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ログ・ホライズン外伝 白神様の立て直し  作者: コロッセオ
第1章 アキバ少年窃盗団事件
3/4

第2話 〈武闘家〉の少年

 その日の朝。

 ミノリ達五人は明日の窃盗団討伐に対応する為に、戦闘訓練に取り掛かった。今回はアカツキと直継の二人が監督役として、ミノリ達に同伴。〈三日月同盟〉のセララも一緒となって、ミノリ達は五人で雑魚モンスターを相手に戦闘訓練をする。チームワークの基礎訓練だ。トウヤが壁役を務め、ルンデルハウスが遠距離攻撃、五十鈴が二人を支援し、セララが回復、それをミノリが指示を出す。


「トウヤ、挑発技で敵モンスターをおびき寄せてヘイトを稼いで。ルディさんは攻撃呪文の用意をお願いします」


「了解!」


「任せたまえ!」


「五十鈴さんはルディさんの援護を、セララさんはトウヤに回復呪文をお願いします!」


「オッケー!」


「分かりました!」


 ミノリは的確に、トウヤとルンデルハウスに攻撃の指示を出し、指摘された二人はそれにすぐさま反応する。五十鈴とセララの二人はそれぞれの呼びかけに応じ、攻撃役二人の支援の準備を開始する。ミノリは四人の攻撃や支援などのパターンを把握し、それらを明確に計算して的確にして明確な指示を出す。シロエの〈全力管制戦闘〉と同じだ。


「順調だな。夏季訓練合宿の時よりも更に戦闘に磨きを上げているんじゃないのか?」


「あぁ、ミノリ達は着実に成長を遂げている」


 直継とアカツキの二人はミノリ達の成長ぶりにご満悦の様だ。特にミノリは、夏季合宿訓練以降、大きく変わった。その成長ぶりには目を見張るものがある。直継などは、まるで自分のことのように喜んでいるのだ。


「そうだね……。あの時に比べれば格段に強くなったと思うよ。でも、まだ足りないかな」


シロエはそんな風に分析した。


「どういうことだ?主君」


「んー……なんていうか、僕たちの戦闘スタイルって、基本的には集団戦を前提としたものなんだよね。それはわかる?」


「うむ」


「つまり、一人一人の戦闘能力の高さというよりは、連携を重視したものになるんだ。だけど、今回の相手は窃盗団だ。それだとちょっと戦力的に不安がある」


「ふむ……」


「だから、今回は人数的な不利を補うために、大規模戦闘を想定した指揮を取るつもりだよ」


「大規模戦闘の指揮か。しかし、わたしたちでは経験がないぞ」


「うん。でも、アカツキならできると思うよ。というより、多分、ミノリ達をよく知っているアカツキにしかできないんじゃないかな」


「わたしだけなのか? 他のみんなにもできそうな気がするが……」


「いや、これは無理だと思うよ。そもそも、この世界での戦闘で指揮を執るっていうことがどういうことなのか理解している人は少ないしね。アカツキだってそうでしょ?」


「まぁ、確かにな」


「僕は戦闘における指揮の経験はあるけれど、それはあくまでもゲームだった頃の話だし、現実世界での作戦立案とは全然違うからさ。アカツキには申し訳ないけど、僕じゃ役に立てないかなって思うんだ」


「なるほどな」


「うん。それと、もう一つ理由があってさ」


「ほう?」


「ほら、アカツキって僕とコンビを組んでいるじゃない? だから、こういう時に僕の補佐をしてくれるとすごく助かるんだよ。今回みたいなケースの場合、僕は参謀役になって全体を指揮するわけだしさ。そういう場合、アカツキが傍に居てくれると安心感が違うんだよね」


「そっ、そうか。ならば仕方ないな! 主君の補佐を務めるのも大事な役目だ!」


 アカツキは嬉しそうに目を輝かせながら言った。


―――


「今日はこれまで祭りだぜ!」


「皆、十分すぎる働きだったぞ」


「ハイ、シロエさん達が稽古してくれたお陰だよ!」


 特訓が上手く行っていたのか、五十鈴は嬉しそうに自分の気持ちを伝えた。その様子に、シロエはもちろん、直継やアカツキも嬉しそうだ。


「俺はまだまだモンスター倒したりねぇけどな」


「十分倒したし、良いんじゃないですかね?」


 数多くのモンスターを倒したとはいえ、まだまだ成長期であるトウヤは満足しきれない様子で、まだ戦いたい模様だ。その一方で、セララは流石に疲れが入ったのか、そろそろ帰りたそうだった。ルンデルハウスと五十鈴も十分体力はあるが、ミノリは指揮と支援に集中していたので、体力は結構残っていた。


