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振り返ればあやかしがいる。  作者: アイザワ咲香
第零章 僕が死んだ日の話
8/12

8

「さて、次は貴方達ね」


 カゲロウの頬をつねり終え、母親はオオカミと蛇の少女を見る。

つねられたカゲロウは僕の後ろでうずくまって震えていた。


「いや、別に俺らは悪いことしてないぜ。な、なぁ?蛇」

「うん、してないしてない。アタシタチナカヨシダヨー」


 二人は引きつった笑みを浮かべながら、必死に仲良しアピールをしている。


「あら、そう?仲がいいならいいけど……オオカミ君の名前はどうなったのかしら?」

「犬神」

「大神」


 二人は同時に別の答えを言う。


「蛇!俺は犬じゃねぇよ!!」

「犬の方が似合ってるもん」

「……困ったわねぇ」


 再び喧嘩を始めた二人を見て、母親はため息をついた。


「ねぇ、アカシ君」

「なんですか?」

「どっちでもいいと思わない?」

「……そうですね」


 僕が同意すると、母親はにっこりと笑って言った。


「オオカミ君」

「は、はい」

「私も『犬神』がいいと思うわ」

「なんであねさんまで!――おい、アカシ!お前は『大神』がいいと思うよな?」

「いや、カゲロウのお母さんに同意します」

「なんでだよ!!」


 犬神の叫び声があたりに響き渡る。

蛇の少女を見ると、勝ち誇ったように笑っていた。


「シャッシャッシャッ!あたしも今日から『犬』じゃなくて、ちゃんと『犬神』って呼ぶね」

「貴様……!俺の名前はお前が決めたんだ。だったらお前の名前は俺が決める!」

「えっ!いやいや、あたしは蛇のままで・・・・・・」

「そうねぇ。犬神くんの気が済むならそうしなさい」

「姉さん!?」


 犬神は母親の了承を得てニタリと悪い顔をする。

犬神は『犬』と呼ばれることを嫌っていた。

多分、蛇の少女につけられる名前は普通ではないだろう。


「……よし!決まった!」


 犬神が勝ち誇った笑みを浮かべる。

対する蛇の少女は嫌そうに顔をひきつらせていた。


「今日からお前の名前は――『ヘビ子』だ!」


 ……普通の名前だ。


「嫌がらせ下手すぎない?あたし、もっと変なの想像してたんだけど」

「いや、『ヘビ子』だぞ?安直すぎて、十分ダサいだろ」


 犬神は心外だとでも言いたげな顔をしているが、心外だと思っているのは僕の方だ。


「犬神さん」

「なんだ?」

「僕がカゲロウにつけた名前と同じような付け方ですね。つまり、カゲロウの名前がダサいと」


 犬神は少し考えて、「あっ!」と声を上げる。


「いやいや、坊っちゃん。俺は別にカゲロウがダサいとは思ってな」

「そうか、そうか。ワレの名前はダサいか」


 カゲロウはいまだに赤い頬を擦りながらゆっくりと立ち上がる。


「母上、お願いがある。この国に住む妖たちにオオカミの新しい名前を広めてくれ」

「えぇ、いいわよ。オオカミの名前が『犬神』になったと言えばいいかしら?」

「あぁ。ついでに名前の由来も広めて欲しいのだ。由来は……『オオカミは実は犬の妖怪でした』で頼む」

「坊っちゃん!悪かった!俺が悪かったから!!」

「ワレは『坊っちゃん』ではなく『カゲロウ』だ。ダサい名前の『カゲロウ』だ!」


 犬神は必死に謝罪するが、カゲロウは聞く耳を持たない。


「それじゃあ、広めてくるわね。――私はこのまま仕事に戻るのだけれど、貴方達はどうするのかしら?」

「とりあえずワレの家に行こうと思っておる。アカシに父上のことも紹介したいからな」

「そう。それじゃあ、道中気をつけるのよ」


 母親は手を振り、どこかへと消えた。


「え?消えた?」

「母上はこの国の中なら好きなように移動することができるのだ」


 瞬間移動のようなものだろうか?


「さて、あたしはそろそろ帰るね」

「お前、ほんとに何しに来たんだよ……」


ヘビ子は犬神の質問には答えず、高らかに笑いながら来た道を帰って行った。


その後、僕達はカゲロウの家に向かったのだが、その道中、すれ違う妖達に「お前やっぱり犬だったのか」と犬神は声をかけられた。


「……悪い、俺はちょっとやることができたんでな。この辺でお暇させてもらうぜ。それじゃあ、またな」


 犬神は毛を逆立てて、すれ違った妖達を追いかけて行った。

……神様のような存在が広めたのだ。多分、訂正するのは無理だろう。

僕は犬神を哀れに思いながら、カゲロウとその母親を怒らせないようにしようと心に誓った。

次から第一章。

『ウスバカゲロウの夢と僕の話』(仮)


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