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振り返ればあやかしがいる。  作者: アイザワ咲香
第零章 僕が死んだ日の話
4/12

 あれから僕は落ち込む子供を放置し、近くの茂みを散策していた。

僕は生前外に出たことは無く、本の情報しか持っていないのだが、この世界に特に変わったものはない。

ドクダミにツユクサ、ヘビイチゴ。遠くに見えるのはアジサイだろうか?


「なんというか、普通の田舎町って感じだな。……マンドラゴラとかあったら面白いのに」


 そんなことを呟きながら歩いていると、不意に茂みの中から黒い物体が現れる。


「なにこれ?」


 それは黒い霧を出しており、長い耳のようなものがついていた。

黒い靄を出し続けているため分かりづらいが、よく見ると小さな鼻がヒクヒクと動いている。


「……これ兎だ。ねぇ、これって――」


 これがなんの妖怪か子供に聞こうとしたが、相変わらず顔が青ざめており、教える余裕はなさそうだ。

兎は僕の足元で跳ね、こちらを首を傾げながら見上げる。


どうしよう、むちゃくちゃ可愛い。


僕は撫でようと手を伸ばした。


「触るな!」


 突然背後から怒号と共に斧が飛んできた。

斧は僕の足元に――兎に突き刺さる。

斧が刺さった瞬間、兎はグチャリと嫌な音を立て、霧が晴れるように消えた。

何が起こったのか分からず固まっていると、先程の声が近づいてきた。


「大丈夫か?穢れに触れようとするとは……産まれたばかりのガキか?」


 僕は振り返る。そして再度固まった。

声の先にいたのは……二足歩行で歩く灰色の犬だった。


「い、犬が歩いてる……」

「犬じゃない!オオカミだ!」


 オオカミは吠えるようにして文句を言う。


「よく見ろ!この鋭い爪!鋭い牙!!」


 まぁ、確かに犬と比べると強そうな気がする。でも……。


「どっちでもよいだろ。犬もオオカミも大差ない」


 僕が思っていたことを子供が代わりに言った。


「全然ちがう!……って、坊っちゃん?」


 オオカミは子供をみて口を開ける。


「よう、オオカミ。ここで何をしておるのだ?お前のテリトリーはここではないだろう」

「仕事だよ。最近穢れが多いから、見回りしてんだ。――で、坊っちゃんこそなにしんてんだ?」

「人間を連れてきたのだ」

「ほう、人間をねぇ……人間!?」


 オオカミは僕を二度見する。こんな綺麗な二度見は初めてみた。


「人間って……あぁ幽霊か。だが、妖の匂いもするな」


 僕に鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。


「どうやって連れてきたんだ?それに、俺は今まで幽霊と妖が混じったやつなんか見たことないぞ」

「あのー」


 僕は恐る恐る手を上げる。


「普通は居ないんですか?その、人間が――幽霊がここに来ることは……」

「そうだなぁ……全く無い訳では無い」


 オオカミは近くの石に腰を下ろし説明してくれた。


「お前さんは幽霊の事をどのくらい知っているんだ?」

「全く知らないです」

「そうか。――幽霊には二種類ある。普通に死んだ人間がなる霊体と、恨みなんかを持って死んだ人がなる霊体の二つだ。普通に死んだ人はそのまま輪廻転生を繰り返す。ここに来ることはないな。――ここに来るのは恨みを持って死んだ霊体だ」


 オオカミは斧が突き刺さっている場所を指さす。


「さっきの黒いのがそうだよ」

「あれ、人間だったんですか!?」

「あぁ。この国では『穢れ』って呼ばれている。ちなみに、穢れが集まってできた個体を『バケモノ』っていうんだ」

「バケモノ?」

「バケモノは目についたものを片っ端から襲うんだ。人間も――妖も」


「ワレはまだバケモノを見たことは無いのだが、かなり恐ろしいものだと聞いているぞ」


 ずっと黙っていた子供が口を開く。


「ワレが産まれる前に現れたらしいのだが、多くの妖たちが犠牲となりようやく倒すことができたそうだ」

「実は俺もまだ見たことがない。この国に住んでいなかったからな」


 オオカミは何かを思い出すように遠くを見つめる。が、目線は直ぐに僕の方へ戻って来た。


「いや、そんなことより俺が気になっているのは、お前さんから妖の匂いがすることだ」


 妖の匂い……。確かさっきもそんなことを言っていた。

僕は自分の匂いを嗅いでみるが、何の匂いもしない。無臭だ。


「嗅覚が優れてないとわからないだろうな。……普通人間はどうやっても妖にはなれない。妖になれるのは動物と物、あとは虫くらいだな」


「人間が妖になれない理由ってあるんですか?」


 僕の質問にオオカミは困った顔をした。


「わからん。俺は生まれつき妖だから、普通の動物がどうやって妖になったのかさえ知らないな。坊っちゃん――」

「知らんぞ。ワレも生まれつきだ」


 いや、僕を連れてきたのはあなたでしょ。

オオカミも同じことを思ったようで「いやいやいや」と言いながらポカンとした表情で、子供を見ている。


「ほんとにわからんのだ。ワレはただ霊体を捕まえたあと、神社をくぐってここに来ただけだ」

「そうか……。じゃあ、霊体をこっちへ送ると妖になるのか?」


 オオカミはお手上げだと、降参のポーズをとる。

子供も真似して手を上げた。


「ねぇ、ちょっと待って。ここって妖の国だよね?――この国があるのって、その……どこ?」


 二人は顔を見合わせ、仲よく首を傾げる。


「「日本だけど」」


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