―― ピリリリリッ


「すまない、念話が入った。少し席を外す」


「はい、わかりました」


「僕もだ、多分にゃん太班長からかな?」


「俺もマリエールさんから念話だ。お前ら、少し大人しくしておけよ」


「はーい!」


シロエはトウヤ達に言い残して、直継とアカツキと共に離れた所に移動した。


「シロエさん達も大変だねぇ、仕事や用事がいっぱいあって」


「〈記録の地平線〉の中核メンバーですからね。〈円卓会議〉の要件もありますし、ギルドの経理とか、書類整理の仕事もあるんですよ?」


「ふぅん、やっぱり大変なんだぁ。あ、そうだ。あたしも〈三日月同盟〉に連絡しておかないと」


セララは思い出したように、フレンドリストを呼び出し、連絡を始めようとした。

 その時だった。


―― グルルルルルッ


 刀のように鋭い爪と牙、次の獲物を狙うかの様に執着を向ける目、青灰色の毛並みはまるで青い死神の様だ。

 〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉、レベル五十八。

 獣はのっしのっしと、次の獲物を狙いにやって来た。ミノリ達は前にも何度か戦った事があるが、自分達の知る〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉よりもレベルが高かった。恐らく、この辺りのフィールドではレアモンスターの部類であろう。


「まずい! あいつは、僕達の手に負える相手ではないぞ」


「ど、どうしましょう!? まだシロエさん達が帰って来てませんよ!?」


「そんなこと言ったって、わたし達だけで何とかするしかないじゃない!」


「でも、シロエ兄ちゃん達抜きで戦うなんて、無茶だよなぁ……」


 ミノリは危険を感じた。五人の中で一番レベルの高いトウヤでも、まだレベル四十八なのだ。相手との差は十もあり、今の実力では負ける可能性の方が高い。出来る限り、慎重に行かねばないのだが、此処でミノリの無自覚な無鉄砲さが仇と出た。


「でも、やるしかありません! 皆さん、戦闘態勢を!」


「そ、そうだぜ、ここで逃げたりしたら、男じゃねぇ!」


「あぁ、トウヤの言う通りだ!」


「相手はレベル10も差がある……! けど、頑張ろう!」


「うん、わたし達だって強くなったですもんね!」


「みんな、行きますよ!」


「おうっ!」


「はい!!」


「うむっ!」


「わかったよ!」


 ミノリの言葉に、全員が覚悟を決めた。


「まずは俺からだ!〈武士の挑戦〉!」


 〈武士〉のトウヤが〈挑発〉スキルを発動し、敵の注意を引き付けた。


「私がカバーします! 〈禊ぎの障壁〉!」


 すかさず〈神祇官〉のミノリがフォローに入る。


「助かった! 次は僕が行く。〈サーペントボルト〉!」


 続いて攻撃に出たのは、〈妖術師〉のルンデルハウスだ。


 ルンデルハウスの攻撃魔法は敵にヒットするが、ダメージはそれほどでもないようだ。しかし、敵はルンデルハウスにターゲットを絞らず、トウヤを確実に狙っている。ヘイト操作が上手く行っている様だ。


「よし、この敵は俺に任せとけ! お前らは後方支援を頼む!」


「うん、分かった!」


「私はトウヤちゃんの回復を!」


「私はルディの援護を!」


トウヤは敵の攻撃を掻い潜りながら、少しずつダメージを与える。


「トウヤちゃん、頑張ってください!」


「トウヤ、無理しないでねっ」


 五十鈴とセララの声援を受けたトウヤは、ますます気合が入る。そしてついに、その一撃がクリティカルヒットした。


「やったっ! 当たったぞっ!」


―― グルルッ


「トウヤ、まだ生きてるぞ! 気を付けたまえっ」


―― グオォンッ!!


