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「悪かったよ」
僕はつねった事を素直に謝る。
「ワレは大人だからな。本来なら2発くらい殴ってやりたいが、我慢してやるぞ。ワレは大人だからな!」
子供は震える声で言った。目には涙を浮かべている。
ちょっとつねりすぎてしまったようだ。
「そ、それで、なんで僕をここに連れてきたの?」
異世界が気になりすぎて後回しにしていたが、なぜ連れてきたのかという質問は比較的重要なことだ。
決して話の流れを変えたかったわけではない。
「母上がな、『己を知れば成長するだろう』と言ったのだが、どうすれば己を知ることができるのか分からなかったワレは、父上に己の知り方を聞いたのだ」
「母親の方に聞かなかったのか?」
「母上は何かと忙しいのでな。――で、父上は言った。『己を知りたければ他者を知るのが良い』と」
「他者ってほかの妖怪で良かったんじゃ……?」
妖怪の成長を知りたいなら他の妖怪を知る方が良いに決まっている。
人間を知ったところで意味があるとは思えなかった。
「ダメだろう。だって、『他者』だぞ?」
子供は不思議そうな顔でこちらを見る。
「他者とは他人のことだ。他人は『他』の『人』と書く。『他 』の『妖』ではない」
……なるほど、なるほど。こいつはあれだ。
「馬鹿だなぁ」
僕はあきれ顔で言った。
「なんでだ!?」
「多分、お前の父親は周りの妖怪の事を『他者』と言ったんだと思うよ」
「え、そうなのか?」
「多分な。他者は人間を限定して指し示す言葉じゃないよ」
人間以外が他者と言うのを聞いたことないが、僕の考えが正しいと思う。
「そんな……。じゃあ、ワレはなんのためにお前を連れてきたんだ?」
顔が青ざめ始めた子供を横目に、僕はため息混じりに呟いた。
「そんなの僕が一番知りたいよ……」