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ロボットアバターで戦いたい! 【すばらしき新世界Re:Birth】  作者: R.U.R.U.R
チャプター1 はじめましてのVRMMO ~白き機神と初イベント~
22/24

第16話 氷楯鋼心 後編 #1

主人公覚醒イベント3回目です。

スキル覚醒し、さいつよへの道へ

※7/1 日間VRゲーム〔SF〕BEST100 64位にランクインしました。

ありがとうございます!



気が付けば俺は妙に低い夜空を見上げていた。

さっきまで森林地帯でグラファイトと殴り合っていたはずなのに、俺はどうしてこんなところにいるんだろうか。


〈目が覚めましたか、【神楯機兵(アイギスガード)】〉


ノイズ交じりの声に振り返るとそこにあったのは、


「……投影機?」


プラネタリウムで見かけるような、重圧なマシンが鎮座していた。

空が近くにあるように感じたのは天井に星像を映していたからだったのか。


「もしかして、喋ったのは」

〈はい、私です〉


投影機がちかちか光を明滅させて喋りだした。

マギアナさんと言い、無機物が流暢に喋るゲームだ。

改めてファンタジーな世界だと実感してしまった。


〈初めまして、私は〈七機兵(アイギス・セブン)〉イベントの管理を行うパーフェクトAIの『 』です〉

「……?ごめん、名前聞こえなかったんだが」

〈『 』です〉


聞き直しても、肝心の情報が一切入ってこない。


〈私の言語、伝わってますか?〉

「いや、伝わってるんだけど。もしかして名前が無いのか?」

〈最初に訪れた方が付けてくれるとGMは仰っていました〉

「それじゃあ、俺が最初なのか?」

〈いえ、ここに招いたのは貴方で4人目です〉

「前の奴らが無頓着だったんだな……」


しかし、アイギスと名の付くXジョブは俺を除いて既に3人いるのか。

俺はガードだけど、他の奴はどんなタイプなんだろう。

何より、この【白き機神シリーズ】の神掛かったデザインと同列ならば、一体どんなエモーションを俺に齎してくれるのか!


〈その間、ずっと「あの」とか「おい」とか呼ばれてました〉

「この話はここまでにしようか」


涙が出そうな辛い話題に、思わず話の流れをぶった切ってしまった。

そんなこと言われちゃ、他のジョブのこと聞けないだろうが!

しかし、名前がないとやりにくいな……。


「よし、〈七機(Aigis)(Seven)〉の文字からとって、AS(アズ)。俺はそう呼ぶな。あと、できれば【神楯機兵(アイギスガード)】じゃなくて、ヒュージって呼んでくれると反応しやすい」

