2話
お互いの手を握りしめて見つめ合う二人。まるで、無理矢理引き裂かれた恋人同士の再会のようだ。
「ルルフィアーノ! 出てこい!!」
学園の中で唯一、沢山の人の目に触れる場所がある。八角形のガゼボが中心に建っている広場。そこで騒ぎが起きるものなら、学園にいる全ての人に見られてもおかしくはない。木などの障害物等はなく、人が見ようと思えば、すぐに目を向けられる場所であった。
「おい! ルルフィアーノ!!」
何の騒ぎも起こさずに過ごしていれば、穏やかな時間が流れる場所で響き渡るのは怒声。周りの者は何があったのかとガゼボの周りにゾロゾロと集まっていた。
「いい加減出てこい! この中にいるはずだ。逃げようと思っても逃げられないのだから、さっさと姿を現した方が身のためだぞ。ルルフィアーノ」
現在、私は自分の婚約者であるエリオット王子に何度も呼ばれている。いや、名前で呼ぶ必要はない。あれは、「バカ王子」で十分だ。もっと言うと、なぜ私がバカ王子の言葉を聞き入れないといけないのか。大声で名前を呼ばれるのは迷惑行為だとバカ王子こそいい加減気づけ。
ガゼボの内で手と手を握りしめ合う男女。そして、辺りに響き渡るバカ王子の怒声。面白そうなことが起こりそうだとニヤニヤしながら、人が集まり始めるのは必然。
どんどん人が足を止めて、大勢の人の輪ができた。皆、野次馬根性が強いものだ。
そういう私も学園の内、教室の窓から彼らの様子を眺めていた。何度も大声で人の名前を呼ぶなんて、はしたない。流石、デリカシーのないバカ王子だこと。真っ赤に頰や耳を染めて怒っている姿は恥辱にまみれている。
「ルルフィアーノ! これが最終通告だ。出てこい!!」
何が最終通告なのか。バカ王子。その群衆をキョロキョロと見回して私を探していても、そこに私はいない。いるのは上だ。上。はぁ、とため息を吐いて、変なことに巻き込まれないうちに窓際から離れようと思った。
「あっ! あそこ見て!!」
指を差すのは一人の生徒。群衆や騒ぎの中心がその声に導かれ、生徒たちが指差す方へ顔を向けた。
「ルルフィアーノ様だ!」
「本当だ」
「あんなところにいたらここにはこられないよね」
ポツポツと声を零す生徒たち。その中で一際大きな声をあげたのは、バカ王子。
「ルルフィアーノ! 僕が怖いからって、そんなところから僕たちの様子を見ているなんて卑怯だぞ! ここまで下りてこいっ!!」
なぜ私がバカ王子の言うことを聞かないといけないのか。呆れた視線を向けるが、それにすら気づかないバカ王子。
「あっ! 羨ましいんだろう。僕はお前みたいな無愛想な奴じゃなくて、ルリアナという可愛い子を婚約者にするんだ~~!!」
大声で惚気とはご苦労様。別に羨ましくもなんともない。バカ王子が変な女に引っかかっただけの話だ。後ろでどうせニヤリと口角を上げているのであろう女。そんな女を婚約者に選ぶなど、女を見る目がなさすぎる。やっぱり、このバカ王子はバカなだけある。王様には向かないタイプだ。
「おい! 聞いているのか~~!!」
一人で馬鹿騒ぎしている者に返事をする必要性はあるのか。その者を横目に、悩みに悩む。
今まで淡々とバカ王子のことを批判していた。だが、よく考えれば、あの隣にいる女を婚約者にするとか言ってなかったか。ここはあのバカ王子に聞いてみるか。大声を出すのは忍びないが仕方がない。
「バ……、あなたは私と婚約破棄がしたいということでしょうか?」
凛とした芯のある声が辺りに響く。私の言葉に群衆が固唾を飲み、静かに見守っていた。
「そ、そうだ! 僕はルリアナと結婚する!!」
「そうですか。わかりました」
あまりにも平然としている返答に騒ぎ出す者と口を開けてポカンと見ている者がいた。
バカ王子は騒ぎ出した者である。
「おい! こんないい男の代表である僕との婚約破棄話をそんな簡単に承諾していいのかぁぁぁぁ!!」
全く、婚約破棄をしたいのかしたくないのか二つに一つだろうに、バカ王子は何をしたいのか。
「聞いているのか。おい、ルルフィアーノ! おい、僕の話を聞けぇぇ!!」
下の方で煩わしい。存在そのものが迷惑だ。外見は整っていても自分本意でナルシストで迷惑な男はモテないのよ。バカ王子がモテる理由は、次期国王であるという魅力があるからに過ぎない。そのステータスがなくなったら、皆バカ王子から離れていくに決まっている。どこまで、自分に酔いしれていて気づかない、バカなのかしら。せっかく、婚約破棄という口約束をしたのに、自分の思い通りにならないとすぐに騒ぎ出す。自分の思い描く終わり方でないとそんなに嫌なのか。そんな小さなことでギャーギャーと騒ぎ出す男はろくな者ではないわ。最悪よ、最悪。
ルリアナさんといったかしら。彼女は性格が悪そうだからバカ王子に惹かれているという事実はありえないわね。でも、もし彼女がバカ王子に惚れているなら、そんなクズ男のどこに惚れる要素があったのかと聞いてみたかったわ。
「さてと、バカ王子との縁が切れるのももうすぐ、ね。早く陛下のところへ行って、今回の話を伝えないと……」
既に陛下のつけた下僕が報告していると思われるが、自由な恋愛は自分の手で勝ち取らなければね。
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