激昂したイエロー。
彼女はわたくしを思い切り睨みつけると、前に出ましたわ。
「なら戦ってやるわよ……。こ、怖くなんてないんだから!」
「ふっ、シオリってほんと面白いですよね〜」
「アマンダ、面白がってないであんたもあたしと戦って!」
「ワタシ、力不足というか能力がこの舞台には不向きなので、観戦しておきます」
「わたくしも」
「ごめん、私もちょっと無理かも」
「ええ!? そんなのずるい! ずるいわ!!!」
こんなくだらない言い争いをしているうちに、【パンチング・ヒロインズ】の方はというと――。
百匹ほどはいたであろうサメの群れの半数を、ゲンコツで叩き割って回っていらっしゃいました。
ドシュッと鈍い音がして、グリーンさんの拳が振り下ろされた途端にサメの頭部が弾け。
バイーンとオレンジさんが顎下パンチを喰らわせると特大ザメが丸々粉々になり。
パープルさんが拳を連打すれば、三匹のサメが一気に吹き飛ぶ。
あまりにもすごいとしか言いようのないこの光景に、横目で見ていたわたくしはびっくりですわ。
『異能力』と呼ばれる物――この場では全て役立たず――しか持っていないわたくしと比べ、あのタネで拳を強化されてはいるらしいですが、それでも肉弾戦という方法をとる彼女らはなんとお強いのか。
わたくしども、まだまだですわねぇ。
「すっごーい」
「べ、別に強くて羨ましいとか思ってないし!」
「ワタシも飛び入り参加してきます〜」
またも三者三様の反応を示し、ブルーは【パンチング・ヒロインズ】に混じって行ってしまいました。
わたくしも混じりたいですけれど、拳には自信がありませんわ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「「乙女の拳に勝るものなし!」」」
お三方がまたもやビシィっとポーズを決める頃には、すっかりサメは皆退治されてしまっていましたわ。戦闘が始まってからまだ五、六分ほどしか経っておりませんのに……。
ブルーも一応はお手伝いして、一匹二匹は退治しておりましたけれど、それでも拳の強さでは彼女らに敵うはずもございません。
【パンチング・ヒロインズ】恐るべし。
ちなみにサメの体を解剖してみると、やはりロボットのようでしたわ。
グリーンさんたちはこのことはご存知なかったようでたいへん驚かれておりました。世界各地に戦う乙女はいるらしいですけれど、敵の正体がロボットだと知っている方は少ないのじゃないかしら。
警察などは調べているでしょうけれども、それを公には発表していないようですしね。おそらく不安を煽らないため――充分一般市民は不安でしょうが――でしょう。
「勉強になったよ」とグリーンさん。
先ほどはグリーンさんたちに助けていただいたのですもの、ちょっとした恩返しみたいなものですわ。
ともかくまあ、浜辺のサメ集団を片づけられたわけですし。
「では、帰りましょうか」
「ああ」
「楽しかった〜!」
わたくしたちはまるで海で遊んだ後のように笑い合いながら帰途へ着きましたの。
実際は壮絶な訓練と戦いをしていたのですけれども、それを感じさせない笑顔でしたわ。