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振り返ればあやかしがいる。  作者: アイザワ咲香
第零章 僕が死んだ日の話
2/12

 風が肌を撫で、草木を揺らしている。

僕はゆっくりと目を開けた。近くには井戸があり、その前で眠っていたようだ。


「……天国には見えないな」


 視界に広がるのは江戸時代を思わせるような風景だった。

木造住宅が立ち並び、遠くで小さな子供たちが走り回っている。空は曇っていて薄暗く、浮いている提灯が赤く道を照らしていた。


……浮いている提灯?


「えっ!なんで!?」


 おかしいのは提灯だけじゃない。よく見ると、子供だと思っていたのは子狐とひな人形だった。


「子狐はまだわかる。いや、おかしいけど!でも、ひな人形はもっと意味が分からない!」


 僕は混乱し、大声叫んだ。


「別におかしくはないぞ」


 頭上で声がする。――頭の上に誰かいる!


「誰?!――てか、全然重くない!」

「そりゃそうだろう。ワレの重さはほんの一グラムもないのだからな」


 頭の上からふわりと降りてきたのは、紺色の浴衣を着た五歳くらいの男の子だった。しかし、重さからして普通の子供ではないのだろう。

男の子は地面に立つと、腰に手をあてふんぞり返る。


「ワレがお前をここに連れてきたのだ!感謝するがよい!」


 ……僕は黙って子供の頬をつねった。


「痛い痛い痛い痛い!!!!何をするのだ!」

「それはこっちのセリフだ!」


 子供は必死に僕に手を振り払おうとするが、僕はつねる指に力を入れ離さない。


「おい、説明してくれ!ここはどこだ!」

「わかった!説明する。説明するから離してくれ!」


 僕は渋々子供の頬から手を放す。

子供は涙目で頬をさすり、僕を恨めしそうに見ながらも説明を始めた。


「ここは妖の国だ。付喪神や妖怪達が人目につかぬように暮らしている」

「妖の国……」


 僕は病院で読んでいた物語を思い出す。


「転生でもしたのか?」

「転生?――輪廻転生のことか?別にお前は生まれ変わったわけではないぞ。お前は死んでここに来たのだ」


「どういう事?」


「お前が死んで霊体になったところを、ワレが妖の国に連れてきたのだ。生まれ変わりではない」


 ……よくわからないが、とりあえず僕が死んだのは間違いないらしい。


「お前がここに連れて来たんだよな?何のために連れて来たんだ?」

「よくぞ聞いてくれた!とりあえず、ちょっとこれを見てくれ」


 子供は僕に背中を向け、肩甲骨の中心を指さす。


「これって……羽?」


 男の子の背中には僕の手のひらサイズの小さな羽が生えていた。鳥とか天使の羽ではない。


虫の羽だ。


「ワレの父上はウスバカゲロウの妖怪で、大きな虹色に輝くカッコイイ羽をもっているのだ。だが、ワレの羽はこれっぽっちしかない」

「年齢の問題じゃないのか?」


 子供は首を振る。


「いいや、ワレは今日で百歳だ」

「百歳!?」

「妖怪というのは、大体百年で立派な大人になるのだ。妖怪の中にも、好き好んで子供の姿のままでいるやつも居るが、ワレは違う。――なぜか成長しないのだ」


子供は一瞬悔しそうな顔をしたが、直ぐに顔を上げて僕を力強い目で見る。


「ワレは父上のような立派な妖になりたい。そのためにお前を連れてきたのだ!」


 話はわかった。しかし、妖怪の成長と僕に何の関係があるのだろうか。――いや、今はそれよりも気になることがある。


「僕を連れてきた背景はわかった。理由はまた後で聞くとして、一つ教えてほしい」

「なんだ?」

「お前が僕を連れてこなかった場合、僕はどうなる予定だったんだ?」


 『連れてきた』ということは普通、死後にここへは来ないのだろう。


「そうだなぁ……」


 男の子は腕を組み、首を傾げて唸る。


「普通に輪廻転生していたと思うぞ。そういえば、最近は他の世界の神様が、異世界に連れていくっていう話もよく聞くな」

「異世界?異世界って存在するの?」

「あるぞ」


 さも当然かのように答える。


「どこにあるのかは分からんが、鬼火を人が出したりするらしいな。あとは……えるふ?とかいう妖怪がいる世界もあるらしい」


 ……異世界って存在するのか。

火の魔法にエルフがいる世界ねぇ。


ふーん、そっか。


僕は子供の頬をつねる。


「異世界転生したかった!!!!」


 僕の悲痛な叫びと子供の悲鳴が辺りに響き渡った。

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