第10話 お色直しとレベリング!~レベリング編~
カクヨム版ではひとつの話ですが、二分割
装備を整えた俺たちは首都から1時間ほどの場所にあるダンジョン、〈アリスター廃図書館〉へとやってきていた。
蔵書の暴走により放棄された図書館で、プレイヤーは原因となった魔導書を制御するため最下層へと潜るという設定らしい。
推奨レベルは7だが、金にモノを言わせた装備で攻略は強引に進み、周回すること早3回。
『Bumoooooooooッ!』
暴走した魔導書を心臓として顕現したミノタウロス、そろそろ見飽き始めたボスの【ビブリオス】が雄たけびを上げる。
胸部から魔導書のページが次々に飛び出し、空中で魔法の発射準備を整える。
「ウェンディ!」
「アタシのことはいい、ルーチェのカバーを!」
俺の胴体を片手で潰せるほどの拳を楯で受け流し、ルーチェさんの場所を確認する。
後方15m、魔法が発射されるまでに走っても間に合わない距離。
だがッ!
「≪カバームーブ≫!」
スキルをキャスト、一歩踏み出すだけで距離は一瞬でゼロになる。
20m以内ならば味方の元へ移動できる【盾使い】のスキルがあればこの程度!
「ルーチェさん、光の力をお借ります!」
「お任せください!≪ホーリーガード≫行きます!」
加護を得て眩く輝く楯で飛来する火球をがっちり受け止める。
魔法攻撃はMNDに依存するから、VITが高い〈エクスマキナ〉ではうまくダメージを軽減できない。
だが、MNDを瞬間的に強化する≪ホーリーガード≫さえあれば俺でもダメージは抑えることが出来る。
「ハッ、絨毯爆撃は見飽きたぜ!」
ウェンディは火球を軽やかに避け、【ビブリオス】へと肉薄する。
AGIを高める装備を整えたと豪語していたのは伊達ではなく、爆炎を潜り抜ける姿は一陣の風の化身だ。
しかし、チャンス、と笑ったのはウェンディではなく、ミノタウロスだった。
『Buooooooooooッ!』
剛拳が振り抜かれる。
VITの低いウェンディが直撃すれば只では済まない。
だが、その歩みは止まらない。
ウェンディは信じているのだ。
自分の後ろに誰が控えているのか。
「≪プロテクション≫!」
ルーチェさんが素早く魔術による障壁を展開。
光の楯に阻まれて、【ビブリオス】自慢の拳の速度が大きく減衰し、
「≪カバームーブ≫っ!」
すかさず俺が拳とウェンディの間へ滑り込む。
二枚の防壁を破れず、奴の拳は俺の楯を微かに揺さぶる程度に終わる。
カウンターを受け止められ、動揺するボス目掛けて楯を振り下ろす。
「≪シールドラム≫!」
俺が習得した唯一の攻撃スキル、≪シールドラム≫。
VITを直接威力へ変換するシンプルさゆえに、高耐久を誇る〈エクスマキナ〉が放つとボスの腕といえども容易く地面に叩き伏せられる。
「ナイス、ヒュージ!このまま決めてやる!」
重心が崩れ、片膝をついた【ビブリオス】の胸部、その奥で脈動する魔導書をウェンディが捉える。
三叉の長槍がウェンディの意志を受け、光を弾く。
「覚えたてのスキルだ!試し打ちさせてもらうぜ!」
槍撃が乱舞し、膝を持ち上げようとする僅かな隙に鋭く、まるで機関砲の如くボスの胸部を切り貫いていく。
「これが【戦士】の新スキル!」
強大な刺突がついに魔導書を捉え、余りある破壊力でそのまま背中へ抉り抜く。
『Bu……mooo……!』
虎の子の一撃に貫かれ、【ビブリオス】の頭上のHPバーが粉みじんに消し飛んだ。
「≪ガトリングスパイク≫、だぜ!」
「後で言うのか、スキル名」
「分かんねぇ奴だな、これが今時のフィニッシュムーブなんだよ」
「お前ニチアサとか絶対好きだろ」
俺はハイタッチを求め、右手を上げた。
見事なドヤ顔で見返し、ウェンディは左手でわざと強く叩いてきやがった。
奏でられた勝利の美音は、ファンファーレと重なってより魅力的に耳朶を打った。
「ヒュージさん、ウェンディちゃん。お疲れさまでした」
「うん。ルーチェさんもお疲れ様」
「最後、ナイス援護だったぜルーチェ」
「えへへ、ありがとう二人とも」
駆け寄ってきたルーチェさんともハイタッチを交わし、ボスドロップを回収した俺たちは展開された魔法陣から入口へと撤収する。
「3回目だけあって回る速度が上がったよね」
「ルーチェが初めての時みたいにあばばばば!ってならなくなったってのがデカいぜ?」
