4話
いつもなら腹の中にため込んで他で発散させるのにな。剣の訓練とか言って被害がこちらに来ないのは素直に喜べることだ。しかし、表面上笑っている王の顔は怖い。目が不気味な光を宿しているから。
「メロドアダ男爵」
「はい?」
王に睨みつけられているのに気づいてないのか。鈍感すぎると危機回避が間に合わないと思う。呑気な返事をしている彼。他の奴らは今にも倒れそうになっているのに。顔面蒼白になりながら、なんとか踏ん張り立っている。それなのに、彼は微笑みを浮かべているのだ。ああ、こいつ終わったな。メロドアダ男爵。残念な奴だ。親が親なら、娘も娘ってことだろう。
「誰が発言することを許した?」
「王?」
「メロドアダ男爵。そなたにはほとほと呆れたな」
王様本気で怖いよ。どうせ内心では、「男爵風情が話の腰を折りやがって」的なことを思っているんだぜ。俺本気で逃げたい。逃げようかな。
「ランドール。お前の仕事はまだあるのに、どこに行くつもりだ?」
無意識に後ろに後退っていた。そのせいで片足が凍ったと考えるのが自然だろう。俺の足寒い。部屋の温度も下がっているだろうな。暖かいところに行きたいのに、叶わない夢だ。悪夢だ。
「次に逃げようとしたら、顔以外の全部凍らせる。話す口さえあれば、十分だからな。ランドール、お前の仕事だ。何もわかっていないその男に事の次第を説明せよ」
「ハイ!! よ、喜んでさせていただきます!! 偉大なる王よ」
俺に逃げ場なんてものは、最初からないんだ。話すことさえできれば、五体満足じゃなくてもいいってこの王様が言っている。今回の仕事がなんで俺の担当だったんだ。誰か今すぐに代わってくれ。婚約破棄のことを報告に来たことが俺の運の尽きだったということか。不運な人生だったよ。
王子様の行動を逐一報告するように言われ、彼を命の危機から守るようにとも命令を下された。俺は王子の表向きの護衛という仕事についている。だから、王子と関わることも必然と多くなる。
「おい! ランドール。僕のために服を作らせて来い!」
「剣なんてやる必要はない。僕がなぜこんな辛いことをやらないといけないんだ! 僕は次期王だ!!」
「ランドール。僕のご飯にピマンはいらないと言っておけ。もしそれが入っていたら、お前もそいつも首だ!」
ピマンとは緑色の野菜だ。他に異なる色もある。他の国では、ピーマンと呼ばれることもあるらしい。
そいつというのは、料理を作った料理長のこと。栄養のバランスを考えて、料理を提供しているのに、なんてことを言うんだ。
「二度とこのわがまま王子の料理なんて作りたくない」
小さな料理長の呟きは隣にいた俺にしか聞こえなかった。料理長は王子の言葉に憤慨していた。王子、ご飯くらい我慢しようよ。食べたくても食べられない人はいるんだ。しかも、料理長の腕は確かである。
王に認められた料理の腕前と数々の料理。世界を旅していた料理長は、豊富な種類の料理を作ることができる実力者だ。
この王子それを知らないんだな。彼の料理を食べたいと言う人はごまんといる。ピマンが我慢できなくて抗議したことを他人に聞かれてたら、背後から刺されても文句言えないからな。
料理長は二度と王子のために料理を作ることはなかったという。
思い返さなくてもわかるくらい、王子はわがまま坊やだった。どこで育て方を間違えたのか。あの完璧と噂されるような王の子でも育て方を失敗すると、今の王のような存在みたいにはならないんだな。父王に成り代わるのは無理だが、父王のように人々のことを考える人になって欲しかった。完璧と噂される王も子育てを失敗したから、完璧ではない。人間完璧な存在などいるわけがないのだから、当たり前か。
「ランドール! 僕が王になった暁にはお前を僕の側近にしてやる。光栄に思え」
いらないことを思い出した。王子の腕なんてごめんだ。苦労の絶えない生活が目に見えている。そして、王子に振り回されて、疲弊し、最後にはということになりかねない。絶対に王子が将来、王になったら、城勤、やめるから俺。
さてと、王についていろいろ思うこともあるが、この男爵に説明することが先決だな。本気で誰か部屋を暖めて欲しい。
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