商人(5)
グレンが食事を終えて、宿に戻ると、そこには何やら怪しげな植物や器具に囲まれたリリスが、いくつかの小袋を携えて彼を待っていた。
「えーと、それは何ですか?」
グレンが尋ねるとリリスは微笑み答えた。
「ふふ、ちょっとした準備よ・・・今晩のためのね。」
それを聞いたグレンは驚いたように返した。
「まさか、本当に今晩のうちに動くんですか?」
リリスは何を当たり前のことを、と言わんばかりの表情でそうよ、と答えた。
リリスの話によれば、今晩、商会内の人が出払っているタイミングで、この小袋を商会の会議室に設置する。そして、商会長である貿易商の家へと向かい彼を殺害したのち、彼を装って、商会の幹部たちに会議を開く旨を告げる、とのことであった。
「ということは、その小袋に、例の洗脳の効果がある、ということですね。」
グレンがそう問いかけると、リリスはフフフ、とだけ微笑んだ。
「さて、それじゃあサクッと小袋の設置をすませてしまいましょう」
リリスがそういうと二人は人気の失せた商会内へと忍び込んだのだった。
結論からいうと、小袋の設置はさほどの苦労もなく完了した。それなりに大きな商会であるため、当然夜番の雇われ兵士の姿もあったのだが、リリスが何かをしたのか、商会へと侵入する彼らの姿をとらえることすらできなかったようで、二人は裏口から、それなりに堂々と内部へと入ることができた。商会の内部にはいくつかの部屋があったのだが、リリスはまるで勝手知る自身の庭であるかのように、迷いなくその歩を進めると、一つの大きな会議室にたどり着いた。
「ここが、よさそうね」
リリスはそれだけつぶやくと、そのドアを開き、会議室中の目立たない場所、荷物の影などに、その小袋を隠した。そして、一仕事終えた、とばかりに一息つくと、リリスは
「さて、次は商会長のお宅訪問ね」
そういって、商会を後にしたのだった。




