01:ある朝のこと
門を出ると待ち構えていた黒いタクシーに乗り込み、屋敷を出発します。
車窓の外は朝の通勤ラッシュで忙しなくする人々で溢れ返っておりますわ。それに対してこうして毎朝優雅に登校をするわたくしは他の方から見てみれば暢気なのでしょうね。
そんなことを考えている間にまもなく学園の門までつき、しっかり見送られながら今日も学園生活が始まるのですわ。
わたくしの通うスーパーレディースクール、通称SR学園は、わたくしのような金持ち娘以外にも、学歴でのしあがった者やなんらかの功績によって認められた女性のみが通える特別な場所ですわ。
しかしだからと言って、普通の学校よりも治安がいいとは言えませんの。現にほら。
「悪役令嬢ちゃんが今日も来たわぁ〜」
「キッツイ顔ですねぇ」
「ふふふ。何か悪巧みしてるんじゃなーい?」
わたくしが教室に入った途端これですわ。
わたくし、どうやら家の問題もあって、巷のライトノベルで大流行りな『悪役令嬢』というキャラのようだ、と揶揄われているようですの。実際に悪役令嬢の出てくるお話を読んだことはございませんが、この話し方がいけないのでしょうね。
けれど淑女教育を受けたわたくしにとって、今更下品な言葉などを使うわけにもいきませんでしょう? だからああいう悪口は全て無視しております。
……そうしていると、まもなく先生が入って来てホームルームとやらが始まりましたわ。
机の引き出しから教科書を取り出そうとし、ふと気がつきました。
何か、『異様なもの』が入っていることに。
「何ですの、これは……?」
「財前さん、どうしましたか?」
先生が声をかけていらっしゃいます。
申し遅れました、わたくしの名前は財前梓と申します。十五歳のか弱き少女ですわ。以後、お見知り置きを。
わたくしはそれを見せるかどうか躊躇い、結局机の中に戻すという選択をいたしましたわ。まだ他の皆さんには見られていなかったようですから大丈夫でしょう。
わたくしが見てしまったもの。それは、一通の手紙。
封筒には大きく乱雑な文字で、こう書かれておりましたの。
『選ばれし乙女よ、立ち上がれ』
何のつもりなのでしょうか。気味が悪いったらありませんわ。
誰の悪戯か、後でしっかり問い詰めませんとね。