5
僕は子供を頭にのせ、木造住宅の立ち並ぶ街をオオカミと共に歩いていた。
今から子供の家に向うらしい。
始めはいたるところにいる付喪神に驚き変な目で見られていたが、だんだん慣れ、今では普通に歩けている。
「ここが日本じゃないとすると、お前は一体ここをどこだと思っておったのだ?」
「まぁ、天国とかそういう類の……」
「ガッハッハッ!なるほどなぁ」
オオカミは大きな口で笑う。
「まぁ、お前さんが勘違いするのも仕方ない。地図には乗っていない場所だからな。――別次元とでも言えばいいのか?」
「いや、ワレは平行世界の方がわかると思うぞ」
別次元、平行世界……全然わからない。
「まぁ、難しく考えるな。お前さんが住んでいた世界のお隣さんだと思っておけ。山の上にある鳥居をくぐれば、お前さんがいた世界に行けるからな」
「え、僕がいたところに戻れるんですか?」
「戻れはするが……。人間としては戻れないな。それでも行きたければ、俺が一緒に行ってやるよ」
「ワレも行くぞ!」
そういえば、僕は死んだんだった。
自分があまりにも元気なため、死んだことを忘れかけていた。
僕は生きていた時のことを思い出すが、常日頃ベッドの上にいたため、あまり思い出がない。
でも、いつかは僕がいたところに行ってみたいな。……両親の様子も見たいし。
「じゃあ、行く時はよろしくお願いします」
「任せとけ!」
オオカミは自分の胸を軽く叩いた。
「そういえば・・・」
僕はふとあることを思い出す。
「今更ですが、お名前聞いていませんでしたね。――僕はアカシといいます」
僕が名乗ると、二人は顔を見合わせて困った顔をする。
あれ?聞いたらダメだった?
「あの」
僕が声をかけると、子供が申し訳なさそうな声で言った。
「すまんなアカシ。ワレには名前がない」
「え?」
「ワレだけではない。――妖には名前がないのだ」
「基本的に俺ら妖には親がいない。気がついたら妖として産まれていたんだ。だから、名付けるやつがいないんだよ」
オオカミは「悪いな」と謝った。
「じゃあ、普段はどうやって呼び合うんですか?」
「見た目で呼ぶぞ。ワレの事は皆『坊っちゃん』と呼ぶ。母上が『あねさん』と呼ばれているせいだろうな。ちなみに母上と父上はワレを『息子』と呼ぶぞ」
「俺は『オオカミ』だ。……『犬』と呼ぶクソ野郎もいるがな」
オオカミは大きな舌打ちをする。
余程犬と呼ばれるのが気に食わないようだ。
「しかしまぁ、そうだな。名前を今決めるのも面白いかもしれん」
子供は楽しそうに笑う。
「アカシ、ワレの名前考えてくれないか?なんでもいいぞ」
「僕が決めていいの?」
子供は大きく頷く。
「あぁ、よいぞ。是非かっこいい名前を」
「じゃあ、カゲロウで」
僕はさっさと決める。
「安直ではないか!?」
カゲロウは不満げだが、僕の場合こういうのはあまり考えない方がいい。
「昔、ゲームで主人公のペットの名前を決める事があったんだけど、決まるまで2時間かかった」
「2時間!?」
「さらに後日、名前が気に入らなくなって変更したんだけど・・・何になったと思う?」
「いや、わかるわけがないだろ。どんなペットかもわからんし」
「変更前はポチ」
「犬だな!ていうか、二時間考えてそれか!……で、変更後は何になったのだ?」
「いぬ子」
「名前を考える才能ゼロか!!」
「まぁ、そうなんだろうね。――カゲロウから変える?」
カゲロウは頭を抱えながら首を振った。
「カゲロウで良い。お前が考え直したところで『カゲ男』とかふざけた名前になりそうだからな」
僕は驚く。
「なんでわかったの?」
「……冗談で言ったのだが」
カゲロウは盛大なため息をついた。