 〈魔狂狼ダイアウルフ〉が吠えた。

 それはまるで、勝利宣言の様に聞こえた。


「やばいぞ、来るぞ!」


「トウヤ、下がって!」


「トウヤちゃん、危ないっ!」


 トウヤは慌てて後ろに下がろうとするが、一瞬遅かった。

 〈魔狂狼ダイアウルフ〉の鋭い爪が、トウヤの胸元を捉えていたのだ。


「くそぉ、まだまだぁ!」


「ダメだ、今すぐ回復しないと間に合わない!」


 〈障壁〉は〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉の攻撃により、徐々に破られそうになった。今現在のミノリのレベルは四十五。〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉とのレベル差は十三。破り切られるのは時間の問題だ。


「駄目、私のレベルじゃあ……!」


 ミノリの悪い予感が的中した。このままでは、昔の〈ラグランダの社〉やザントリーフでの戦いの時と同じ末路を辿ると言う事に。ミノリは思った。このままでは負けると。いや、確実に負けてしまうと。自分が勝負を挑んだからか? ルンデルハウス達が一緒に止めなかったからか?


(間に合わない……駄目、これ以上、試行錯誤が追い付かない……!)


―― パリパリンッ!

 〈障壁〉は遂に粉々に砕けちった。だが、ミノリは動かない。硬直したままじっと、明後日の方向へ見つめていた。


「しまったっ!」


「トウヤ、危ない!」


―― 間に合わない!

 誰もがそう思った時だった。


「〈ライトニング・ストレート〉!!」


 ミノリ達が窮地に陥った瞬間、森の中から影が飛び込んで来た。その影は〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉の顔面に拳を入れると、そのまま〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉を吹き飛ばし、木に衝突させる。


 職業は〈武闘家〉、レベルは五十一。その一撃は〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉のHPを三分の一まで削る程の威力だった。


 〈武闘家〉の少年はそのまま綺麗に地面へと着地する。

 ミノリよりも少し身長の高い、褐色肌の少年だった。タンクトップとミリタリー感の強いズボン、とても筋肉質だが太くはない体格。恐らく、普段からそうなのだろうが、ミノリから見てもとても怖い顔をしている。


 〈武闘家〉の少年はミノリ達の方に振り返ると、大声を上げる。


「何やってんだ、その〈武士(サムライ)〉に補助技を掛けろ!」


「え?」


「いいから早くしろ! あいつが動き出したらもう間に合わねぇ!」


「は、はいっ!」


「トウヤ、大丈夫!?」


「トウヤちゃん、今回復しますねっ」


「あぁ、助かったぜ!」


 助けに来た〈武闘家〉の少年が気になる所だが、今はそうしている場合じゃない。ミノリと五十鈴は咄嗟にトウヤに支援魔法を掛けた。


「〈天足法の秘儀〉!」


「〈ウォーコンダクター〉!」


 支援呪文を掛けたお陰か、トウヤの素早さが一気に上がり、〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉に一気に迫った。そのまま大技を叩きこむ。


「うおおおおおおおおっ!! 〈一刀両断〉!!」


 トウヤの大技〈一刀両断〉が決まり、〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉のHPは一気に削り切れた。


「お前らも早く攻撃を! 今の〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉は無抵抗だ! 一気に決めろ!」


 ハッと、〈武闘家〉の少年の声に気が付いたルンデルハウスとセララの二人も攻撃を加える。


「〈ウィロースピリット〉!」


「〈ライトニングネビュラ〉!」


「〈ワイバーンキック〉!」


 セララの〈ウィロースピリット〉で拘束し、ルンデルハウスの〈ライトニングネビュラ〉で追撃。更に、〈武闘家〉の少年が追い打ちを掛け、そのまま〈武闘家〉の少年は、くるくるっとダイナミックに回転しながら必殺技の発動をした。


「〈オリオンディレイブロウ〉!!」


 オリオン座の形をなぞるように無数の拳を打ち込む乱撃技〈オリオンディレイブロウ〉。そのラッシュによって、モンスターは叫び声を上げ、倒れ込み、泡となって消えていった。


「ふぅ……」


 戦闘が終了し、トウヤ達は安堵のため息をつく。


「た、助かったー……」


「一時はどうなるかと思ったね」


「ありがとうございます。助かりました!」


「ありがとなっ!」


 同レベルとは思えない少年の戦闘技術に、ミノリは茫然としていた。


(凄い豪快なラッシュ攻撃、しかも一撃一撃が重くて威力が高い。トウヤよりもレベルが三つ上って事は装備のお陰かな? でも、それだけじゃない。体格も実力も並以上に優れている……)


