02:不可解な手紙
『悪役令嬢』と揶揄され、疎まれるわたくしには、嫌がらせが多いですの。
陰口はもちろんのこと、引き出しに変なものが入っているのはしょっちゅうですわ。
もちろん、そういった生徒はお家の権力を使って探し出し、その度に罰しておりますけれどもね。おほほほほほ。
でも手紙とは……珍しいですわね。
呪いの手紙でしょうか? そう思い、その不可解な手紙を眺め回してみました。
黄ばんだ封筒に書かれたのは、『選ばれし乙女よ、立ち上がれ』の一文のみ。
ふーむ。何かの呪文かしら。わからないので、とりあえずは服の中へ隠し、休み時間に中身を確認することにしましたわ。
はぁぁ、朝からこんなことがあると憂鬱ですわねぇ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
わたくしには友達はおりません。
まあ、名家である財前家の娘とだけあって、とりすがってくる女子――周囲から取り巻きと呼ばれている彼女たちはいるにはいらっしゃいますが、わたくしは正直彼女らのことを鬱陶しいと思っているだけなので、適当な物を買いに行かせて人払いをいたしました。
あとは隠し持っていた手紙を読むだけ。
もしも手書き文字なら筆跡で誰かを当ててやることも可能ですわね。プリントアウトであれば、中身の物の指紋から探すでしょうから、できるだけ便箋には触らないようにいたしましょう。
そんなことを考えながらわたくしは、恐る恐る封筒を開けました。
……幸い何かが仕込まれていることもなく、無事に読み始めることができるようですわ。
これは手書き字で間違いありませんわね。でも下手くそですわ。どうやら走り書きのようですわね。
ふむふむ……?
『財前 梓
唐突だが、君はヒーローに選ばれた。
乙女よ。君は怪物を倒し、世界を救うのだ。それが君に課せられる役目となる。
君に与えられる力はこちらにもわからない。だが、同封したタネを口にした瞬間、何もかもがわかるだろう。
そのタネを食し特別な力を得れば、どんな困難にも打ち勝てるだろう。世界を脅かす脅威、君なら打ち払えるはずだ。
健闘を祈っている』
……。
これは一体どういう悪戯なのか、わたくしには理解できませんでした。
だってそこに書かれていたことは何も要領を得ず、わけがわからないのです。その上不思議なワードが散りばめられています。
「ヒーロー? 怪物? タネ? 何のことですの。縦読みでもなければ斜め読みでもない……。どうやら暗号書ではなさそうですわね」
ますます不可解。
一体これをわたくしの机の引き出しに入れた犯人は、わたくしにどんなことを伝えたかったというのでしょう? これでは嫌がらせにもなっておりませんわ。
そうしてため息を吐いたわたくし。ですがふと、封筒に入っていたもう一つの物に気づきました。
それは――プラスチックの小袋にぎっしりと詰められた植物のタネ。一瞬虫と見間違えて悲鳴を上げそうになり、ですがなんとか堪えることができました。セーフですわ……。
でもこの白くて小さなタネ、非常に怪しい。
そもそもからして何のタネなのか……見たこともございません。
もしかするとこれが先ほどの手紙を解読するヒントになるのでは……? と、その時のことでしたわ。
突然に地響きがして、学校の外に大きな影が蠢くのを目にしたのは。