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さる聖女の後悔と信仰の対価(4)

 「ねえ、私のこと、まだ友達だと思ってる?」


 切り出したのはルパからだった。


「その、ごめんなさい。私、そんなつもりじゃなくて…ただ…昨日は、あなた、フォルティスの間に何があったのかを聞きたかっただけで…」


 どう説明をしたものか。言葉を紡ごうとするが、どうしてもしどろもどろになってしまうサナ。しかし、ルパはそんなサナの様子を無視して、ただ責めるように言葉をつづける。


「私たちのこと、応援してくれる、って言ったよね?」


 有無を言わさぬその圧力に思わずたじろいでしまうサナ。ルパはその胸倉をつかみ、しかしすぐに崩れ落ちてしまう。


「どうして?なんで…どうして?」


かける言葉が見つからずにサナはただ呆然とその場に立ち尽くすほかなかった。永遠のようにも感じられる気まずい沈黙。ただ、サナのすすり泣く声だけが響き渡り、そしてついに彼女は口を開いた。


「私に、私に申し訳ないとか思わないわけ・・・?」


 顔を上げたルパの目には、並々ならぬ怒りの色がともっていた。その目に射貫かれて、やや気圧されるようにサナは口を開く。


「そ、それは、その・・・」


どもりながら言葉を紡ぐサナにルパは再び激高した。


「良い子ちゃんぶってるんじゃないわよ!昔からあんたのそういうところ大嫌いだったの!煮え切らない態度じゃなくて!はっきりしてよ!どっちなの!あやまるつもりあるの!?」


そのこれまで見たことのないような彼女の変貌ぶりに、サナは思わず唾を飲み込んで、焦ったように謝罪を放った。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


瞬間、ルパがサナの頬へと張り手を放つ。パシと、鋭い音が部屋に響く。驚きことばを失ったサナへとルパが言った。


「修道院」


唐突なルパの言葉に、その意味が分からずサナは思わず問い返してしまう。


「え・・?」


すると、わかるでしょ、とでも言いたげな、泣きはらした真っ赤な目でルパは彼女を見つめると言葉をつづけた。


「あんたは、これから一身上の都合で修道院に行くの。そして、もう金輪際、私とフォルティスにかかわらないで…」


 それが、彼女とサナの、最後の会話だった。


□□□


 修道院は、世俗から離れて聖職者となるための道の一つである。ルパの提案をのみ、修道女となったサナは、外界との接触を禁じられ、ただひたすら、聖職者としての修行へと打ち込んだ。元々希少な奇跡を持って生まれた彼女が聖女として認められ、聖職者としての地位を得るまでに、それほど時間はかからなかった。


 しかし、彼女が修道院を出た頃には、世界はすっかりと変わっており、そして彼女は一つの知らせを耳にすることとなった。


 あの日別れたルパとフォルティスは、のちに有名な冒険者パーティとなり、フォルティスはなんと勇者にも認定されたそうなのだが、勇者としての責務を果たすため向かった場所で、行方不明、ルパについては死亡が確認されたとの事だった。


「あの日、あの過ちさえなければ、私たちは今も一緒に、楽しく過ごせていたのでしょうか…?ルパ、フォルティス…」


□□□


 ウルトルの勇者認定から数日後。良く晴れた青空が広がるとある休日。穏やかな日常の空気を切り裂くように、その日、教会に一人の男が運び込まれた。


 男はどうやら大変な重症を負った状態で町の外れに倒れていたらしく、すぐに治癒の奇跡もちと聖女が呼ばれ治療にあたることとなった。しかし、一体なんの因果であろうか。


 運び込まれた男の顔は、どこか聖女の見知った男と瓜二つの容貌をしていたのだった。


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