「ミノリもホラ、お礼を言わないと」


「えっ? あっ、すみません! 本当にありがとうございました!」


「…………………」


 その時、「おーい」と言う声が遠くから響いて来る。先程の騒ぎを聞きつけたのか、シロエ達が駆け寄って来たのだ。


「ミノリ、無事か!」


「シロエさん、大丈夫です」


「ったく、あれほど離れるなって言っただろ!」


「バカ継が目を離すからいけないのだぞ」


「お前だって〈D.D.D〉の教導隊長と念話してたじゃねぇか!」


 直継とアカツキの下らない喧嘩を繰り広げる中、〈武闘家〉の少年はミノリ達に目を合わせないまま立ち去ろうとしていた。セララは〈武闘家〉の少年を追いかける。


「あ、あの……大丈夫? 怪我とかはないですか?」


「良かったら、セララさんの回復を……」


 ミノリも心配しそうに少年に駆け寄ろうとしていたが、少年は見向きもしないで、ただポツリと「平気だ」と言うだけだった。


「助けてくれてサンキュー! お前、とっても良い奴だな!」


 トウヤは馴れ馴れしく〈武闘家〉の少年に擦り寄って来る。だが、すぐにその手は振り払われてしまう。


 トウヤ達はステータス画面を見る。ヴォルトと言う名前らしい。サブ職業は〈狂戦士〉。〈狂戦士〉は一時的に戦闘能力を強化させる効果を持っている。あのレベルで大ダメージを与えられたのは、〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉にも大ダメージを与えられたのも、その効果だろう。


「えっと……ヴォルト、くん……だっけ? 初めまして、私ミノリと――」


「……下の下だな」


「えっ?」


「使えないって意味だよ、さっきの戦闘でのお前の指揮」


 その発言に、ミノリ以外の四人の顔が一気に険しくなる。ミノリは発言にショックを受けたのか、硬直したままだった。


「おい、ちょっと待てよ! ミノリは俺達を助けてくれたんだぜ!」


「そうだ! ミス・ミノリは我々を庇ってくれていたんだ!」


「ミノリちゃん、頑張っていました!」


「そんな言い方はあんまりじゃない!」


「……」


 〈武闘家〉の少年に反発する四人は、必死にミノリを庇う。ミノリは無言のままだった。


「どうしてレベル五十八の敵を相手取ろうとした。どう考えても今のお前等じゃ相手出来ねぇだろ。馬鹿じゃねぇのか? 普通、レベルが十以上を相手にするのは危険も承知だろ」


〈狂戦士〉の効果は一時的な攻撃力の増加である。そして〈狂戦士〉の効果時間は三分と短い。だが、その短時間でトウヤ達は確かに〈魔狂狼ダイアウルフ〉のHPを削っていた。


「それは……〈禊ぎの障壁〉を使って……」


「それだって、MPは消費するだろ。それに〈妖術師〉のMPは殆ど空だったはずだ。お前等が戦っている間、何回回復呪文を使ったんだ。一回か? 二回か? どっちかにしろよ。お前等の行動は無駄が多い。だから全滅しそうになったんじゃないのか」


「……」


「お、俺が悪いんだ! 俺がムキになって相手取ろうしたから……」


「お前は黙ってろ」


「な、何だと!?」


 トウヤはその言葉に激怒したが、ヴォルトと言う少年はミノリに話したいことがあるのか、トウヤを無視し、ミノリの方へ向いた。


「第一、お前。何であの場面で硬直していた?」


「そ、それは……」


「指揮官が仲間のピンチを無視する馬鹿が何処に居る。窮地的な場面に起きがちな、危機的状況の対応がまるでなっていない。咄嵯の判断力がない。しかも、指示が曖昧で、誰が何をすればいいか分からない。あれだけ人数が居れば、誰か一人くらい動かせる奴がいるだろ」


「……」


「あんな指揮をされてたら、誰だってやる気無くすぜ。お前、今までどんな指揮をやってきた? ただのお遊びじゃないんだ。人が死んだら終わりなんだぞ」


「……」


「まぁ、ただのお飾りなら、別に良いんだけどな」


「……っ!」


「俺はお前みたいな奴が、一番嫌いなんだよ」


「……」


 その辛辣さ、けれどもミノリの悪い所を的確に指摘し、なおかつそれを侮辱で纏めた発言に対し、トウヤ達は黙っていなかった。


「何だよお前、そこまで言うことないじゃないかよ! ミノリばっかり悪く言うなよな!」


「そうよ、いきなり現れて何様のつもりよ!」


「僕達とそんなにレベルが変わんない癖に、随分と偉そうな口だな」


「み、ミノリちゃんだって頑張ってましたよ! 幾ら何でもあんまりです!」


 トウヤ、五十鈴、ルンデルハウス、セララの四人はヴォルトの発言に憤るが、ヴォルトは怯まず、無関心のまま黙ってトウヤ達を睨みつける。寧ろ、雰囲気ではヴォルトの方が圧倒しており、トウヤ達は一瞬怯んでしまう。


