第1話 アキバの秋
〈天秤祭〉が終了してから二週間が経った。新たなイベントが起きるまで、再び平凡な毎日を送っているアキバの〈冒険者〉や〈大地人〉達は、忙しい毎日を送っている。戦闘系ギルドはレイドやクエストに挑み、生産系ギルドは商いや生産などを行って、そんな何時もと変わらない状況だった。
ただ、一部のギルドを除いて。
大規模戦闘系ギルド〈ホネスティ〉、シゲルが所属するギルドがまさにそれだ。
〈天秤祭〉が終了して以降の〈ホネスティ〉は不穏の空気を帯びていた。この所、ギルドに所属していても狩りや生産などの行為を行わないプレイヤーが増えているからでもある。
今現在の〈ホネスティ〉が調査しているのは〈妖精の環〉の調査だった。アキバの自治組織〈円卓会議〉の命により、〈ホネスティ〉は〈妖精の環〉の調査を担当していた。だが、それは建前上の事だ。
実際のところ、〈ホネスティ〉は独自に動いている。彼らは独自の情報網を使い、様々な情報を収集、精査し、アキバの治安を乱すような事件や出来事を調査しているのだ。
例えば、先日起きたPKギルドの壊滅事件は、その最たる例だろう。彼らの情報収集能力は非常に高い。
そのため、多くの情報が彼らの元に集まってくる。その中には、あまり好ましくない情報も多くある。
「……ふぅ」
その日の夜も、シゲルはギルドホールで考え事をしていた。
(最近、うちのギルドに所属しているプレイヤーの数が減った気がするんだよなぁ~。しかも、そのほとんどがレベル60以上っていう高レベルの奴ばかりだし。それに、何だか殺伐とした雰囲気があるんだよな。まあ、俺もその一人だけどさ)
「……おい、シゲル」
「ん?TOSHIか」
TOSHIと呼ばれた〈守護戦士〉の鎧男は、身長180センチくらいで体格の良い男だ。
「何か用か?」
「ああ、ちょっと話があってな。お前、最近付き合いが悪いぜ。少しはギルド活動に参加しろよ。みんな心配してるぞ」
「……」
「どうした?」
「あっ、いや何でもない。すまんな、心配させたみたいで」
「いや、別にいいけど。それより何かあったら言ってくれよ。力になるから」
「おう!ありがとな!」
TOSHIは笑顔を浮かべてギルドホールから出て行った。
「ったく。あいつは、皮肉屋の癖に本当に世話好きというかお人好しと言うか……」
シゲルは苦笑する。
「シゲルさん!」
「おぉ、雪丸か」
シゲルの元へやって来たのは〈神祇官〉の少年、雪丸だった。雪丸は夏季訓練合宿が縁で知り合いとなった事でシゲルを慕うようになり、そのままギルド〈ホネスティ〉に加入した元・新人〈冒険者〉だった。今のレベルは七十だ。
「シゲルさん、ちょっと相談が……」
「どうした?」
「はい、実は……」
雪丸は真剣な顔つきで、最近のギルドの雰囲気について語り始めた。
「なるほど、そういう事か。確かに、〈天秤祭〉が終わってから、ここ最近のギルド内の空気は悪いな」
「そうなんです、ケイタとロマノフは喧嘩するし、他のギルドメンバーも何だかピリピリしていて」
「そうか、やはりそうなのか」
「はい、だから僕、不安になって」
「そうか、それは大変だよな。でも、安心しろ。俺達が何とかしてやるから」
「シゲルさん……ありがとうございます」
「気にすんなって。仲間なんだから」
「そう言えばシゲルさんはどうして、〈ホネスティ〉に加入したんですか?」
「えっ、あぁ、まぁ……」
シゲルは言葉に詰まる。
正直、あまり思い出したくない過去なのだ。だが、それを話す訳にはいかない。
(ごめんな)
心の中で謝りながら、シゲルは言葉を紡ぐ。
「あ、アインスに地図を描かないかって誘われたんだよ!」
「あぁ、なるほど! アインスさんとは親友同士でしたよね!」
雪丸は納得したように何度も首を縦に振る。
シゲルの言葉は嘘ではないが真実でもない。
(本当は、もっと別の理由だけなんだけどな……)
シゲルは内心で呟いた。
「それよか、昼でも食いに行かねぇか?奢るぜ」
「良いんですか? それじゃあ、お願いします!」
