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とある村の少女 (3)

「それで、どうかしら、同じことを他の人たちにもしてあげられたら、それってとっても素敵なことだと思わない?あなたとお母さんがこれまでもらってきたプレゼントを、全部村のみんなに返してあげるの・・・ウフフ」


魔女は少女に微笑みかけた。


「安心して、私があなたの手助けをしてあげる。必要な魔法は教えるし、あなたになら使いこなせるわ。私が保証してあげる。」


ただ、と魔女は続けた。


「ひとつだけお願いがあるの。」


ーーーことが済んだらあなたの体を貸してくれないかしら?


「体を貸すって、どういうこと?」


少女は魔女に聞き返した。


「私はね、昔はとっても強い魔女だったのだけれど、ちょっと事情があって、今は自由に使える体がなくて不便なのよ。だからね、あなたの体を貸してほしいの。心配しなくても、良いわ。あなたの体を借りているあいだ、あなたが退屈しなくてすむように、きちんと配慮するつもりよ。私が体を借りている間、あなたはずっと遊んでいられるわ。」


どう、悪い取引じゃないでしょう?そう尋ねる魔女。あいかわらず不気味な表情を浮かべる彼女だったが、生きてきた意味を持たない少女にとって、実質的に取れる選択肢は他になかったのだ。


少女は魔女の手をとった。


「うふふ・・・いいわ・・・契約成立ね。」



その頃、村の広場では突如苦しみだして死んでしまった少年についての議論がなされていた。


「いったい、どうしてこんなことに」


「なんでうちの坊主が・・・うう・・・」


泣き崩れる少年の両親のそばで震える少年の友人たち。ふと、村の男の一人が口をだした。


「そんなの決まってるだろ!こんなのどう見ても呪いか祟じゃねえが!そったら、犯人なんてひとりしかおらんじゃろが!!」


自らもそうなるかもしれない、という思いがそうさせているのだろうか、激昂する男に同調するように、そうだそうだ、と他の村人たちも賛同していく。


「殺すしかねえ、忌み女とか言って生かしといたのが甘かったんじゃ。」


「そうだ、コロせ!コロせ!コロせ!コロせ!」


そして暴力の衝動に引きずられ、村人たちはまず、家で寝たきりの少女の母親を手にかけた。頭に重たい石をぶつければ、それは一瞬で済んでしまった。特に感慨もなく村人たちは次に、少女の姿を探して村を練り歩く。


「どこだ!どこに行きやがったクソガキが!見つけ出してコロせ!」


怒りに我を忘れた村人たちのその頭上。村を一望出来るその位置に、少女は浮遊していた。


「さて、はじめましょうか」


魔女がそう声をかけると、少女は力ある言葉をつぶやき始めた。古代の言葉、世界そのものに働きかける力をもつその神秘の言葉によって、世界の法則が書き換わる。少女がおもむろにその腕を指揮者のように震えば、その腕が通過した線上の村人たちがバタバタと倒れ、もがき苦しみ始めた。


「うあああ、痛い痛い」


「なんで俺が」


「助けてくれ」


まさに阿鼻叫喚。地獄が顕現したかのようなその光景が、ただ一人の少女によって起こされるその様はまるで悪夢のようで、しかし当の彼女はこれまでの人生で初めて浮かべる清々しい表情をしていた。


「良いわ!鏖殺なさい!ほら、あそこにあなたを犯した男がいるわ!あそこにはあなたに石を投げた小僧もいるわよ!あはは、あははは、あはははははは」


そうして最後の一人が息絶えた時、少女は今までにない充実感を覚えながら、同時に、すべてが終わってしまったのだ、という寂寥感のようなものを覚えていたが、その感情が一体なんであるのか、彼女には理解することができなかった。しかし、そんな表情を見た魔女は呟いた。


「それはね、寂しさ、という感情よ。でも安心なさい、これで終わりじゃないわ。あなたの復讐はこの先ずっと続くの。それが私からあなたへ送る、最後のプレゼントよ。」


そういうと魔女は少女を抱きしめ、その場には少女の姿だけが残った。しかし、その少女の中身はすでにもとの少女のものではない。


「さて、仕上げと行きましょうか」


少女がつぶやくと、村全体を覆うような巨大な魔法陣が描かれた。もし、この場に霊的な存在をみることの出来る素質のあるものが入れば目を覆ったことだろう。彼女が書いた魔法陣は、その場から離れようとしていた村人たちの魂をすべて地面へと縛り付けたのだ。


「それじゃあ、あとは好きにして良いわよ。」


魔女がそう告げると、かつてその少女の中にいた魂であった魔物は、嬉々として、今度は村人の魂たちに、永遠の責苦を与えるために飛び立っていった。



王都から程遠い、寂れた廃村には、とある噂がある。その廃村には未だ、かつての村人たちの魂が閉じ込められており、かれらがかつていじめていた少女の魂によって、永遠の責苦をうけているのだという。


「ウフフ、望外の成果ね。自ら望んで捧げられた状態の良い物理的身体が得られたばかりか、半永久的に可動する恨みの炉まで手に入るなんて・・・クスクスクス」


魔女は笑いながら次なる生贄を探す。


「けど、少し大掛かりにやりすぎたかしら、あの人にサプライズがバレないと良いけど・・・ウフフ・・・待っててねムルムル・・・直ぐに準備をととのえるわ」


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