 だが、そんな状況を黙って居られなかったのか、ミノリは四人を制止させる言葉を掛ける。


「皆、もう良いの。私がいけないから……」


「だが、ミス・ミノリ……!」


 気まずい空気の中、ヴォルトが更に続ける。


「それと、勘違いすんじゃねぇ。別にテメェ等を助けたつもりじゃねぇ」


「……えっ?」


「あれは俺が狙っていた獲物だ」


「はぁ!?」


 トウヤが唖然する。ヴォルトがミノリ達を助けた理由、それは「自分の獲物だったから」。その発言に、後ろで黙っていたセララはさらに激昂する。


「ちょ、ちょっと待って下さい!! 自分の獲物って、そんなの横取りと同じじゃないですか!」


 流石のヴォルトも、「横取り」と言われて黙って居られなかったのか、ヴォルトはそれに答える。


「乱入して来た時に気付くべきだろ。先にあの〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉を狙っていたのは俺なんだ。俺が付け追っていた獲物をお前らが勝手に戦闘をおっ始めたから、俺はお前らと一緒に無駄な戦闘をしなくちゃいけなくなったんだ。つまり、最初から俺一人で仕留めれば速攻で片付いた、それだけだ」


 ヴォルトの悪態過ぎる態度に、不満が溜まっていたトウヤはますます顔を険しくした。


「ひ、卑怯だぞ、お前!」


「何とでも言え、俺は俺のしたまでをやった事だ。敵を目の前にして狼狽えていたお前らが悪い」


「こっ、この……!」


 トウヤはヴォルトに殴りかかろうとするが、そこで制止に入ったのが直継だった。


「おいおい、その辺にしておけよお前ら」


 直継も少しばかり頭に来ている様子だったが、直継はそれを必死に抑え込みながら、トウヤを制止する。


「何だよ、止めるなよ直継兄ちゃん!」


「良いから、お前は黙っとけ」


「直継の言う通りだよ、確かに君の意見も一理ある」


「シロエさん……」


「けど、ミノリは優秀な指揮官だよ。トウヤ達が全滅しなかったのはミノリのお陰だ」


「……」


 シロエの言葉に、今度はヴォルトが黙り込んだ。


「僕が知る限り、確かにミノリの指揮はまだ完璧とは言い難い。それでも、彼女は僕の弟子でもあるんだ。君の言っていることは正しいかもしれないけど、一生懸命学ぼうとしている者に対しての言い方があまりに酷い。謝ってくれないかい?」


 シロエの擁護する言葉に、ミノリは表情を徐々に明るくする。


「その通りだ。ミノリは真面目で勉強家だし、周囲の人物から慕われている。少なくとも、お前の様な粗暴な奴に言われる筋合いはない!」


「アカツキさん……」


シロエに続いて、アカツキもミノリを援護する。


 その様子に、気に喰わなさそうにしながらヴォルトは微笑する。


「フッ、お仲間に恵まれて幸せだな」


「なっ、何だと!?」


 ヴォルトの言葉にトウヤが反発する。


「……別にお前等がどう思おうが勝手だが、俺の邪魔だけはすんな。以上だ」


 ヴォルトは自分の言いたいことを言って、その場を去ろうとしたが、そこに直継が引き留める。


「まあ、待てよ。お前に一つだけ忠告したいことがある」


「何だ? さっきの続きか? お前らの頭は随分沸いているな。あんな低レベルの指揮で、お前らは一体何をやっているんだ? はっきり言えば、アイツら、足を引っ張っただけだろ? こんな奴等に構う時間なんてない」