「良い店を知っているんだ、〈中華料理シャンシャン亭〉って店」
「あっ、そこ超人気で話題のお店ですよね!? 行ってみたいです!」
「んじゃ、決まりだな」
二人はギルドホールを出て行く。
「そういえば、菜穂美さんは元気ですか?」
「ああ、あいつなら大丈夫だろ。いつも通り〈マダム’s サロン〉をやってるさ」
「そっか、良かった。最近、〈D.D.D〉にスカウトされたって聞いたから」
「へぇー、そりゃ初耳だな。まぁ、あいつは優秀な〈召喚術師〉だし、当然といえば当然だな」
「やっぱり凄いなぁ~。〈D.D.D〉と言えばあのクラスティさんがいるギルドだし。憧れちゃいます」
「く、クラスティ……」
シゲルは少し青ざめた顔をする。
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもねぇよ」
◇
「着いたぞ、此処が〈中華料理シャンシャン亭〉だ!」
「うわぁ、豪華な内装ですねぇ~」
雪丸は大きな瞳を輝かせている。
「いらっしゃいませ!」
二人が入店すると、ウェイトレス達の可憐な声が店内に響き渡る。
店員達は皆、チャイナドレスを着飾った麗しい女性店員ばかりだった。
(うわぁ……綺麗な人達ばかりですねぇ)
(馬鹿ッ、俺は慣れっこだよ)
店の奥にあるテーブルへと案内された。
「こちらの席へどうぞ」
案内されたテーブルへと腰掛ける二人。
「メニューをお持ちしました」
「あっ、どうも……」
シゲルは受け取ったメニューを開く。
そこには、美味しそうな中華料理の名前がズラリと並んでいた。
「どれが美味しいんでしょうか?」
「ん?そうだな、この『北京ダック』とかどうだ?」
「あっ、良いですね!それにしようかな」
「すみません、注文いいですか?」
「はい、お伺い致します」
シゲルは手を上げて、店員を呼ぶ。
「『北京ダック』と『麻婆豆腐』、それから『小籠包』を頼む」
「かしこまりました、『北京ダック』と『麻婆豆腐』、『小籠包』ですね」
「あと、生ビール一つ」
「はい、すぐにご用意させていただきます」
「雪丸は何にする?」
「僕はウーロン茶でお願いします」
「えっ、飲まないのか?」
「はい、まだ未成年なので……」
「そうか、お前まだ高校生だったな」
「シゲルさんは、もう四十過ぎてたんじゃないんですか?」
「おう、俺も今は六十だな」
「そうだったんですか、てっきり三十代後半か四十代前半なのかと思っていました」
「そうか、俺もまだまだ若いって事だな」
「ふふ、そうかもしれませんね」
二人は笑い合う。
厨房から声が響く。
「オーナーシェフ! 『北京ダック』と『麻婆豆腐』、『小籠包』を6番テーブルにお願いします~!」
「まかしとき! 秒で作っとるさかい、ちょいと待ってな!」
うら若き女性が鉄なべを振り回しながら炒飯を炒めていた。
「おぉ、あのチャイナ娘がオーナーなのか。若いのに凄いな」
「そう言えば、オーナーは〈冒険者〉なんでしょ?」
「えっ、そうなんですか!?」
「ああ、確か〈料理人〉だとか言ってたけど……」
「へぇ~、そうなんですか。〈料理人〉なのに凄いですね!」
「だな」
しばらくすると、紫のチャイナドレスを着たウェイトレスが二人前の麻婆豆腐の皿をお盆に乗せて運んできた。
「お、お待たせしました!生ビールとウーロン茶、そして『麻婆豆腐』になります!」
ドンッ、という音と共に目の前に置かれた皿には、湯気が立ち上る真っ赤なスープに浸かった豆腐が盛られていた。
「おお、来たな!それじゃあ食うか!」
「はい!」
二人はレンゲを手に取り、食べ始める。
「「うまぁ!」」
二人は同時に声を上げる。
口の中に痺れるような辛味が広がり、その後からくる旨みに二人は言葉を失う。そして、一心不乱にその味わいを噛み締めた。
「何だこれ!? すげぇな、おい!!」
「本当、こんな美味しい料理初めてです!!」
二人の箸は止まらない。
「次は、この『小籠包』だな」
「はい、楽しみです!」
熱々の小籠包は、中から肉汁が溢れ出し、火傷しそうになる。しかし、それをハフハフ言いながら食べる事が通なのだ。