「私そこまでパニックになってないよ!」
2人のじゃれあいを微笑ましく見守りながら、ステータス画面を呼び出す。
背伸びしたダンジョンアタックの甲斐あって、3度目のクリアによって【盾使い】は6レベルになっていた。
イベントの推奨レベルには届かないが、十分な成長だ。
「お、≪レイザーシャープ≫が成長してやがる!消費MPが減ってんじゃねぇか!」
「私は≪ホーリーガード≫をたくさん使ったから、≪ホーリーウェポン≫ってみんなの武器を強化するスキルが覚えたみたい。ヒュージさんはどうでしたか?」
「残念だけど、俺は今回はステータスアップだけだったよ」
【BW2】のスキルの取得には大きく分けて二種類ある。
まずはレベルアップで覚える王道なタイプ。
俺の≪カバームーブ≫と≪シールドラム≫はそれぞれ、4と5で取得した。
もう一方がウェンディやルーチェさんのように使い込むことで進化し、別のスキルへ派生したりするパターン。
こちらは条件を満たした瞬間に開示される場合もあれば、レベルアップの際に解放されたりとバリエーションが豊富だ。
「なんだかとってもワクワクして楽しいですね」
ルーチェさんの素直な感想には俺も同意見だ。
真っ白な地図を自らの足で埋めていくドキドキ感には俺も心惹かれる。
同時に、地図があっても埋められないもどかしさも味わうことになるのだが。
「むぅ……」
「ヒュージ、その表情ってことはやっぱか?」
「ああ、今回も駄目だったよ」
俺はステータス画面を二人に差し出した。
順調に伸びていく【盾使い】に比例して、【神楯機兵】の成長は――なんとゼロ。
「流石は後継ジョブの特別枠さん、手強いですね……」
「1レべだから3周すりゃあ上がるたぁ思ったんだけど、甘かねぇか」
「よもや1レベルすら上がってくれないとは……」
落胆する俺の背中をウェンディがわざと強く叩いて励ましの言葉をかける。
「首を長くして気長にレベリングしていこうぜ!」
「俺の首がブラキオサウルスにならなきゃいいがな」
「ぷふっ。ヒュージさんの首が恐竜さんに……!」
「ルーチェそこツボんのか」
生々しい恐竜モチーフがこの白き機神に入り込むことに異を唱えたいが、ルーチェさんが楽しそうだから深くは言うまい。
「くすくす……。でも、ヒュージさんのステータス本当にすごいですよね。HPとか全然比べ物にならないです」
「【神楯機兵】がある分、1レベルアタシらより高ぇってこと除いても、Xジョブの補正値やべぇだろ」
ルーチェさんとウェンディが俺のステータスを表す六角形グラフに見入る。
現在の俺のHPは900オーバー、VITは驚異の500越え。
同じレベルのウェンディのHPが170、VITがようやく100と考えるとどれだけぶっ飛んでいるかが分かる。
【神楯機兵】は後継ジョブに分類されるとはルルねぇが言っていたが、ここまで強烈にステータスの補正がかかるのか。
「ステータスだけじゃなくてスキルもバケモノだったからな、こいつは」
【神楯機兵】唯一のスキルを指し示す。
≪城塞外套≫。
VIT基礎値の15%、500ちょっとの今なら75ダメージを無効化、並びに軽減するスキルだ。
この75は小さいようにも思えるが、さっきの【ビブリオス】ですら直撃を受けても高々3しかダメージが通らないほどになる。
これだけの軽減が≪アイアンクラッド≫のように宣言するタイプではなく、常時発動しっぱなしと言えばその強さは推して知るべし、だ。
これだけ強力なスキルを備えているんだから、多少の罵声は覚悟していた俺だったけど……。
「1レベルでこれほど強力なスキルがあるんですから、ほかにどんなスキルが隠れているんでしょうか。楽しみですね、ヒュージさん」
「くぅーうらやましいぜ!さっさとアタシも後継ジョブになりてぇなぁ!」
こうして2人は嫌な顔を一つせずに付き合ってくれる。
本当にいいフレンドだ。
「ならさ、日付が変わりそうだけどあと1周くらい頑張るか?」
「そうこなくっちゃな!」
「はい、頑張りますっ」
三人揃って力強く拳を突き上げる。
明日のイベントに向け、気合はばっちりだ!
……そう意気込んだはいいものの、ダンジョン半ばで全員睡魔に負けて攻略を挫折したことは反省すべき点だ。
次は明日のお昼頃を目途に。
ブクマ、評価、感想、どんとこいです。
対戦よろしくお願いいたします




