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29:財前梓はお嬢様なので

 正直、ドレスが消えたくらい何とも思っていないのですけれど。

 このような事件が起こるなんて少し魅力的ですわ。もちろん訓練も楽しいですが、最終日にこのようなハプニングが起こるなんて最高ではなくて?

 こうなったら楽しむまで。わたくし、この怪事件――言ってみたかっただけですわ――を華麗に解決して見せるのですわ!


 と一人張り切りながら、わたくしは自室に全員を呼び寄せました。


 小桜さん、志水さん、アマンダさん、碧海さん、朝陽さん、紫宇田さん。わたくしも入れて七人ですから、いくら広い部屋とはいえ居心地が悪いですわね。


「――さて。お集まりいただきありがとうございます。では早速、事情聴取を始めたいと思いますわ」


 そもそも事情聴取はこうやって大人数でやるものではございませんが、細かいことは気にしないことにしてくださいましね。


 幾人か――特に志水さんがゲンナリしているのが目に見えてわかりますわ。

 でも事件が起こった以上は仕方のないことでしてよ。ご容赦くださいまし。


「ドレスはいつ頃から無くなっていたか、覚えていらっしゃる方はおられますか」


 小桜さんが手を上げました。


「昨晩までは確かにあったよ。でも今朝は見てないなあ」


「わかりましたわ。ドレスが盗難されたのは深夜あるいは朝早くですわね。ではその期間のアリバイはどなたかございます?」


 今度は皆さん沈黙してしまわれました。当然ですわ。その時間にアリバイのある人物など、わたくしを含め、一人としていらっしゃらないでしょう。夜は誰も見ておりませんし犯行に及ぶのは容易かったでしょうね。


「ああ、難事件ですわ……」


「まだ何も調べてないけどね〜ほんと箱入りお嬢様だよね〜」


 朝陽さんのツッコミは無視ですわ、無視。

 ここは名家の娘としての意地を見せつけてやりますのよ。


「では、まず使用人たちに聞いて回りますわ。あなたたちはここでちょっとお待ちなさい」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 使用人たちは夜は『使いの館』と呼ばれている場所で寝起きしているので容疑者からは除外されますわ。

 朝のアリバイも調べましたけれど、盗みを働けるような暇人ではございませんから、やはり違いますわね。


 父にも聞いてみましたが、どうやらドレスの存在自体知らない模様。やはり犯人は少女六人の中にいることは間違いありませんでしょう。無論、わたくしはやっておりませんわ。


 さて。金と財力と権力とは言ったものの、どれも使う機会がありませんわ。金を渡したところで誰も口を割ってくださらないでしょうし……。

 そうですわ。こうなれば脅しの手を使いましょう。


「わたくしのあの衣装は、五万円ほどいたしますの。もしもこの中のどなたかが盗難したとなれば……警察に突き出すほかありませんわねぇ」


「まだ内部犯って決まったわけやないやん。大体こんな豪邸に住んでるんやから、狙って来る強盗だっておるやろ? 使用人も夜にはその館に行ってしもうてるんやったら、強盗入り放題とちゃうの?」


「門の外は交代制で警備が行き届いておりますわ。財前家には巨額の資産がございますのでそれくらい普通のことでしてよ?」


 反論していた紫宇田さんはわたくしの言葉に目を剥きました。

 あら、そんなに意外だったかしら。普通のご家庭は警備の一人もつけないで不用心極まりないですわ。むしろこちらが普通と思っているのですけれども。


 と、そんなことはどうでもいいのですわ。


「……志水さん。先ほどからどうして震えていらっしゃいますの?」


「べ、別に。冷房がちょっと寒いだけだし……」


「強がりと嘘はよくありませんわ。何ですの? 警察の一言に怯むなんて、肝っ玉が小さいですわ」


「あんたが異常なのよ! お嬢様だからって調子に乗って……っ」


 わかりやすく顔色の悪い志水さんににっこり微笑みかけます。

 ええ、実はわたくし、最初から予想はついておりましたの。周囲の皆さんはまだ理解していらっしゃらないようなので、わたくしの口から説明いたしますわ。


「志水さんはわたくしのことが、そう、端的に言って嫌いなのですわ。ですからこのような騒動を起こし、リーダーであるわたくしの管理責任に問おうとしたのではなくて? そして別の誰かに罪をなすりつけ、自分はさも見つけ出したかのように演出する……という算段では?」


 志水さんがあからさまにおどおどしています。『ぎくり』という擬音が聞こえてきそうですわ。


「アマンダさんを疑っていらっしゃいましたわよね。あの時、わたくし変に思いましたの。アマンダさんだって被害者のはずなのに、あのような責め方。そして【パンチング・ヒロインズ】の皆さんが何も盗られていないのは不自然というもの。彼女らの犯行であれば、自分たちのヒーロースーツだって隠すはずですものね」


「なるほど」碧海さんは納得した顔ですわ。「まったく、人騒がせな」

「ほんとほんと。でも良かったね。詩央里ちゃん、ドレス返してね」小桜さんはすっかり許した顔で、志水さんにウインクまで送っていらっしゃいます。可愛い。


「同意ですわね。……志水さん、後でお仕置きですわよ?」


「ひ、ひぃ!」


「あっ、ちょっと待ってくださいよシオリ〜!」


 あらあら。バレたと思ってすぐさま逃げ出しましたわねぇ。

 まあ、そのうちにアマンダさんが捕まえて来るでしょうから心配しておりませんが。


 はぁ……。とんだ茶番でしたが、自分の推理で人の罪を暴くことができたなんてちょっといい気分ですわ。お嬢様探偵・財前梓。悪くありませんわね。

 さて。では早速今から志水さんへのお仕置きをたくさん考えておきましょう。ふふふふふっ。

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― 新着の感想 ―
[一言] うぅむ、気持ちは分かるぜ。 というか志水さんには後衛に回ってもらったらどうかな? それなら梓ちゃんも活躍の場が増えてええでしょ( ´∀` )
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