大量虐殺求む少女達
日本――とある教会にて。
「ああ、暇です・・・」
聖書の教えに全く従わないシスターとして有名なシスター、三月 マリアはぼそぼそと独り言を言っていた。
「もう人の懺悔を聞くのにも飽きました・・・。いっそ酷い懺悔をした人を皆殺しにしていきたいです」
首から下げた十字架のネックレスは短剣が仕込まれている。彼女はその刃を眺めながら
「ああ、どこかに人を殺しても合法の場所は無いにでしょうか・・・」
そう言いながら、自室のドアを開けた瞬間――
時同じくして――とある神社にて
「もう!お祓いとか面倒臭い!」
和の心が微塵も無い事で名の知れた巫女、月詠 奈緒は一人叫んでいた。
「えーい!もうお祓い来た人達に死ねば楽になるって言って殺してやろうかしら!」
懐から出した大きめのナイフを手でくるくると回しながら
「どこかに大量虐殺しても許される国って無いかな!」
叫びながら、自室のふすまを開けた瞬間――
「「ここは、どこ?」」
二人は、見知らぬ土地を訪れていた。
見渡す限りの草原。遠くの方に集落が見える。一見、いい感じの場所だが、辺りはなんとも言えぬ嫌な雰囲気、瘴気が漂っていた。
「うーん、きゃっ!」
「は?ふえっ!?」
目が合った。
「あの、どちら様、でしょうか・・・」
「普通は聞いた方から名乗るのよ!・・・まあいいわ。あたしは月詠 奈緒。神社に勤めているわ」
「私は三月 マリア。教会でシスターをしています。」
「ふーん。神社としては、シスターと聞くと即刻打ち首だけど、見逃してあげる。状況が状況だしね。」
「私もそれでいいですよ。打ち首はさすがに冗談でしょうけど・・・。とりあえず、集落の方に行きませんか?」
「賛成。じゃあそうしよう。」
「あの、村長さんはいらっしゃいますか?」
「ああ、村長なら向こうの屋敷だよ。」
親切な村人だ。殺さないでおこう。
奈緒はそう思いながら屋敷へむかった。
「はい、儂が村長のゴロウニンです。」
「こんにちは。あたしは月詠 奈緒。巫女をしています。そしてこちらが」
「三月 マリアです。シスターをしています。」
「おお、巫女様とシスター様でしたか・・・ありがたい・・・」
「どうかなさいましたか?」
「近頃、この近辺、いや大陸全土で悪魔や怪士が大量に発生しておりまして。それらを祓えるのは聖職者のみ。しかしこの集落には聖職者はおらず、畑を荒らされ、家畜を襲われ、収入が雀の涙ほどしかなく・・・。」
ふむ、用はそれさえ祓えばいい訳ですね。
マリアは話を要約、理解した。
「お願いします。どうか救って頂けませんか!武器などは全てこちらが負担します!」
村長の願いを聞いた二人は、小さな声で話し合った。
「どうする、あたしは別にいいけど。だって・・・」
「どうします、私は構いませんが。だって・・・」
「「合法的に、大量虐殺できるんだもの(ですもの)」」
声がシンクロした。その瞬間、二人は理解した。
この人、私と同じタイプの人だ。
「わかりました。引き受けましょう。」
「ありがとうございます!」
「とは言っても、祓い方がわかんないのよね・・・」
「奈緒さん!これに載ってますよ!」
マリアは図書館で見つけた本を見せる。そこにはこう記されていた。
『悪魔や怪士などの魔は聖職者が聖気を使って祓うことができる。聖気は体内に宿っており、体外へ放出、そして武器や魔法として具現化し、魔に対して扱うことで祓える。』
「へえ、そうなの。・・・媒介も使えるじゃない!あたしだったらナイフと玉串、幣かしら」
「私でしたらこの短剣と服、そして体ですかね・・・」
魔が現われるのは夕暮れや夜。それまで二人は聖気を使う練習をした。
夕暮れ。草原から耳障りな声が聞こえる。魔が現われたのだ。集落に襲いかかろうとしているが、いつもと違うところがあったのだ。
草原に、二人の少女が立っているのだ。
「マリア、準備はいい?」
「ええ。・・・神は言っています。あいつら、ここで死ねと。そして殺っちゃえと」
「そうね。うちの神も言ってるわ・・・。マリア!」
「ええ!奈緒さん!」
「「Let’s、大量虐殺!」」
その瞬間、マリアの腕に籠手が具現化された。これがマリアの戦闘スタイルだ。
そして、奈緒は玉串を媒介にし、聖気で剣を創る。
「さあ、死ね!」
奈緒が突っ込む。近くの怪士の首を切って、切って、切りまくる。返り血を浴びるが、気にしない。
不意打ちを仕掛けようものなら腹を裂かれ、臓物をえぐられる。正面から突っ込めば、首をはねられる。そして何より恐ろしいのが、それをしている少女の顔が、恍惚としているのだ。
「ああ、いいわいいわ。もっと、もっと、殺させて!」
魔は奈緒に恐れをなして、マリアの元へ飛び、駆けていく。ある魔はこいつなら弱いだろうと思った。
その瞬間、そいつは首から下の感覚が消えた。感じるのは顔の痛みのみ。そこで気づいた。
己の頭と胴が別になっていることに。そしてマリアの方を見ると、同胞が同じような状況に陥っていることが分かった。しかもマリアは、打撃の通用しない相手には短剣に聖気を纏わせ、刀身を長くした剣で対抗している。そして数々の魔を屠った彼女は女神の如き笑みを浮かべ
「まだ、終わりじゃ無いのでしょう?もっと楽しませてくださいな。」
十数分後、ほぼ全ての魔が消えた後。残ったのは、二匹のみ。鬼と、強力な悪魔だ。
「鬼は任せなさい。きっちり殺すわ。」
「ええ。ではこちらは悪魔を。慈悲は与えません。」
二人は地を蹴った。
奈緒は、鬼に斬撃を与える。途切れる事は無い。数秒の攻撃の後、刹那の隙。鬼は拳を振りおろす。
瞬間、鬼の腕と、角が斬れた。鬼は、腕より、角が斬れた事に怒りを抱いた。突っ込む。
今度は、頭が消えた。奈緒が、聖気を纏った幣で叩いた。
「何よ・・・手応え無いわね・・・」
悪魔は窮地に立たされていた。マリアの剣が、羽を貫き、飛べなくなった。それでも諦めなかった。
攻撃を繰り返す。が、すべてよけられる。そして、一瞬で、マリアが悪魔に肉薄する。悪魔は、何度も何度も殴られ、消滅した。
「あら、もう終わりですか。つまらないですね・・・」
夕方7時10分。二人のサイコパス聖職者の少女二人の戦いは幕を閉じた。