「やっぱ中華は良いなぁ。かーっ! ビールがウメェッ!」
しばらく料理を堪能していると、隣のテーブルから大勢の声が響いてくる。どうやら、〈冒険者〉の一団らしい。数は四、五人ぐらいだ。
「なぁ聞いたか? 噂の窃盗団の話」
「ああ、聞いた聞いた。〈D.D.D〉が捕まえようとして返り討ちに遭ったんだろ?」
「そうそう、しかも〈黒剣騎士団〉まで出動してさぁ。でも、そいつらはとんずらこいて、結局捕まらなかったみたいだけどな」
「へぇ~、そんな奴らが居たのか。物騒な世の中になったもんだよな」
「まったくだよ。それで、今度の日曜日、〈円卓会議〉で緊急会議を開くらしいぜ」
「へぇ、そりゃ大変だな」
シゲルは会話を聞き耳立てていたが、やがて興味を失ったかのように食事へと戻った。
雪丸は少し不安そうな表情を浮かべている。
「大丈夫だよ。きっと犯人はすぐに逮捕されるって」
「そうですね……」
だが、シゲルも内心では少し複雑な気持ちだった。と言うのも、その窃盗団に一番被害が合っているのは〈ホネスティ〉だったからだ。
『〈ホネスティ〉は他の戦闘系ギルドと比べても頼りない』
今のアキバにおける自分のギルドへのイメージはこうだ。もちろん、シゲルは〈ホネスティ〉のメンバーが弱小ギルドだとは思っていない。だが、〈大規模戦闘〉での経験は少なく、他の戦闘系ギルドと比べるとどうしても見劣りしてしまうのは事実である。
それに、〈ホネスティ〉に所属しているメンバーの大半はリーチャーと言うギルドに所属していても狩りや生産などの行為を行わない者達が多く、ギルド内でも反感を買っている。シゲルはその板挟みに合っているのだ。だからと言って、シゲルは自分の方針を変えるつもりはなかった。自分が信じた道を進むのみだと思っている。
◇
その頃、シゲル達が中華料理店に居る間に、寝静まった〈アキバ〉の街で小さな事件が起きた。生産系ギルドが営んでいる店の一つに、泥棒が入ったのだ。
人影の数は十人程度。数は比較的多いほうだ。
「へっへっへ、チョロいチョロい」
「見つかる前にとっととずらかるぞ」
「へいへーい!」
声はそんなに年を重ねてはいない。背丈もそんなには高くはない。少年ぐらいの年のようだ。少年達は盗んだものを荷物に纏めると、荷車に乗せて運びだした。 窃盗団達は、気付かれないままアキバの街の外へと何とか脱出する事に成功する。しかし、アキバの街から脱出したのは良いものの、アジトに帰ったら、これから先どうするかなど、逃げながら考えていた時、後ろから声が響き渡る。
「待て、ガキ共!」
その声に、窃盗団達は立ち止まる。やはりこうなったか、と。周辺の警備が薄かったのは、ここ最近の窃盗団の犯行に敏感な組織があると聞いている。〈D.D.D〉だ。
窃盗団達は誰もが「マズい」と、そう思っていた。警備兵のレベルの方は中堅クラス。相手は二、三人程度で、レベル六十から七十。対して、窃盗団の方は十二人で数は多いが、レベル四十から五十程度。相手とは十以上の差がある。
殆どが尻込みをする中、二人の少年だけは堂々としていた。
「どいてろ、お前ら」
二人のリーダー格の一人が、前に出る。レベルは五十一。少年の姿は青みが掛かった黒髪で短髪。褐色肌で、タンクトップを着て筋肉質な体格をしていた。
「あぁ? 何だお前」
「俺達に勝てると思っているのか、テメェ」
だが、少年は自信ありげの様に一番レベルの高い〈冒険者〉に指を差した。
「PvPを申し込む」
その瞬間、警備兵達から笑い声が響き渡る。二十もレベル差があるのに、勝てるわけがないだろう、と。
「頭に乗るなよ小僧。でも良いぜ。その生意気な顔をボコボコにしてやるよ!」
一番高いのはレベル七十二、相手はレベル五十一。警備兵の〈冒険者〉は〈D.D.D〉の〈冒険者〉だった。ここ最近、戦闘する機会が無くてストレスが溜まっていたので、警備兵のアルバイトをしていたのだ。〈D.D.D〉の〈冒険者〉は誰もが自信満々にそう思った。
(これなら勝てる……!)