〈わわわわわわわわかりましたたたたたたたたたた〉


めっちゃ嬉しそうに声震えてるけど大丈夫か、この管理AI。


「それじゃアズ。早速だけど、質問いいか?」

「ひぇひゃひひひひ……名前貰っちゃった……嬉しい……名前呼ばれるの……超嬉しい……胸キュンする……」

「しっかりしてくれよパーフェクト管理AI!」


眩しいくらいに天球を点滅させるアズにツッコミを入れてしまった。

さては思春期あたりで成長止まってるな、こいつ。


「はい、質問しますよ質問!俺はデスペナルティになったのか?」

〈違います。互いのスキルが激突した瞬間にセットアップ作業が完了したので、意識のみを此方に転送させてもらいました〉

「それって、戻っても俺は死んでないか?」

〈ここでの1分はゲーム時間にして1秒にも満ちませんのでご安心ください〉


意識が戻ったら、PKされてたなんて情けない格好を晒さなくて済みそうで何よりだ。


「次、セットアップってのは?」

〈先ほどの戦闘中に条件が満たされたことで、【神楯機兵(アイギスガード)】の自己強化スキル≪氷晶練成(グレイシャルモード)≫が解禁されたのです〉

「じゃあ、この空間に呼ばれたのはその解説イベントみたいなもんか」

〈はい。このスキルを使用することで、時間制限はありますが【神楯機兵(アイギスガード)】本来の力を行使することが可能となります〉

「本来の力とくるか。それを使ったら、俺はあいつに――グラファイトに勝てるのか?」

〈可能です〉


俺はどこか安心していた。

出来るとは断言してくるよりも、不確定を含んだ物言いのほうが不思議と信じられるのはロボットアニメの見過ぎだろうか。


〈ただし、今のひゅ、ふひっ……ふへっ……ヒュージ、ふひひ、ヒュージ〉


頼むから、名前呼ぶだけで興奮しないで頂きたい。


〈ひゅひゅヒュージが≪氷晶練成(グレイシャルモード)≫を成功させる確率はかなり低く、デスペナルティになる可能性が高いため使用は推奨できません〉

「ちょっと待ってくれ。俺が死ぬ可能性があるのかよ?」

〈一度目の使用の際にはパーソナルコードの認証などを行うため、過負荷がかかります。認証に成功すれば、次使用からは問題なく行使できます〉

「その一回目が懸念材料ってわけか。それで、成功率ってのはいかほどよ?」

〈基本ジョブと後継ジョブそれぞれ60レベル超過で100%となりますので、今のヒュージならば……高く見積もって10%です〉


勿体ぶった言い方をするが、なんだ10%もあるじゃないか。


「それだけあれば十分だ。やり方を教えてくれ」

〈迷いがないのですか?〉

「確率なんてただの目安だぞ、アズ」


元からゼロに近い勝率なんだ。

勝利へのチャンスがあるなら、それに賭けるしかない。


「第一な、俺はシミュレーションゲームの超ロボットウォーズで確率なんて当てにならないのを痛いほど思い知ってるんだ」

〈魂のこもった言葉ですね〉


あのゲーム、3%あればこっちの攻撃を回避しやがるからな。

そのくせ、こっちの攻撃は99%でも容赦なく外れるし。


「それにさ。恥ずかしいけど結局のところ、」


人前では絶対に言えない本音がドーム状の天井に反響する。


「女の子を泣かせっぱなしにしてたら、男として情けないんだよ」


涙を流して謝罪をしていたルーチェさんをあのままにしていいわけがない。

純粋にゲームを楽しんでいるその心を少しでも癒してあげたいんだ。


〈仕方ありませんね〉


アズの声は呆れるような言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうだった。


〈此方でもサポートプログラムでフォローを行います。そうすれば成功率は40%まで上昇します〉

「サンキュー、アズ」

〈フヒッ……男性にお礼……始めて名前を呼ばれた相手に……ヘヒャッ〉


俺は本当にこいつに頼っていいのだろうか。


「とにかく!残りの60%は俺が勇気と気合と根性で20%ずつ補っとけば100%になるな」

〈その思考パターンは始めてです〉

「ロボオタなら黄金パターンだぜ」


ブイサインを返すと同時、俺の頭に使い方が出力される。

膨大な情報が流し込まれるが、それは最初から俺の知識の一部だったように違和感なく溶け込んでいく。

全てを受け取り、俺はアズを見上げて宣誓する。


「それじゃ、勝ってくる」

〈ご武運を〉


そして、俺の意識は森林地帯へ送り返された。





