7話
陛下は恐ろしい人。必ず結果が得られるように、頼んでいたのだから。妃の好きな人に協力してもらえるように。本当は、彼、他に好きな人がいたみたい。陛下の口添えのお陰で今は、その人と夫婦のようだ。
噂だけど、妃と妃の好きな人は契りを交わしていなかったとか。女にしか効かない幻惑の香を部屋に漂わせておいて、意識を朦朧とさせたとか。そして、他の男を室内に入れて妃を遊ばせていたとか。陛下も恐ろしいけど、この噂が本当だとしたら、その人も相当敵に回してはいけない人だ。妃の元に招き入れた男たちの口をどうやって閉じさせているのか気になる。だが、その真実を怖いから聞きたくないとも思っている。
妃だった人は報われないよね。好きな人と結ばれたと思っていたけれど、実際は妃の好きな人には他に好きな人がいて、彼女自身とは結ばれていない。亡くなってしまった彼女は哀れすぎる。出産後の大量出血が陰謀だったってことは、流石にないよね。考えすぎは良くない。この危ない思考は投げ捨てよう。可能性としては母子共々の……。想像してはだめだ。
「父上! 僕はルリアナと結婚します。なので、こいつ! ルルフィアーノとの婚約はなかったことにしてください」
突然、女連れで駆け込んできて、礼もなく自分の用件を話すバカ王子。しかも、人のことを指差すとは失礼なやつだ。親子の仲でも礼儀はある。王様と王子、身分のある社会なのだから。事実は、妃とどこの誰の血が混じって生まれたのかわからない子ども。親子関係を切ろうと思えば、すぐに切れてしまう薄っぺらい仲だ。
「エリオット、私を父と呼ぶな。王と呼ぶように何度言えばわかるんだ」
「父上! 聞いていらっしゃいますか?」
「はぁ、残念なことだよ。偽りの王子がいなくなり、隠れ蓑がなくなってしまうのは……。エリオット、お前とその娘の結婚を許そう」
「ありがとうございます! 父上」
バカ王子とルリアナは顔を見合わせて笑っている。そんな幸せな表情ができるのも今日で終わりだ。
「エリオット、話は終わっていない。今から話すことは決定事項だから、良く聞きなさい。まず、エリオットとルルフィアーノ嬢の婚約は白紙となる。君は隣にいる彼女との永遠を誓うと言うことでいいかい?」
「はい、父上。僕はルリアナと永遠を過ごしていくことを誓います」
「ルリアナ嬢、君の気持ちは?」
「私もエリオットとの永遠を誓うわ」
「そうか。では、エリオットとルルフィアーノ嬢との婚約を解消しよう」
陛下はバカ王子と私のサインと血判された紙を燃やした。婚約契約書が跡形もなくなっていく。チリチリと燃えていった紙。歓喜が押し寄せてきた。
陛下が新しく出したものは、エリオットとルリアナのための婚約契約書だろう。そこに陛下が何の条件を書き込んでいるのかは不明だが、彼らはそれを守らなければならない。もし婚約解消ができないものとすると書かれていたら、結婚する以外の道はない。
「二人とも、これにサインを書き、血判をしてくれ」
陛下から受け取った契約書を宰相が二人の下まで持っていく。一枚の契約者には、下敷きが用意されていた。バカ王子とルリアナは嬉々として早々とそれにサインと血判をした。契約書の内容をちゃんと読んでるのかな、この二人。
「これで、エリオットと離れなくてもすむのね!」
「うん、ルリアナ。これからもずっと一緒だ」
ピンクオーラを振りまくなら他でやってください。イチャイチャしなくていいですよ。二人だけの世界を間近で見ながら、無視して陛下の元に戻る宰相様は最強です。
「王、これを……」
陛下に二人の名前と血判のある紙が渡された。彼が最終確認をして、丸めた契約書を再び宰相に渡す。
「二人ともおめでとう。エリオットとルリアナ嬢はこれで永遠に離れ離れになることはないよ。次に、ルルフィアーノ嬢との条件を皆に明らかにして、それを実行しないとね」
驚きに目を見開く者もいれば、何のことかわからないと首を傾げるものもいた。また、命知らずにも声を上げるものが一人。
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