夢見の力(6)
とある村で奇妙な事件が起きたらしい。その村と取引のあった行商人が第一発見者であったそうだ。彼が村につくと村には普段の活気はなく閑散としており、そして、極めつけは、村の中央にある広場である。村人たちが互いに殺し合った、としか言いようのない死体が、ゴロゴロと転がっており、そのような光景に馴染みのなかった商人はその場で一度吐き戻してしまったそうだ。
なかには、自害したと思しき死体もあり、とくに司祭については自害した後村人たちによってばらばらにされたのだろうか、遺体の損壊が激しく、一部は村人たちの口内から発見されたという。
不思議なことに、村にいたはずの少女一人と、その家族の姿が見つからなかったそうだ。しかし、司祭の残した手記から、とある少女に、魔女としての疑いがかかっていたそうで、その場を調査した者たちは、その魔女が何かの鍵を握っているものとみて調査を進めているそうだ。
「…と、いう事みたいなんだけど?どう思う?」
そう尋ねたのは、どこか知的な雰囲気を漂わせる銀髪の少年、ムルムルであった。
「どうも思いませんよ。確信を深めただけです。いかにも魔女らしい、惨たらしい手口ですね。私の故郷を焼いた、両親の命を奪ったあの魔女と同じです。やっぱり、全ての魔女はこの世から駆逐しなければいけません」
答えたのは少女であった。その身をそれなりの装備をまとった少女のその両目には、信念の炎が宿っていた。
「魔女は、殺す。一人残らず鏖殺する。それが私の生まれてきた意味だから…」
それを見て満足げに少年、ムルムルはうなずいた。
「そうだね。それで良い。ウルトル。君が正義の心を持ち続ける限り、僕はいつでも君の味方だよ。さて、ココに来た目的は覚えているかい?」
そう問いかけたムルムル、そしてウルトルと呼ばれた少女の前には大きな教会がそびえたっていた。
「ここで、勇者としての認定を受ける。それが済めば、魔女の情報が手に入りやすくなるし、装備に関してもある程度優遇される…そして、ある程度行動について特権が認められる、そうでしょ?」
確認するように言った少女に対し、ムルムルは満足げにうなずいた。
「そうだ。荒野を行く復讐の女神、なんてのも僕としては嫌いではないのだけれど、ここは賢く立ち回ろうじゃないか。使えるものは全部使う。そうして、君の思う正義をなすんだ。」
そう告げたムルムルは少女の手をとり、教会へと向かう。その日、この世全ての魔女をうち滅ぼすという誓いとともに、一人の協会認定勇者が誕生した。教会は、そして人々はこれを祝福し、そして誰一人として、この世界が平和であり続けることを疑いなどはしなかったのだ。
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夜。欠けた月がわずかに道を照らすのみとなったとある野道を、一人の魔女が陽気に歩いていた。美しく、しかしどこか怪しげな鼻歌を奏でながら、魔女は嗤う。
「ウフフ…順調、実に順調ね…ああ…愛しのムルムル…あなたは今どこで、何をしているのかしら…」
私はまた一つ、あなたをこの腕に抱きしめるための準備を整えたわ―――
そう呟いた魔女は一つの瓶を抱えていた。瓶の中には何やら輝きを放つ一輪の花が、しまわれており、魔女はその花を慈しむように瓶のふちを撫でている。その様はまるで、王都で有名な絵師が描いた貴族の絵画のようですらあった。
しかし、その一輪の花の正体は、先の村で出会った少女。魔女として処刑されかけていた彼女が、新たな力に目覚めるために破棄せざるを得なかった、彼女自身の力そのものであった。その花は透き通るように白く、まるで彼女本来の純粋な性格をあらわすかのようである。
「パズルのピースは順調にそろってきたけれど…ああ!待ちきれないわ、早くあなたに会いたいの…ムルムル。でも今は我慢が寛容…次は、そうね、このお花をもっと輝かせてくれそうなそんな人に、早く会えると良いのだけれど…フフフ…ウフフフフ」
笑いながら魔女が歩を進めると、いつの間にかその姿は消えており、後には不自然に萎びた道端の雑草のみが残された。