◇
PvPが始まった瞬間、戦いは一瞬にして終わった。
「なん、だと……!?」
先に、一撃を入れられたのは〈D.D.D〉の方だった。男はそのまま泡となって崩れ、武器の装備品が周囲に散らばる。
「何!?」
驚く二人の男達は、少年のステータス画面を確認する。すると、先程までレベル五十一だった筈が――
「……は? れ、レベル100……だとっ!?」
驚くべきことに、少年のレベルは凄まじい速度でレベルが上がっていたのだ。
「頭に乗るな……? 頭に乗っているのはそっちだろうがよ」
邪悪な笑みを浮かべた少年は、雷光の玉を出現させる。レベル五十程度の〈冒険者〉ならば相手に出来ると見誤った男二人は、すっかり恐縮してしまった。レベル100が相手では、三十レベル以上も差がある相手では敵う訳ないと。
「こ、此奴、まさかオーバーライド使い!?」
「ま、待ってくれ、お、俺達が悪かった! だから許して――」
二人の男は停戦を図ろうとするも叶わず、少年の〈口伝〉は放たれた。
「〈雷光の破斬〉!!」
その巨大な雷光の玉は、二人の警備兵に向けられて放たれた。
「「ぎゃあああああっ!!!」」
〈D.D.D〉の男達は悲鳴を上げながら、そのまま消え去った。
「へっ、ザマァ見やがれってんだ」
少年は強かった。恐らく、窃盗団の中では随一の強さを誇るだろう。
彼の名前はヴォルト。この少年こそが、シゲルをとある事件に巻き込む切っ掛けとなる人物である。
◆
―― レイド会館最上層〈六傾姫の間〉
それから数日後の日曜日、〈円卓会議〉で緊急会議が開かれる事となった。
「んで、窃盗団退治ぃ? なんだそりゃ」
「ここ最近、飲食店や雑貨店などの資金や商品などが盗まれるという事件が起きているんです」
「既に我々が運営している店が何件かが被害に合っている」
「そら物騒やねぇ、ウチのギルドは今の所は被害が合ぉてへんのやけれど」
ミチタカは複雑そうな顔で報告する。マリエールは心配そうに言う。
「えぇ、ですので、今回はその犯人を捕まえる為の対策会議を行いたいと思います」
その議題にはシロエが代表として出ていた。今回の話題はアキバに隠れ潜む窃盗団についての事だ。シロエは淡々とそれまでの経緯を伝える。
「〈海洋機構〉や他の生産系ギルドだけではありません、つい最近〈西風の旅団〉の〈冒険者〉にも被害がありました」
シロエがそう発言すると、ソウジロウが立ち上がる。
「ハイ、シロ先輩の言う通りです。つい先日、僕達の仲間が窃盗の被害に会いました」
「まんまとやられちまったよ。一瞬の内に盗み取られるなんてね」
ソウジロウもナズナは怒る気配はなく、寧ろ「やられてしまった」と、困った表情を浮かべている。窃盗は殺人ではない為に、衛兵が現れる心配はない。だからこそ、質が悪い。窃盗は大した罪にはならないが、やはり犯罪は犯罪だ。一刻も早く対処しなければならない。
「そう言う訳で、これ以上の被害が及ばせない為にも、事態を最小限に抑える必要性があります」
「クソッ、ネズミじゃあるまいし!」
「全く、迷惑な話ですよ」
〈海洋機構〉のギルドマスター、ミチタカと〈第八商店街〉のギルドマスター、カラシンは苦々しい顔で苦言を呟いた。
「そこで、皆さんには窃盗団の確保を手伝ってもらいたいと思います」
〈天秤祭〉以降、祭り騒ぎが静まったのか、再び街が〈大災害〉直後の状況に戻りつつあると話題になっていた。その中でも特に悩まされているのが、会議で話題にもなっている問題の一つ、窃盗だ。
「〈大地人〉である可能性は?」
「いいえ、その可能性はないかと。恐らくは今回も〈冒険者〉の仕業でしょう」
「何故そう言い切れるのだ?」
〈大地人〉が犯人である可能性を否定したシロエに対し、茜屋が問う。
「前例があるからです。以前にも、似たような出来事が何回かあり、そのどれもが〈冒険者〉による犯行でした。〈大地人〉との共謀である可能性も低いです。そして、何よりも戦闘による熟練度が違いすぎる。ただ、カンストするくらいのレベルではない事とからして、大して強くはないレベルだと思われます。第一、レベルの低い〈大地人〉にはレベル50以上の魔法など扱いきれないはずです。つまり、これらから予測するに、中堅クラスの〈冒険者〉であると予測されます」
