30:最終試合
まあ結局、色々騒動はありましたけれど丸く収まりましたわ。
ドレスも無事隠し場所(志水さんの部屋の中にあったのです)から取り出され、わたくしたちの手元に帰ってまいりました。
志水さんは罰として、今日一日は最前線で戦うことに。彼女は非常に嫌がっていらっしゃいますが自業自得ですわね。
「シオリが意地悪するのがいけないんです」
「だ、だって!」
「だっても何もないですよ。ささ、今日こそ今までの力を見せつける時です。いっぱい血飛沫を散らしちゃいましょう!」
志水さんとアマンダさんがそんな話をしておりますが、物騒なので聞かなかったことにいたしましょう。
――さて。
「うちのメンバーがご迷惑をおかけしましたわ。……気を取り直して練習場所へ向かいましょう」
「そうだな。そろそろ行こうか」
わたくしとグリーンさんがそれぞれのチームを引率して、いつもの砂浜へGOですわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「嫌ぁ! だ、誰かっ! 助けてってば!!!」
黄色のドレスをめちゃくちゃに振り乱しながら、イエローが右へ左へ逃げ惑い続けています。
わたくしはそれを見つめながら、ため息を漏らさずにはいられませんでした。
今は【パンチング・ヒロインズ】との真剣勝負の真っ最中。
次々と繰り出される三人の乙女の拳をわたくしたちはそれぞれ受け入れ、自分の能力で対峙し、バトルを繰り広げておりますの。けれどただ一人、最前線で戦うはずのイエローだけは悲鳴を上げて逃げまくりですわ。
まったく。これからも怪物と戦わなければならないというのになんと情けないのでしょう。
「そんな弱っちいのでは、【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】から引退させますわよ」
「の、望むところ……ってきゃあ!?」
あらあら。よそごとを言っている間にパープルさんが拳を打ち込まれましたわ。
イエローったらなすすべなく倒れてしまって。ああ、本当にどうしようもないですわねぇ。
わたくしは彼女の支援に回ると、パープルさんと向かい合い、『苛烈な炎』を投げつけます。
対してパープルさんと言えば小柄で鋭敏なのを活かして、隙あらばわたくしの胸を狙って来ますの。もうこれ以上触られるわけにはいきませんわよ……!
「イエロー、そこでへたり込んでないで私を手伝って!」
「シオリ……イエローはこっちに来てください!」
同時に二人の少女から呼ばれて、倒れ込むイエローが何やら叫びます。
うるさいですわね。わたくしは彼女の背中を蹴飛ばし立ち上がらせると、イエローを最前線へ再び送り込みましたわ。
やはりリーダーというのは大変ですわね。イエローにはもう少し、他の方々のようにしっかりしてほしいものです。これ以上邪魔ばかりするようでしたら本気で引退させようかしら。
おっと、そんなことを考えている場合ではありません。わたくしとパープルさんの戦いに、オレンジさんが割り込んで来そうですわ。ここは一発、
「本気の炎を受けてみてくださいましー!!!」
手加減ゼロ、ともすれば大火事になるような火を放って、二人を同時に倒します。
そしてその頃ちょうどグリーンさんも三人に取り囲まれ、『地割れ』の中に引き摺り込まれて負けを認めたところでしたわ。
結果、【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】は最終試合にして初めて、【パンチング・ヒロインズ】に勝利しましたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オレンジさんとパープルさんの身を焦がす『苛烈な炎』の残りを『聖水の弾』の水で消しながら、志水さんが鼻高々に言います。
「あたしが頑張ったから勝てたんだわ! あ、あたし本気出したら怪物なんて一人で倒せるんだから!」
相変わらずの意地っ張りですわ。これはもう重症のようですからわたくしの手には負えません。
「うーん。詩央里ちゃんはもう少し仲間と協力した方がいいと思うな」
「シオリはまだまだだと思いますよ」
わざわざわたくしが言わなかった言葉を見事に代弁した小桜さんとアマンダさん。志水さんは「ぐへっ」となってメンタル的にやられてしまったようですわ。
ふふ、ほんとに彼女らの様子は見ていて飽きませんわ。
ともかく、無事に勝利したわけで。
別邸に帰ったらたっぷり祝いの品を作らせなくてはなりませんわね。もちろん【パンチング・ヒロインズ】の皆さんにもお裾分けして差し上げましょう。ああ、楽しみですわ!
……と、呑気なことを考えていたその時のことでしたわ。
「な、何あれ!?」
志水さんが突然、変な声を上げたのです。
そしてわたくしたちが何事かと思い、彼女の指す海の方を振り返ると――そこには目を瞠るような光景がありましたの。
なんと、信じられないくらいに巨大なサメの大群がわたくしたちに迫っていたのですわ。