さる聖女の後悔と信仰の対価(3)
二人が部屋に入ると、フォルティスはサナに椅子へと座るように促し、紅茶を二人分用意した。そうして、少しの沈黙の後、ようやく話しづらそうに口を開いたのだった。
「ルパに、告白されたんだ」
サナには驚きはなかった。以前からルパの好意は聞かされており、あとは彼女がいつ勇気をふり絞るのか、という問題だったのだ。
「そう、なんだ・・・」
しかし、サナには、それなら何故フォルティスが今のような表情をしているのか、それが分からなかった。
「それで…その…どうして、二人とも今日みたいな…その…」
どう尋ねたら良いのか分からず、思わずサナの言葉もしりすぼみになってしまう。すると、それをさえぎるようにフォルティスが言葉を放った。
「断ったんだ」
それを聞いて思わずそらしていた目線を上げたサナ。
「え・・・?」
するとサナを真剣な表情で見つめていたフォルティスと、その目があってしまい見つめ合う形になってしまう。思わぬ状況に、理解の追いつかないサナであったが、しかし、その心のうちには、なにか無視できないマグマのような高ぶりをたしかに感じていた。
「断ったんだ、おれは、俺は…」
目の前のフォルティスが、何かを伝えようとしている。しかし、サナはなんとなく、この先を聞いてはいけない、そんな気がしてしまい、おもわず呟いてしまう。
「だめ、その先は、それ以上は」
しかし、衝動を抑えきれない、とばかりにフォルティスはついにその気持ちをサナへと告げてしまう。
「おれは、サナ、お前のことが好きなんだよ」
とくん、と心臓が高鳴る。断るつもりだった、彼が何かを言う前に、ルパの気持ちを考えてと、そう伝えるはずだったのに。
「もう、自分に嘘はつけないんだ」
そう呟くと、フォルティスは強引にルパの唇を奪った。
「だ、だめ…」
突然のことに理解が追いつかないまま、かろうじて最後の抵抗を試みるサナであったが
「だめじゃない」
そう呟いて強引に覆いかぶさってきたフォルティスを、彼女はついに断りきることができなかった。
ルパへの罪悪感、今まで見たことのない幼馴染の姿、突然訪れた強引な変化に、彼女の心情はぐちゃぐちゃになりながらも、たしかにその晩、サナは今まで覚えたことのない充足感を覚えていたのだった。
「どうして…」
だからだろうか、二人はついに気が付くことがなかった。窓の外から、部屋の中をのぞく、一人の姿に。
「どうして…どうして…どうして?」
□□□
事が終わった後、二人はルパに怪しまれぬ為に、夜が明ける前にそれぞれの家へと戻った。別れ際、別れを惜しむフォルティスに対して、サナははっきりと告げた。
「今晩のことは、忘れてください…」
それを聞いて、はっとした顔をするフォルティス。
「ごめん、無理やりみたいな形になっちゃって…でも、俺は本当に、サナ、君の事が…」
なぜ自分がそんな事をしたのか、サナには理解ができなかった。しかし、彼女は彼の唇を自らの唇でふさぐと言った。
「その事は後悔してません。でも、私は、ルパのことも考えてあげたいの」
ここまで来てそんな事をいうのか、自分の中の何かが自らを糾弾した。しかしそれでも、サナにとって大事なもう一人の幼馴染をないがしろにする、という選択肢は彼女にはとれなかったのだ。
依然として納得が行かない、という顔をしたフォルティスであったが、サナはペコリ、と頭を下げるとその場を後にしたのだった。
□□□
その日の早朝、部屋のドアをたたく音で、サナは目をさました。
「こんな時間に一体、だれかしら・・・?」
寝ぼけ眼で寝床から起き上がり、ドアを開いた彼女の目の前にいたのは、ルパであった。
「ルパ、どうして・・・?」
言いかけたサナであったが、それ以上言葉をつづける事はできなかった。なぜなら、ルパの目は、まるで一晩中泣きはらしたかのように真っ赤で、そして、その瞳には悲しみだけではない、サナを糾弾するような、怒りと憎しみの混ざった炎を浮かべていたのだから。
サナは、察したのだ。
「ああ、ルパ、あなた…」
全部見てたのね。