窃盗団の〈冒険者〉は中堅クラスの魔法を使えた事から、レベル50以上であることは確かだった。しかし、レベル80以上で使用出来る魔法を全く使わなかったことから、相手は中堅クラスの人物だと予想出来る。
「今回の犯行についてですが、とても素人の動きとは思えません。かなりの手練れだと思われます」
「……成程。それで、我々は何をすればいいのだ? 捕まえるとは言ったものの、相手は〈冒険者〉だ」
「えぇ、そこでお願いしたいのが、〈三日月同盟〉などのレベル五十以下の新人〈冒険者〉が所属しているギルドに協力を仰ぎたいという事です」
「えっ、ウチらが協力を?どないしたんや、急に」
シロエの頼みにマリエールは驚く。
「今回の作戦は、同年代の〈冒険者〉の協力が必要なんです。つまり、レベル五十前後の〈冒険者〉が」
「なるほど、そういう事ですか」
シロエの説明を聞いて、ヘンリエッタは納得する。
「それに〈冒険者〉同士であれば、お互いが合意の上でPvPを行う事が出来る筈です」
これらの情報から推測するにあたって、シロエは〈冒険者〉の仕業であると確定。これ以上の窃盗団の犯行を防ぐ為にも何かしらの対策を施さらないといけないと判断した。
「それにしても、窃盗団ですかぁ」
「ウチのギルドにも被害が出ないか心配だな」
「一刻も早くの処置が必要ですな」
「そんでもって、既に討伐に出陣させるメンバーは決まっているのか?」
「作戦が整い次第、こちらの方で決めたいと思います。出来るだけ、アキバの街全体に包囲網を張るように呼びかけたいと思います」
生産系ギルドにとって、窃盗団の存在はとても危うい。万が一に商品が盗み取られてしまう事になれば一大事だ。当然、シロエもその事は察しており、早急な対策を考えていた。
「それで、窃盗団に対抗する手段はあるのか?」
「既に対策の方は万全です。なにせ、目撃情報が出ておりますので」
「本当か?」
「リーゼさん、お願います」
シロエは〈D.D.D〉の教導隊長、リーゼの方に向き直る。
「はい、先日の件ですが、我が〈D.D.D〉のメンバーがアキバ外で戦闘行為を行ったみたいらしくて。その時の〈冒険者〉が……入りなさい」
リーゼは後ろに控えさせていた〈冒険者〉を呼びかける。その〈冒険者〉は、窃盗団に敗れた三人の〈D.D.D〉の〈冒険者〉の内の一人だった。
◆
会議が終わり、〈記録の地平線〉のギルドホールでは、ギルドマスターのシロエの呼びかけにより、年少組の四人が集まっていた。
「お、俺達と同年代!?」
「それって、私やトウヤと同じくらいの年の子供もいるってことですか!?」
目を丸くし、仰天する双子の姉弟。二人の隣に座っている、同じ年少組であるルンデルハウス=コードと五十鈴の二人も驚きを隠せていない。
「正確にはトウヤやミノリと同年代の子供が中心となっている、と言った方が良いかな? 目撃情報からしてその確率が高いからね。それで、出来れば同年代である子供達、ミノリ達の協力が必要だと思って」
会議が終わった後の夜、一応ミノリ達にも報告することにした。
「それで、窃盗団の確保と討伐についてなんだけど……もし良かったらミノリとトウヤ達にも協力をして貰いたいんだけど……良いかな?」
年少組の四人は少々戸惑っている様子だったが、トウヤは覚悟を決めたかのように立ち上がった。
「勿論だぜ! シロエ兄ちゃんが困っているなら何だってやってやるさ!」
「わ、私も、頑張ります!」
「僕達も協力をしよう、窃盗なんて恥ずべき行為だっ」
「そうだね、絶対に止めさせなくちゃっ!」
弟のトウヤに負けないと応じるミノリや、ルンデルハウスと五十鈴の二人も承知すると、様子を見ていたアカツキとにゃん太の二人はホッと胸を撫でおろした。
「作戦は明後日、作戦内容は当日伝えるから、それまでに各自対策と訓練は欠かせないこと。良いね?」
「「「「ハイ!」」」」
◇
「へっへっへっ、あっちは如何やら面白そうなことをしてそうだな」
シロエ達が年少組と会話している内容を、木の上で金髪のツーブロックの少年が、望遠鏡で覗きながら窺っていた。
少年は望遠鏡を下ろすとすぐに仲間への念話をする。
「此方、ウィズ。如何やら、彼方側で作戦が立てられる様子。至急、対策を要求する」
その日、シロエ達は知らなかった。まさか窃盗団相手に、こんなに悪戦苦闘させられるとは……。