「なんだ!?」


意識を取り戻すと同時に、光が爆ぜた。

グラファイトが即座に大きく退く。


「テメェ、なんだよそりゃあッ!」


見覚えのある蒼色、身体を走るラインと同じ色をした粒子が俺の周囲を漂っていた。

頭に浮かんだ手順の通り、右手を突き出す。

光が掌中で結合し、実体となって握られる。


「これが〈グレイシャル・バレット〉か」


名の通り、半透明の弾丸状ケースには蒼白色の液体が充填されている。

これが能力を一時的に開放するためのエネルギーになるらしい。

しかし、これを使えば最悪デスペナルティになる。

その確率は決して低くない。


『ひぐっ……ごめんなさい、ヒュージさ、ごめんなさい……』


臆した俺の頭の中に聞こえたのは、ルーチェさんの悲哀の声。

今になってビビるなんて、どれだけ臆病なんだよ俺。


「……何も迷うことはないよな」

「何をブツブツと呟いてやがる!」


不意のことで警戒をしていたグラファイトが、鉄棍を構える。


「今更何をしようがテメェの負けは決まってんだよ!」

「何勝手に決めつけてるんだよ」


弾丸をイベントリに放り込むと、簡易ステータスに弾丸のシンボルが表示される。

いくぞ、アズ。

見ててくれ、ルーチェさん、ウェンディ。


「勝つって言っただろうが!」


確率などクソくらえ。

折れない心と負けない思いを重ねて、スタートアップワードを喚叫ぶ。


「グレイシャライズ!」

【リアライズ開始】

〈サポートプログラムを起動します〉


全身から噴出した白と蒼の光が、旋風を巻き起こす。

感じたことのない力が高揚感とそれ以上の激痛を伴って、全身を駆け巡る。

痛みはデータとしても現れ、HPバーが削られていく。

身体が末端から凍り付いていくような感覚に、意識まで白んでいきそうになる。


「確かに、これはデスペナルティになるってのも頷けるな……!」


けれど、俺は奴をぶちのめすと決意した。

だったら、この程度で気絶していられるか!

レッドアラートをかき消すように、魂を滾らせる。


「根性見せろよヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥジィィィィィィィィィィィィィィイッ!」


獣のように迸る咆哮が白い機体を震わせる。

全身から蒼い燐光が噴き出す。

エネルギー流動ラインから溢れ出すその光は輝度を増やして月夜に広がり、森林地帯を蒼白に染め上げた。


【パーソナルコード認証完了】

【プレイヤー:ヒュージに対する最適化を実行】

【推奨レベル未満を確認、プレイヤーへの負荷軽減のため展開フェイズを段階化】

【フェイズ1展開】


右腕に冷気が渦巻き、楯が煌めきを取り込んで変化を起こした。

雪の結晶を彷彿とさせる蒼白の六角形を展開し、より肉厚に進化する。


【氷晶硬度基準値を突破】

【氷楯展開安定】

【リアライズ完了】


束縛していた手足の氷を吹き飛ばし、【神楯機兵(アイギスガード)】が闇夜に新生した。


「俺、やったのか?」

〈はい、宣言通り確率を超えてスキルの認証が完了しました〉


周囲を漂う青白い光に呆けていると、アズから通信が入った。


〈≪氷晶練成(グレイシャルモード)≫フェイス1、ヒュージのレベルに合わせて武装に限定した形態ですが、これを以て【神楯機兵(アイギスガード)】はプレイヤー:ヒュージにのみ扱えるジョブとなりました〉

「俺だけ、か」


自分専用の言葉に男心が擽られる。

気を引き締めていなければ、口元が緩みそうだ。

光を放つ白い〈エクスマキナ〉について熱く語りたいが、今はそれよりも大切なことがある。


「改めて質問するぞ、アズ」

〈なんでしょうか?〉

「これで、俺がアイツに勝てる可能性があるんだよな?」

〈あります〉

「了解だッ」


変わらない答えに俺は大きく頷いた。


「待たせたな、センパイ」


氷壁を構え、グラファイトに猛る。

土壇場で可能性を手に入れるなんて出来過ぎている気もするが、後は俺がこの可能性をつかみ取るだけだ。

お前の腐った性根から始まったPKは、ここで最後にしてやる。


「――反撃開始だ」


次回は三日以内に更新予定となっておりますので、ご了承くださいませ。

ブクマ、評価、感想、どんとこいです。

対戦よろしくお願いいたします

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