「……お前、いつか後悔するぞ」


「………それだけか? じゃあ俺はもう行く」


そう言うと、ヴォルトはそのまま目に見えぬ速さで木から木へと移り去って行った。


「あっ! おい!」


「待ちなさいよ!」


トウヤと五十鈴が追いかけようとするが、既にヴォルトは視界に映らぬ所へと移動していた。


「……何だったんだよ、あいつ!」


「……感じ悪い! ミノリ、あんなの気にしちゃダメだよ!」


二人は怒りを露わにする。

だが、ミノリはそんな二人を制止させる。


「大丈夫、五十鈴さん。私は気にしてないから」


「でも……!」


「……それよりも、早く行きましょう。〈鷲獅子〉が待っている」


ミノリの無理している顔を見て、五十鈴は励ましの言葉をミノリに言う。


「そうだね。今度会ったら、文句の一つくらい言わないとね!」


 こうして、〈鷲獅子〉に乗って、シロエ達はアキバへ帰還した。



 帰還後、シロエは直継とアカツキを連れてギルドホールに籠っていた。


「……ふぅ」


 シロエは机の上に広げた紙に目を通す。それは、今回の戦闘記録だった。シロエはその戦闘記録を何度も読み返す。


「シロ、まだ考え込んでいるのか?」


「主君、あまり根を詰めると身体を壊すぞ」


「うん、分かってる。ただちょっと気になる点があって……」


 シロエは〈魔狂狼ダイアウルフ〉との戦闘で気になった点を纏めていた。


「あのヴォルトとか言う少年、どうも気になることがあってね」


「何か引っかかることでもあったのか?」


「いや、何となくだけど……。あの時、僕は彼を見た瞬間、何となく違和感を覚えたんだ」


「違和感? どんな風にだ?」


「どうして彼は、僕達と遭遇する前に、一人であのモンスターを仕留めなかったのだろうかって思ったんだ」


「それは……どういう意味だ?」


アカツキは首を傾げる。直継は腕を組んで考える。


「う~ん、俺にはよく分からないけど、つまり、一人でも倒せたのに、俺達に声を掛けてきたってことか?」


「そういう事だと思う」


「しかし、それなら何故、最初からミノリ達の戦闘に参加しなかったのだ? 普通、助けを呼ぶ場合は、一緒に戦ってくれないかと呼びかけるのではないのか? それがどうして、最初から『獲物を横取りする』などと言ったのだ?」


「そこが疑問なんだよね。もしかすると、彼の言う通り、本当に獲物を横取りするつもりでいたのかもしれないけど……」


 シロエは自分で言った言葉に引っ掛かりを覚える。


(恐らく、彼はミノリ達を試そうとしていた。ミノリ達がどこまで出来るかを。だから、敢えてミノリ達が苦戦するような状況を作り、それをミノリ達がどう対処するかを見ていた?)


 シロエはそこで、自分の予想を口に出す。


「ひょっとしたら、彼は窃盗団の一人かもしれない」


「何だとっ!?」


 その言葉を聞いて、直継とアカツキは驚愕する。

 窃盗団の話は、ここ最近のアキバでは有名であり、その悪名は街中に知れ渡っている。

その被害は、アイテムやお金だけでなく、時には人命さえ奪われることもある。また、最近では、一部の冒険者達の間では、そのPKギルドと何らかの関係があるのではないかと噂されている。

 その理由として、そのPKギルドの団員らしき人物が何人か目撃されたという噂が流れており、その真偽を確かめるために、その人物の後を尾行したのだが、その人物は、何とその窃盗団のアジトと思われる場所に入って行ったという情報があった。


「まさか……!?」


「いや、可能性はある。何せ、この世界に来て半年しか経っていないにも関わらず、これだけの事を起こしている連中だ」


「確かに、そう言われれば……」


 直継は納得する。


「確かに、そう考えれば辻妻が合うな。それで、主君はどうしたいんだ? このまま放っておくつもりか?」


「いや、出来れば捕まえたいと思っている。僕達だけじゃなくて、アキバの街の為にも」


「分かった。主君の命ならば、私は従うのみ」


 アカツキの言葉を聞き、シロエは微笑む。


「ありがとう。アカツキ」


 そして、シロエは再び戦闘記録を読み始める。


「……やっぱり」


 シロエは確信を得たように呟く。


「何かあったのか?」


「うん、彼が最初に現れた時に感じた違和感の正体がやっと掴めたよ」


「……? それは一体?」


「多分、彼は全く本気を出していなかった」


「えっ?」


「あの時、彼は本気を出さずに〈魔狂狼(ダイアウルフ)〉を倒したんだと思う」


「そ、それは……つまり……」


 アカツキは信じられないという表情をする。


「うん、彼は五十一レベルに関わらず、僕達よりも強い可能性がある」


 シロエは真剣な眼差しでそう答えた。


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