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「オオカミ、お前も決めてもらったらどうだ?」
「いや、俺は……自分で考える」
僕には名付けてほしくないようだ。
賢明な判断だと思う。
「そうだな……。『大神』はどうだ?『オオカミ』の『カ』を変えただけだが、人間っぽくて良い名前だろ?」
オオカミは満足げに笑う。
「シャッシャッシャッ!『犬神』の方がよくない?」
突然独特な笑い声が聞こえた。
声のした方を見ると、少女がにやにやと笑いながらこちらの方に向かって歩いて来る。
少女は赤いリボンのついた黒いセーラー服を着ており、腰まで伸びた髪も同じように黒かった。
しかしそれとは対照的に白い肌をしており、リボンの赤がよく映えている。
普通の少女に見えるが、左側の頬にはうっすらと鱗が浮びあがっていた。
オオカミはその少女を見て、嫌そうな顔をする。
「お前、何の用だ」
「さぁ?」
「貴様……!」
オオカミは唸り声をあげる。
僕はどうしていいか分からず、頭上を見る。カゲロウはいつの間にか頭の上から降りており、雑草をちぎったりして遊んでいた。
「カゲロウ、あれほっといていいの?」
「ほっとけ、いつもの事だ。あいつらは顔を合わせるたびに喧嘩しておる。――犬猿の仲というやつだな」
「犬猿……。あの子はサル?」
「いや、蛇だ」
人間同士でも犬猿の仲という言葉使うし、使い方は間違っていないのだが……片方の見た目が犬であるため、若干違和感を感じる。
「そんなに怒らないでよ犬神さん」
「大神だ!」
「犬神の方が似合ってるよ。犬なんだから」
「犬じゃねぇって言ってるだろ!俺はオオカミだ!」
喧嘩は収束する気配がない。
カゲロウはチラリと横目で二人を見ると、ため息をつきながら立ち上がった。
「仕方ない。母上を呼ぶか」
「呼ぶって……どうやって?」
カゲロウは何も答えず、僕に向かって言った。
「母上、来てくれ」
「ぼ、僕に言われても……」
「貴方じゃないわ。私よ」
耳元で色っぽい声がし、肩に手を置かれる。
慌てて振り向くと、白い髪の綺麗な女性が立っていた。
「こんにちは、アカシ君」