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赤い薔薇  作者: メロ
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チャプター 1

 私は背景になって生きてきた。いつも周りに合わせ流れに逆らわず、水に浮く木の葉のようにぬらりくらりと過ごす。それは、摩擦が少なく誰にも嫌われない。安定した生き方だ。

 けど、そこに意思はない。自分の行く末を握るのは他人。ぶつかり合いたくないから逃げる。もし、意図せずぶつかってしまったとしても己を殺して従い解決する。

 本当の自分が認められる事はない。だから、誰にも見せない。例え、自分と同じ人を見つけたとしても。

 それが一番正しいと思っていた。

「ビビっときました。 一目惚れです。 是非、私と付き合ってください」

 あの時までは──

 学校からの帰り道。私はある女性と一緒に帰るのが日常となっていた。

「ねぇ、シイコ〜〜ン」

「先輩、その不気味な渾名はやめてください。 ちゃんと椎子しいこという名前があるんですから」

「じゃあ、私にも夜耶ややって名前があるんだからちゃんと呼んでよ〜」

「分かりました、先輩」

「そこまでいじわるしなくてもいいのにー」

「先輩は先輩です」

「けちんぼぉー」

 私はこの幼子のように頰を膨らませ抗議をしてくる彼女とお付き合いをしている。

 きっかけは高校2年になって間もないある日。私は一つ歳上の先輩に告白をした。


『んー、一目惚れ……ねぇ』

『さっきの言い方じゃダメでしたか? では、言い方を変えます。 あぁ、私は貴方に運命を感じました。 是非、私めとお付き合いください』

『いや、言い方はさっきも素敵だったよ。 恋に恋する乙女ならイチコロだったと思う』

『なら、何がダメなんですか? 顔ですか? 胸ですか? それとも下着の色ですか?』

『少なくともその中に答えがないの確かだね。 あと、私も白は好きだよ』

『じゃあ』

『まぁ、待ってよ。 私たち今日初めて会ったよね?』

『はい。 だから、一目惚れなんですよ』

『いやぁ、いきなり過ぎるなぁって』

『なら、日毎に分けて告白すれば良かったんですか? 先輩の教室に石ころ投げたりして』

『あははぁ、君面白いね。 ……いいよ、付き合っちゃおっか。 私の名前は宮野みやの夜耶ややだよ』

『私は芦屋あしや椎子しいこです。 これからよろしくお願いします』


 これが私と先輩の出会いだ。もしラブストーリーならとても都合がよく面白みもないちゃちな出会いだろう。

 でも、これはラブストーリーじゃない。私には目的があって彼女に近付いただけなのだから。

「しいちゃんってば自分から告白してきた割には冷たいよね」

 まだ頰を膨らませながら、私を糾弾してくる先輩。心なしか目も刃物のような鋭さがある。まるで、パンダの威圧だ。どうやら少しご機嫌を取らないといけない。

「そう膨れないでください。 ちょっとしたこだわりです」

「ふーん。 どんな?」

「下の名前を呼ぶのは大切な時だけにしようと決めているんです」

「それっていつなの?」

「そうですね……例えば先輩と人に言えないような事をする時とかですかね」

「え、しいちゃんって体目当てなの!? 意外とえっちな子だ」

「違います。 あくまで例えです」

 私のボギャブラリーでは、今の誤魔化し方が精一杯なのだ。自分でも、もう少しマシでロマンチックなことを言えたらいいのにと猛省している。

「なら、しいちゃんは海外ドラマを見て例え方の勉強をしないとね」

「…………。 もう見てます」

「えっちなのを?」

「普通のやつです」

「そっか、そっか」

 何故か、先輩はニタニタと嬉しそうに笑っている。何がそんなに嬉しいんだろうか。私を知れて……は自惚れか。とりあえず、急にニヤける変な人と認識にしておこう。

「しいちゃんの新しい一面を知れて嬉しいよ」

「……っ!」

 一瞬、心を読まれたのかと思った。けど、人間にはそんな魔法みたいな力はない。ただ、それらしいことを言ったのを、そう思い込んだだけだ。

「ねぇ、先輩」

「何かな?」

「手、繋いでくださいって言ったら繋いでくれますか?」

「もちろん、喜んで繋ぐね!」

「じゃあ、その時が来たらお願いします」

「えぇー、今じゃないのー!?」

「私はこだわりが強いんです」

「ふーん。 しいちゃんは本当に私が好きなのかなぁ〜?」

 ピタっと歩を止め、先輩をジッと見つめる。

「……実は、我慢しています」

「んん? 我慢してる??」

「はい、私は先輩のことが好きです。 でも、今まで恋愛なんてしたことないです。 それどころか人付き合いも壊滅的です。 だから、知識がありません。 でも、距離感は大事にしないといけないのは知っています」

 創作物のおかげで学んだ。この嘘。

「ですから、慎重に接しようと心掛けています。 本当なら今すぐにでも手を繋ぎたいです」

 我ながら、苦しいもので、すぐにバレると思っていた。でも、先輩は、

「そっか」

 と、優しく微笑んでくれた。会ってまだ間もないのに、なんなんだろうこの人は……。

 ただただ一緒に歩くだけの帰り道なのに、胸がときめくような事をしている気がした。

「あ、ところで海外ドラマってどんなの見てるの?」

「コメディものです」

「あー、分かる。 そんな感じするよ」

 ほんとなんなんだろう、この人は。

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