第1話 VRMMOへの第一歩
カクヨム様でも掲載しております。
手直ししたりの関係上、ゆっくりチェックして出していきます。
メンタルくそ雑魚作者なので、評価、感想、ブクマは励みになります。
どんとこいです。
【すばらしき新世界】というVRMMOがあった。
今では【無印版】と呼ばれるこのVRMMOは、プレイヤーのオンリーワンになりたい欲求を叶えるような、攻略wikiですら記載しきれないほどのスキルの数々と魅力的なジョブを組み合わせて、他のプレイヤーとの徹底的な差別化に成功した黎明期から続いていた名作。
その人気はすさまじく、海外でも熱狂的なプレイヤーが生まれるほど。
しかも、ちょっとの回線のラグを気にした重度のプレイヤーが日本に移住してきて、都心の地価が値上がりした、なんて眉唾な噂話さえあったそうだ。
だから、このゲームが会社の都合でサービス終了と発表されたとき、全国どころか全世界で軽い暴動が起きるのは予想に易い。
サービス継続を訴える署名活動やテロ紛いの脅迫、開発元への突撃が行われたらしいけど、【無印版】はサービスの延長することなくしめやかに歴史に幕を閉じた。
「他のVRMMOも面白いけど、やっぱりあの面白さには及ばない」
元プレイヤーたちの悲痛な声が次々掲示板に書き込まれる。
さながらそれはプレイヤーたちの涙の大雨。
他のスレッドにも流れ出したおびただしい荒らしは、【無印版】が如何に愛されていたか、嫌でも理解させられる。
しかし、止まない雨はない。
台風の後には輝く太陽と、爽やかな白雲が広がっていることをも意味している。
【BW2】――【すばらしき新世界Re:Birth】が発表されたのだ。
かつての名作は、最新フルダイブ型VRMMOとして生まれ変わったのだ。
フルフェイスヘルメット型のハードはコンパクトなバイザー型に変化したように、最先端の技術を惜しみなく投入された【BW2】は、現行のゲームを突き放すクオリティと没入感、【無印版】を優に超えるオンリーワンをプレイヤーに提供して見せた。
結果、かつてのプレイヤーたちどころか、ゲームに興味の無かった層にまで魅力は普及。
熱狂的なムーブメントを巻き起こした【BW2】は国内だけでも700万IDを超える超人気作品となったのだった……。
「それを俺がやることになるとはなぁ」
有志が書き連ねた【BW】の歴史まとめサイト読み終えた俺、藤宮修司は傍らのバイザー付きのヘッドギアを手に取った。
一昨日に町内のくじ引きで幸運にも引き当てたそいつを装着すれば、俺もこの大人気VRMMOの世界に入れるというわけだ。
「俺、ゲームってあんまり得意じゃないんだけど」
どちらかといえば、一人でじっくり腰を落ち着けてプラモデル作ってるほうが性に合ってる現代っ子。
繊細でナイーブな男の子だ。
しかし……。
「弟君も【BW2】デビューだね!お姉ちゃんうれしいよ!今日はお赤飯だね!」
「いや、璃々ねぇみたいにゴリゴリのゲーマーじゃないから、あんまり興味ないって言うか……」
「弟君、このゲームってロボットのアバター作れるんだよ?」
「やるます!!!!!!」
昨日のやり取りがこれだ。
大学進学を控えた身にもなって、姉に手玉に取られるとは我ながら容易い男である。
「今更やらないって言ったら、璃々ねぇが後々何をしでかすか分かったもんじゃないし」
嬉々としてセットアップをしてくれた璃々ねぇはずっとニコニコだった。
あの時の溢れんばかりの笑顔を前にして嫌と言える奴がいるだろうか、いやいない。
「俺も男だ。藤宮修司、いっきまーすっ」
往年のロボットアニメのセリフを口にして、俺はヘッドギアを被った。
スイッチを入れて、ゆっくりと目を閉じる。
暗闇に吸い込まれるように、意識が落ちていった。