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夢見の力(5)

 その糾弾を聞いて愕然としたのはスアビスであった。


「どうして・・・?」


 思わず心の内をこぼしてしまうスアビス。良かれと思い、仲を取り持ったはずが、余計な事であったのだろうか?そう考え、男をみたスアビスは見つけてしまう。彼の手に、今まで見たことのない豪華な金のブレスレットが嵌められていることに。


「まさか、お金で…?」


信じていた、また助けようと思っていた村人の裏切りに一瞬頭が真っ白になったスアビス。すると、主要な村人たちが次から次へとスアビスへの疑心をあらわにし始めた。


「なんだよそれ!」


「おれもおかしいと思ってたんだよ」


「魔女は殺せ!」


そうだそうだ、と激しくなる観衆。ふと、スアビスはその中に見知った顔がないことに気が付いた。


「ちょ、ちょっと、私のお父さんとお母さんはどこ!?」


慌てて叫んだスアビス。村人たちは一瞬野次を止めると、気まずそうな顔をして押し黙ってしまう。それをみて司祭がスアビスへと説明する。


「魔女を産んだ汚らわしいものたちには、一足先に退場していただいたのだ」


痛ましい事件だった、とでもいうかのような声で告げた、司祭。しかし、その口元は、スアビスにだけは見えるように、ニチャリと不快に歪んでいた。


「たい…じょう…?」


司祭の言葉が理解できずにスアビスは惚けてしまう。すると、それをみた村人たちはばつの悪さを隠すようにぼそぼそと話初めた。


「仕方がなかったんだよ…魔女の処刑に反対なんてするから…」


いつもスアビスに野菜を分けてくれたおじさんがつぶやいた。


「そ、そうだ、元はといえば、あいつらが悪いんだ!」


お調子者で、しかし村のムードメーカであった若者も同調するかのように叫びだした。


「安心してください、皆さんは正しいことをしたのです。既知の人物を裁くことはとても辛い出来事だったでしょう。ですが、神はあなた方の正しい行いをみられておりますよ。この司祭が保証します。」


 司祭の言葉に調子を取り戻す村人たち。


「そ、そうだよな。魔女をかばった方が間違ってる」


「必要な事だったんだよ…」


村人たちが勢いを取り戻すにつれて、スアビスの頭も、じわじわと、一体何が起きてしまったのかを理解しつつあった。


「どうして・・・どうして・・・どうして・・・?」


スアビスの平和な日常は、あの仲間たちとの美しい日々は、一瞬にして砕け散ってしまったのだ。そのことを理解した瞬間。スアビスの内側からどうしようもないほどの怒りの感情がこみあげてきた。


「ふざけるな!全員死ね!違う!簡単には死ぬな!苦しめ!私より、お父さん!お母さんより苦しんで死ね!おかしくなってしまえ!死ね!苦しめ!死ね!死ね!死ねええええ!!」


一転、異様な雰囲気を醸し出したスアビスを見て、司祭が叫んだ。


「見てください!ついに魔女がその本性をあらわにしました!私たちは正しかったのです!」


その瞬間。スアビスの中で、「何か」が咲いた。


「は・・・?」


 司祭が思わず声をもらした。それもそのはず、腕を広げ高らかに自らの正当性を語っていた司祭、その右腕はいつの間にか、ナイフを、彼が儀式に用いるために持ち歩いていたそれを握り、彼自身の腹部へと突き刺していたのだ。


「うぐぇ…げえぇ…あぎゃぎゃ?」


それを見た司祭は奇声を上げたかと思うと、絶叫とも笑い声ともつかぬ音を発しながら、何度も何度も自らの腹部を突き刺し、えぐり始めた。


「あはははははぎゃははははははギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!あふっ!えふっ!おふっ!」


ザク、ザクとおおよそ日常では聞くことのないおぞましい音とその光景に、村人たちは誰一人その場から動けずにいた。しかし、司祭がついにナイフをとり落とし、その体を地面へと横たえ、ピクピクと痙攣するのみになると、村人たちも事態を理解し始めた。


「え、いや、今のは―――」


 とある村人が、口を開こうとしたその時。ぐちゃ、と何かがつぶれるかのような気味の悪い音が響いた。


「「あぎゃぎゃぎゃ?」」


今度は二人。二人の村人たちがお互いの眼球をお互いの指で穿ちあっていたのだ。奇声を上げながらお互いの目を抉り合う二人。見知った人々の異常な行動を見て村人たちはついに、この場にいる誰一人として例外はない、全員がこの惨劇の対象なのだ、ということを理解したようだった。


「うわあああああああああああ!」


村人たちが絶叫し、いち早くココから離れようと走り去る。しかし、あるものが走り去ろうとすれば、その近くにいた村人が彼をとめ、奇声を上げ始める。


「あぎゃ?」


そうして止められた村人も奇声を上げ始め、やがて一人、また一人を気を触れさせて、奇声を上げながら人間を破壊するだけの装置へとなっていく。


 その惨劇の中心でたった一人、スアビス、少女血の混じる涙をその双眼から流しながら、まるで笑うように絶叫し続けていたのだった。


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