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「あら、驚かせちゃった?」
カゲロウの母親は口に手を当て、クスクスと笑う。
母親は白無垢のような服を着ており、淡い桜色の着物を、腕を通さず肩にかけていた。
「な、なんで、僕の名前?」
「私はこの国の事ならなんでも分かるのよ。」
「はぁ……」
母親は笑うだけでそれ以上なにも答えなかった。
「この世界――この国を造ったのは母上なのだ。この国は母上の手のひらの上と言っても過言ではない。だから、なんでも知っているのだ」
なるほど……?
「この世界を造ったって事は、カゲロウの母親は神様みたいなものなの?」
「まぁ、そうなるわねぇ」
神様か。
そう言われると、神々しい感じがする。
カゲロウも息子なら、意外と神々しかったりするのだろうか?
僕はカゲロウを見つめる。
ぱっちりとした目は確かに母親に似ている。しかしまぁ、なんというか……。
「そうは見えないな」
「お前絶対に失礼なことを考えただろう」
「いや、別に」
カゲロウは目を細め、物言いたげな目をしていた。
「さて、私の息子――カゲロウちゃん」
「なんだ?」
「貴方が私を呼んだ理由はわかってるわ。でも、その前にちょっといいかしら?」
母親はゆっくりとカゲロウに近づき、頬に手を添える。
「……お仕置きよ」
僕がカゲロウに初めてあった時にしたのと同じように、母親はカゲロウの頬を思いっきりつねった。
「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」
……いや、同じではない。僕より力を入れている。
カゲロウは泣きながら暴れるが、母親は一切力を緩めない。
「ねぇ、カゲロウちゃん。人様に迷惑をかけちゃダメだって言わなかったかしら?」
「言ってました!」
「そうよねぇ、言ったわよねぇ。じゃあ、なんでアカシ君を妖の国に連れてきたのかしら。……そういえば、『連れてきたことに感謝しろ』って言ってた気がするのだけど、どういう意味かしら」
「ご、ごめんなさい!」
「ごめんなさいじゃなくて理由を聞いてるのよ。ねぇ、どうしてかしら?」
母親は笑顔だった。その笑顔が怖さをより引き立てている。
横を見ると、先程まで喧嘩していた二人が黙って立っていた。
心なしか顔が青ざめている気がする。
「――アカシが死ぬ直前に、走り回ったり友達を作ったり、人助けをしたいって思ってたから。そ、それなら、この国に来れば全部叶うと思って……ワレも人間に来て欲しかったから、丁度いいと思ったのだ!」
「ふーん、なるほどねぇ」
母親はやっと手を離す。
カゲロウの頬にはくっきりと、指の跡が残っていた。
「でもね、カゲロウちゃん。感謝しろはダメだと思うのよ。――そうは思わない?」
「思います」
「そうよねぇ。だったら、アカシ君に言うことがあるでしょう?」
カゲロウは涙目で僕の前まで来ると深々と頭を下げた。
「この度は勝手にこちらの世界に連れてきてしまい、申し訳ありませんでした。それから、感謝しろなんて言ってすみませんでした。感謝するのは私の方です」
一人称が変わるほど怖かったらしい。
実のところ、僕は別に怒っていない。生きている時には外にすら出られなかった僕が、元気に動き回れているのだから。
「別にいいよ、カゲロウ。怒ってないからさ」
「アカシ……!」
カゲロウは心の底から嬉しそうに顔を上げる。
「よかったわねぇ。アカシ君が優しい子で」
「あぁ、本当にアカシでよかった!最初は可愛い女の子が良かったのだが、なかなか居なくてな。『お前でいいや』なんて言って連れてきたのだが、お前で本当に良かったぞ!」
カゲロウは笑う。満面の笑みで笑う。
自身の後ろで口には笑みを浮かべながらも、目は一切笑っていない母親に気がつかずに・・・・・・。