31:特大サメ軍団をぶちのめせ
海からサメの大群が押し寄せるという異常事態を前に、しかし、わたくしの頭は非常に冷静でしたわ。
――こんなことが普通、あるはずがありませんわ。それにサメと言っても体長十メートル以上というのはあまりにも大きすぎます。この情報を総合的に考えると、つまりはこれはただの生物ではないですわね。
他の皆さん――冷静な方だけですが――もすぐに理解なさったようですわ。
「レッド。これって化け物ってことでいいよね?」
「ええピンク。そうですわ」
「っていうことは敵ってことですよねー。今までの敵と違って戦い甲斐がありそうじゃないですか」
理解の早いピンクと、早速戦闘態勢に入ろうとしているブルー。
それに対しイエローはというと……。
「やだやだやだやだやだやだぁ! 食われるっ!」
ものすごい勢いで走り出し、逃げて行ってしまいましたわ。
そして同じく走り出す人影が一人。意外なことにオレンジさんでした。
「きゃーっ!」
いかにも女の子という感じの悲鳴を上げながら逃走するオレンジさん。
ああ……二人もいなくなってしまいましたわ。
「二人はボクとパープルが捕まえて来る。キミたちは先に戦っておいてくれ」
「承知いたしましたわ。ではわたくしたち、一足お先に戦っておきましょう」
そうしてわたくしたちはサメの大群――もとい、敵が送り込んだのであろう異様なほどにデカいロボット怪物を相手にすることになりましたの。
今こそ訓練の成果、見せつける時ですわ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「「我ら、【ベリベリ★キラキラキューティーガールズ】!」」」
三人の声が揃い、特大ザメへの一斉攻撃が始まりましたわ。
わたくしはこの訓練で何倍にも強力になった『苛烈な炎』を真っ青な海へ投げ込みます。それは業火となり、サメ群団を包み込む……はずだったのですけれど。
「あら……?」
戦場が悪かったですわ。
海に入った火はすぐに消えてしまい、その力を失ってしまいましたの。もう一度投げ入れてみましたけれど同じでしたわ。
「何ですのこれ。戦えないんじゃ、練習の意味がありませんわ。ちょっとどうしてくれますのよ!? わたくしせっかく『苛烈な炎』を鍛え上げたのに!」
思わずはしたなく叫んでしまうわたくし。あまりにもショックだったのですわ。
一方でピンクとブルーも苦戦していらっしゃるご様子でした。
「桜吹雪がうまくできないよ」
「あーもう。海中に地割れ起こしても効果ないじゃないですか」
確かに海上で桜吹雪を吹かせたところで波が高くなる程度の効果しかございませんし、海中で地割れを起こしてもそもそも地に体をつけずに泳いでいるサメには効きませんものね。
赤い目を光らせながら、サメが吠えています。ああっ、もうすぐ浜に上がってきそうですわ。
「『炎』! 『炎』『炎』『炎』! ……っ!」
何度やってもダメ。目の前で炎がたちどころに消失してしまいますわ。
すっかり手詰まりのわたくしにサメがにじり寄り、襲い掛かります。精一杯の火の玉を展開しつつ、「危ない!」という誰かの声を聞いたその瞬間のことでした。
「乙女の拳、受けてみるがいい!」
そんな格好いい声がして、目の前でわたくしに狙いを定めていた特大ザメが「ギャアア」と奇怪な悲鳴を上げ、粉々に砕け散りました。
わたくしはその様を呆然と見つめることしかできませんでしたの。だって……。
「大丈夫だったかい」
「アタシたちが来たからにはもう大丈夫だよ〜アタシも怖いんだけどね〜」
「うちらがドドっとぶっ飛ばしたるわ!」
そう言って自慢げに微笑む、三人の仮面の少女がいたのですから。
【パンチング・ヒロインズ】――あなたたち、やはり最強ではなくて?